兵庫県明石市の泉房穂市長(55)が2017年6月、道路の拡幅事業で立ち退き交渉を担当する職員に対して吐いた暴言が一斉に報じられた。
29日に会見を開いた泉市長は「(発言は)パワハラであるだけでなくさらにもっとひどいものだと受け止めている」「非常に激高した状況で口走ってしまったセリフ。申し訳なく思っている。まさに自分のセリフ。弁明の余地もない」と陳謝した。
しかし、多くの新聞・テレビが報じていない市長の発言があると伝えたのが、地元紙である神戸新聞だ。泉市長の後援会のTwitterも、暴言音声には公開されていない部分があるとして「TVなどで流れていない最後の方を引用させていただきます」と、その部分を伝えている神戸新聞の記事を引用している。
29日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、「暴言詳報」として発言を掲載した神戸新聞の明石総局の藤井伸哉記者に話を聞いた。
■問題となった発言とは
まず、各社が報じられた泉市長の発言を振り返る。会見で市長自身も「間違いなく自分の声です。2017年の6月14日の夕方の市長室の中での出来事である形は自分でも覚えていて、まさに自分のセリフです」と述べたのは、次のようなやりとりだ。
市長「何をしとったんこの間。この間7年間遊んでたの? 何でこんなこと、分かってたこと7年前からやらんの?意味分からんけど。何もしてへん」
市長「してないや全然。してないでしょ?」
職員「はい」
市長「してたんですか?本当に。してないでしょ全然」
職員「金額の提示はしてなかった」
市長「してないじゃないですか!」
職員「はい」
市長「してないやないかお前!」
職員「はい」
市長「7年間、何しとってん!ふざけんな!何もしてないやん7年間」
職員「はい」市長「平成22年から何してた7年間、お金の提示もせんと。楽な商売じゃホンマお前ら」
市長は、さらに厳しい職員に浴びせる。
市長「アホちゃうかホンマに」(笑いながら)
職員「すみません本当に」
市長「すまんで済むかそんなもん!すまんで済まんそんなもん!立ち退きさせてこい、お前らで!今日火付けてこい!」
職員「はい」
市長「今日火付けて捕まってこいお前!燃やしてしまえ!ふざけんな!行ってこい壊してこい今から建物、損害賠償を個人で負え! 当たり前じゃ、はじめから分かっとる話を」
■「2人が行って難しければ、私が行きますけど。私が行って土下座でもしますわ。市民の安全のためやろ、腹立ってんのわ。」
泉市長の発言のきっかけとなったのは、明石駅の南にある明石駅前交差点の道路拡張工事の遅延の原因になっていた用地買収だ。この場所は4車線の道路が交差点を挟んで2車線と急激に幅が狭くなっており、渋滞の慢性化を招いているだけでなく、以前から事故も多発してきた。2002~2006年までの5年間で42件の交通事故が発生しており、2008年と2015年には死亡事故も起きている。
2010年に国交省・近畿地方整備局が拡幅工事を決定し、2012年に明石市が用地買収に着手。用地買収が36件、物件補償が27件あったが、暴言のあった2017年6月時点では、条件面で折り合わず、所有者が立ち退きに応じていないビル1棟を残すのみとなっていた。市長が"職務怠慢"だとして激怒したのは、この所有者との交渉についてだった。その後、用地買収は完了、工事も進められている。
藤井記者は「東西に抜けるにはこの道しかないこともあり、長年の課題として工事の完成を待ち焦がれていた市民も多い。当初の事業完成予定は、暴言のあった半年前だった。会見から得た情報では、そのビルの逆側から順に買収交渉をかけていっていたため、買収が後手に回ったという経緯があったようだ」と説明する。
そして神戸新聞が報じたのが、これに続く次の発言だ。
「ずっと座り込んで頭下げて1週間以内に取ってこい。おまえら全員で通って取ってこい、判子。おまえら自腹切って判子押してもらえ。とにかく判子ついてもらってこい。とにかく今月中に頭下げて説得して判付いてもうてください。あと1軒だけです。ここは人が死にました。角で女性が死んで、それがきっかけでこの事業は進んでいます。そんな中でぜひご協力いただきたい、と。ほんまに何のためにやっとる工事や、安全対策でしょ。あっこの角で人が巻き込まれて死んだわけでしょ。だから拡幅するんでしょ。(担当者)2人が行って難しければ、私が行きますけど。私が行って土下座でもしますわ。市民の安全のためやろ、腹立ってんのわ。何を仕事してんねん。しんどい仕事やから尊い、相手がややこしいから美しいんですよ。後回しにしてどないすんねん、一番しんどい仕事からせえよ。市民の安全のためやないか。言いたいのはそれや。そのためにしんどい仕事するんや、役所は」。
(「神戸新聞NEXT」より)
■「市長選を控えているので、憶測を呼ぶ時期であることは間違いない」
泉市長は東京大学を卒業後、NHKに入局。弁護士の資格を取得した後、2003年には衆議院議員となり、犯罪被害者や無年金障害者の救済など人権に関する法案の成立のため活動。当時は「世の中には泣き寝入りしかかっている人がたくさんいます。そういった方々に救いの手を差し伸べていきたい」とも訴えていた。明石市長に当選したのは2011年で、現在は2期目。子育て支援や、犯罪被害者支援の条例などを成立させ、全国的に注目を集めたこともある。
明石市では4月に市長選が予定されており、泉市長に加え、前職で現兵庫県議の北口寛人氏も出馬を予定している。
藤井記者は、暴言から1年半以上が過ぎたこのタイミングでの報道について、「詳しいことは分からないが、市長選を控えているので、憶測を呼ぶ時期であることは間違いない。前市長と現市長の戦いの中で影響は非常に大きいと思うが、選挙は複雑な構図もある。色々な憶測が飛び交っているし、単純に判断するべきではない。そのことも含めて慎重に判断した結果、神戸新聞では前後の発言も乗せることにした」と話す。
「センセーショナルな部分だけでなく、何を言いたかったのか、周辺も含めた取材をしないといけない。発言自体は許されないことだと思うが、言葉尻だけを切り取って伝えると、報道としての公平さを欠くというか、市民の方の判断材料にならないと思った。他社がどういうデータを入手したのかはわからないし、短いものしか入手できなかった可能性もあるが、私たちは幸い全体像がわかるものを入手できたので、きちんと伝えようと思った」。
また、地元のリアクションについて藤井記者は「市役所には約380件の電話やファックスが寄せられ、9割ほどは"辞任しろ""犯罪的だ"といった否定的な意見だった。一方、駅前などで有権者にインタビューしたところ、"言葉としてはダメだが、頑張っている方であるし、熱い思いから暴発してしまったのかな"と擁護する意見も一定数あった」と明かした。
■小籔千豊「もう一回チャンス、というのが前向きではないか」
市長自身がパワハラだと認めているこれらの発言について、スタジオでは様々な意見が出た。
イラストエッセイストの犬山紙子氏は「言葉の暴力については絶対にダメだと思う。ただこれで一発アウトにするのではなく、アンガーマネジメントやハラスメント対策をした上で、もう一度挑戦するチャンスがあってしかるべきだと思う。すごく良いことをこれまでされていて、力のある方なので」、お笑い芸人の小籔千豊は「関西の中でもキツめの家庭で育った僕としては、"責任感が薄いねん、それくらいの覚悟を持ってへんからや"という裏返しだと感じた。でも、世間ではそう受け止めない人が多いと思う。今回の言葉はあかんから、もう二度と政治家すんなという人もいるかもしれないが、次言うたら政治家なし、けど、もう一回チャンス、というのが前向きではないか」とコメント。
経済評論家の上念司氏は「例えば塾であれば問題のある生徒を退塾させられるが、学校の先生は辞めろとは言えない。市役所も同じで市長は職員をクビにできない。今回の騒動もそんな中で暴言を吐いてしまったのかなと思う」と指摘。リディラバ代表の安部敏樹氏は「関東と関西でも受ける印象はだいぶ違うと思うし、どこまでが政治的に正しい言葉遣いなのかは難しい面がある」とした上で、「役所や学校の人事権は独特で、ペナルティの権利を持たない状態で手のかかる部下を見ていくのは現実的に難しい。本当に職務怠慢があったとして、もし人事権が柔軟だったら状況は違ったのではないか」と推測した。
泉市長は29日の会見で辞任の意向は示さず、進退に関して「辞職に関しては2カ月後に統一地方選挙が迫っている状況なので、今回のこの一連の事も含めて明石市民の皆さんにご判断を仰ぎたいと思っている」としている。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
※文中、前職の北口寛人氏について、当初「2011年の選挙で破れた」としていましたが、北口氏は2011年の市長選には立候補していませんでした。お詫びして訂正いたします。
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