フリーアナウンサー・松本圭世が今、人気急上昇中だ。愛媛朝日テレビからアナウンサー人生をスタートし、フリーになった後はバラエティ番組にも出演してきた。そんな松本が、ついにブレイクするきっかけをつかんだのが、麻雀だった。昨年10月に開幕したプロ麻雀リーグ「Mリーグ」で、勝利した選手のヒーローインタビューのリポーターとして週4日出演すると、テンポのよさや的確な質問がファンから支持され、Twitterのフォロワーも急増した。「選手のキャラクターが立って、ファンが1人でも増えるインタビューコーナーにしたいんです」と語る彼女に、アナウンサーとしての矜持を聞いた。
スポーツ感をかなり強く意識して始まったMリーグ。試合でトップを取った選手に、勝因や、試合にかける思いを聞くのが松本の仕事だ。これまでもバラエティ番組の一種として放送された麻雀対局番組でも、勝者に聞く場面はあったが、これだけスポーツ感覚で質問するコーナーは、おそらく初の試みだろう。ここで松本が地方局、さらにはフリーになってからの経験がフルに発揮された。「麻雀のインタビュー、リポートっていう意識は全然なくて、他のスポーツと一緒だと思っています」と、プロアスリートに質問するように、要所の質問を確実にこなしていく。その技術は、アナウンス未経験者が見よう見まねでやるものとは、格段に違う。
1日2試合、1試合につき約5分だから、計10分。この時間のために、松本は各試合の状況から、実況・解説が話していた内容まで3~4時間、集中してとにかくメモを取りまくる。途中でどんなに大差がついていても、オーラスでの大逆転で勝者が変わる可能性があるからだ。「どこでどうなるか、わからないですからね。試合の流れは全部細かく書いて、自分が気になったことや、実況・解説が盛り上がったこともメモします。実況席で盛り上がった話は、やっぱりそこには選手の声を必ず入れなきゃいけないので」と、目と耳をフル稼働して、試合の締め括りとなるインタビューに備えている。
Mリーガー21人の中では、俳優としても活躍する萩原聖人が抜群の知名度を誇るが、その他の20人は麻雀業界では知らない者がいないほどのトップ選手であるものの、一般的な知名度はまだまだ。それゆえに、松本の役割は単に試合の要素を勝者に聞くだけでなく、新たなキャラクターやエピソードを引き出すところまでに及ぶ。試合後にTwitterで、自分と勝利チームの写真を撮って公開したところ、これが思わぬ反響を呼んだ。「週4日、フルでスタジオに入っている演者は私だけなので、全部を通して見ている私で何かできることはないかと、始めたんです。裏側も含めて、選手の良さを引き立たせるものになるかもしれないと思って。最初は適当だったんですけど、トップのチームが写真に写れるっていうのがご褒美みたいになって。たまたまですけど、リーグが盛り上がるきっかけのひとつになったならよかったです」と、今では写真の構図もいろいろとバラエティに富んできた。
番組を作るプロの1人として、うれしい瞬間があった。解説していたMリーガーの言葉をうまく受け取り、インタビューにいかせた時だ。EX風林火山の滝沢和典(連盟)は、美しい麻雀で定評があるが、解説席につくと選手ならではの情報を、本人は無意識ながら、絶妙なタイミングで入れてくる。これが松本にとって、実にありがたく、うれしいことだった。「KONAMI麻雀格闘倶楽部の佐々木寿人さんが勝った時に、英語や仙台の話をインタビューで入れられて盛り上がったことがあったんです。でもあれは、解説で滝沢さんが振ってくれたから。滝沢さんじゃないと仕入れられない情報、リポーターが拾える情報を、すごく入れてくださったんです。本職のアナウンサーみたいでしたよ!」と、興奮気味に語り出した。
スポーツ中継では、もちろん試合、さらにはそれを行う選手が主役ではあるが、番組として成立させるのは、実況、解説、そして選手に直接質問するリポーター。試合中、実況・解説が視聴者に向けて説明してきたことを、より深く聞くためにリポーターがいる。この連携がうまくハマった時が、リポーター冥利に尽きる。「この3人で盛り上げられた時の方が、番組というパッケージとしてすごくいいものになるんじゃないかなと思うんですよね」と、抜群のリレーをまた実現させたいと前のめりになった。
1年目のMリーグは、1月7日から再開し、いよいよ上位4チームを争う白熱の終盤戦を迎える。誰も経験をしたことがない“スポーツとしての麻雀”を伝える役目で、スポーツのリポート経験がある麻雀好きの女子アナが輝いた。「これからは後半戦になって、選手へのインタビューの質も全然変わってくるので、未知の世界ですね」。見えない世界の仕事を前に、松本の表情は不安どころか、むしろ新たな経験を待ち望んで楽しそうに見えた。【小松正明】
(C)AbemaTV