本番は、ここからだ。森保ジャパンは「負けたら、そこで終わり」の一発勝負に突入する。
32カ国が参加したアジアカップは、グループステージを経て半分に絞られた。グループFを1位で通過した日本は、ベスト16でサウジアラビア代表と対戦する。
アジアカップでは日本の4回に次ぐ3回の優勝回数を誇る強豪国。1984年から2000年までは5大会連続でファイナリストになっている。
日本とサウジアラビアの過去の対戦成績は8勝1分4敗。日本は大きく勝ち越しており、相性は決して悪くはない。
中東といえば、がっちりと守りを固めてカウンターを仕掛けるという戦い方をイメージする人も多いだろう。アジアとの戦いにおいて日本は、何度も中東勢のカウンターに苦しめられてきた。
ただし、サウジアラビアにそうした中東のイメージは当てはまらない。自分たちでボールを保持する時間を長くしようとしてくるため、お互いの良さを出し合う。
日本がサウジ戦で勝率が良いのはそうしたスタイルの噛み合わせによるところが大きい。
“アジアのブラジル”。サウジアラビアはこんな風に呼ばれる。黒人選手特有ともいえる、しなやかな身のこなしや、柔らかいボールタッチ、テンポのいいショートパスが組み合わさったサッカーは本家ブラジルとの共通点が多い。
チームを率いるのはスペイン人のファン・アントニオ・ピッツィ監督。2017年11月、W杯のアジア予選終了後に就任し、ロシアW杯を率いた。本大会では開催国のロシアとの開幕戦で0-5で大敗を喫したが、最終戦でエジプトに競り勝ち24年ぶりのW杯勝利をもたらした。
「トーナメントの試合は、負けたチームが帰国する。この試合は、選手たちにとって生死に関わる問題に等しい」
前日記者会見に登壇したピッツィ監督は、これがサバイバルマッチであることを強調した。
相性がいいとはいえ、日本は最大級の警戒をする必要がある。なぜなら、サウジアラビアはホームとアウェイで別人になるからだ。
不吉なデータがある。日本はアウェイでのサウジアラビア戦では1回も勝っていない。サウジアラビアの本拠地で行われた2006年9月のアジアカップ予選では0-1、2017年11月のW杯予選は0-1で敗れている。
今大会の開催地はUAEで、厳密にはホームではないが、中東開催であるアドバンテージがあるのは確かだろう。
2000年にレバノンで日本が優勝したアジアカップでは、サウジアラビアとの決勝を1-0で勝っているが、ピッチに立っていた元日本代表の川口能活は「1点取ったあとはずっと攻められっぱなしで本当に強かった」と振り返っている。
試合中にコーランが流れる、白装束の人間がスタジアムを埋める、無機質な建物が並ぶ街並み……といった中東にとって日常の雰囲気は、日本の選手にとってはちょっとしたストレスとなる。
アウェイのサウジアラビア戦に勝つために、日本の選手に求められるのはタフなメンタル。アジアカップに3回出場している長友佑都や吉田麻也といった経験者たちには、チームの精神的支柱としての働きが求められる。
今大会のノックアウトステージ(決勝トーナメント)の中で、アジア王者経験を持つ国同士が戦うのは、このカードのみ。“アジアのビッグマッチ”を制して優勝へと弾みをつけたい。
文・北健一郎(SAL編集部)