28日の施政方針演説で、安倍総理は「女性も男性もお年寄りも若者も障害者や難病のある方も全ての人に活躍できる機会を作ることができれば少子高齢化も必ず克服できる。平成のその先の次代に向かって一億総活躍社会を皆さん共に創り上げていこうではないか」と述べた。
そんな今国会で注目されているのが、いわゆる「LGBT関連法案」だ。社会の関心の高まりを受け、検討そのものは3年前から行われてきたものの、議論はなかなか進んでいないのが現状だ。2015年3月、超党派の「LGBTに関する課題を考える議員連盟」が発足、翌年2月には自民党が「性的指向・性自認に関する特命委員会」を立ち上げ、理解促進法案の概要をまとめた。さらに同年5月には野党4党が差別解消法案を国会に提出したが、自民党は党内から異論が噴出、法案提出は見送られている。
29日のAbemaTV『AbemaPrime』では、与野党議員と当事者を招き、論点を整理した。
■「野党案はペナルティの法案ではない」
まず、与党・自民党の基本的な考え方には、「カムアウトできる社会ではなくカムアウトする必要がない、互いに自然に受け入れられる社会の実現。現行の法制度を尊重しつつ、網羅的に理解増進を目的とした施策を講ずることが必要」「学校の教職員、スクールカウンセラー、医師や看護師、自治体の職員などに理解の促進を図る」といった点が挙げられる。
自民党の橋本岳衆議院議員は「まだ法案の骨子を揉んでいる最中だが、大まかに言えば、まず様々なセクシュアルマイノリティの方がおられることを社会が認識することが大事で、その理解増進のための政策を計画立てて作るよう、政府に対して義務付けるというものだ。具体的には教職員や学校カウンセラー、医師や看護師、自治体職員など、相談を受ける立場の人が適切に対応できるようにするといったことを目指すことになると思う」と説明する。
「まだ党として決定できていない状況なので、先生方にご説明に上がることもあるが、"外ではその話はしない方がいいかな"、というような話をされる方もいる。逆に言うと、自民党の中でもそういう事態に直面しているので、まず理解をして頂くところから始めないといけないということをしみじみと思っている」。
一方、野党5党が共同で提出した法案には「行政機関等(国や地方公共団体等)や事業者は性的指向または性自認の差別的取扱いの禁止」「行政機関等や事業者は性的指向または性自認の社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的配慮の義務」といったことが定められており。事業者には「実施に伴う負担が過重でない時は」という条件付きの努力義務が盛り込まれている。
具体的には雇用面で「労働者に募集及び採用で均等な機会の提供。雇用後の各場面における差別的取扱いの禁止。必要かつ合理的な配慮の努力義務」、学校現場には「学校長は教職員、児童や生徒らに理解を深める措置をとる(研修、普及啓発、相談体制の整備等)」を挙げており、勧告に従わなかった場合は「事業者や使用者または学校長等を公表する」としている。
立憲民主党の西村智奈美衆議院議員は「野党の法案の説明をする時に"罰則がついている"という、少し間違った説明がされることがあるが、決してそういうことではない。勧告に従わなかった場合の公表に至るまでには、いくつかの段階があり、すぐにペナルティがあるわけではない。ここは男女雇用機会均等法などの事例を参考にやっていくことになると思う。実際に当事者たちが学校でいじめを受けたり、就職の時に差別を受けたりしている。現実的な社会の状況も見ながら、現に生じているそういった困難を解消するための方策を考えようということで作ったのが今回の法案だ。また、法律をまず作ることで、意識を変えていこうというためのもので、誰がLGBTかを特定しなくてもいいものになっている」と説明した。
西村氏の話を受けて、橋本氏は「実態としてゲイやレズビアン、トランスジェンダーの当事者の方々が色々なご苦労を抱えておられることは、私たちも受け止めているつもりだ。男女雇用機会均等法の話が出たが、労働基準法、教育基本法など、色々なところで性別による差別は基本的に禁止されている。私たちの考え方としては、さらに性的指向や性自認に関する差別も同じように禁止をされているという立場だ。そのことを実態的に解決するために、3年前に政府に対し要望を32項目に渡って出した。例えば苦しんでいる子が、担任の先生、保健室の先生、誰かに打ち明けて、その上で学校としてどう対応するか。その体制すら整っていなければその人が抱え込んでしまう。私たちは3年前に政府に申し入れをし、文科省に性同一性障害、性自認、性的指向で悩んでいる子どもたちに対して、学校現場できめ細やかな対応をしてくださいという通達を出してもらっている。スクールカウンセラーに知識をつけてもらうようなお願いもしていて、実際に動いている。ただ、それは政府の中の動きなので、国民の皆様にもまず知ってもらうところから始めて頂きたいというつもりで法律を作っている。野党の皆さんが提出された案は、努力義務だが義務を課して、かつそれに従わなかったら、指導が入るということになっている。しかし、どんなことを差別だと認識するのか、何に気をつけなければならないのかということが分からない。そういうところをもっと明らかにして頂けると、議論がしやすいと思う。アプローチの違いだと思う」と話した。
■同性婚をめぐるスタンスの違いも浮き彫りに
自民党案に対して指摘されるのが、「現行の法制度を尊重しつつ」という箇所だ。レズビアンであることを公表しているタレントの一ノ瀬文香氏は「私は自民党案にも野党の法案にも期待しているが、自民党が"寛容な保守"をアピールしながら同性婚を認めないというのは、家族のあり方に関しては不寛容で、矛盾を感じる」と指摘する。「私は婚姻という選択肢があることが大事だと思っている。もちろん同性愛者の中でも婚姻したくない人もいるだろうが、選択肢がないという時点で不当な扱いを受けているということ。特権的ではなくあくまで平等な扱いを求めている。2月14日に正式に提訴する同性愛カップルがいるが、その方たちは同性婚ができないことを憲法14条の性別を理由に差別してはならないという規定に違反していると主張している。私もそう思っている」。
これに対し、西村氏は「同性同士だから婚姻できないというのは、属性から出てくる差別的な取扱いだと私たちは思う。だから今の話は賛成だと思いながら聞かせて頂いた。同性同士のカップルが結婚できないというのは、ある意味差別的な取扱いなので、可能にしたい」と賛同。
橋本氏は「自民党の考え方は、同性婚についてまず日本国憲法上の"両性の合意"というのを考えるべきではないか、という立場だ。総理は"憲法24条は、婚姻は両性の合意のみに基づいて成立すると定めており、現行憲法のもとでは同性のカップルに婚姻の成立を認めることは想定されておりません"と答弁している。想定されていないだけで、ダメとは言っていない。私たちも同性婚について否定するつもりはないが、現時点では当事者も含め色々な方々のご意見を聞いて少し議論が必要だということ。異性婚も同性婚も婚姻にするという方法や、パートナーシップ制度という方法もある。また、婚姻という名前はつかないが、権利と義務があるような、別の制度を作ろうという議論もあっていいと思う。国民の皆様の議論によって、こうしようという大きな方向がまとまるといいと思う。そのためにも、理解をしてもらうのが第一歩になると思う」との考えを示した。
一方、男性パートナーと15年にわたって生活しているという日本セクシュアルマイノリティ協会の大坪力基氏は「率直に与野党の方々がこうした問題に取り組んでくださっていることはうれしく思う。私たちは社会に紛れて生活しているので、普段から声を上げることはないし、それぞれ意見も違う。その中の一人の意見に過ぎないが、僕はゲイで生まれたことを誇りに思っている。すごく楽しいし、幸せだ。もし生まれ変わるなら、絶対にゲイがいいと決めている。私はそうやってポジティブに捉えている。そういう感覚で法案の"差別"という言葉を見ると、"この法律ができたら被差別者になるのかな"とも思う。ホテルに泊まりに行った時に事業者が"この人は当事者の方だから慎重に扱わないとダメだ"と腫れ物を触るように扱うのかと考えると、"マジか"と思う」と心境を明かす。また、同性婚をめぐる議論については、「婚姻制度には税金、年金、保険、相続などで色々な"特典"が付いている。一例を挙げれば、国際結婚をしている方は配偶者のビザが取りやすいが、我々の場合はパートナーに取ってあげることができない。私たちは"婚姻"という名前が欲しいわけではなくて、それに付随する実益が欲しい。そこを考えてくれるとうれしい」と訴えた。
イラストエッセイストの犬山紙子氏は「私はヘテロだと思っているが、親しい友だちにもいる。娘がそうかもしれない。全員にとって他人事ではない。友人のレズビアンの女の子にパートナーができたと聞いてすごくうれしいかったが、実はそのパートナーはずっと男性と付き合っていた方だった。彼女は"自分のせいで、相手が結婚できる未来を潰すのではないか"とい悩んでいる。しかし、これは本来抱えなくていい苦悩なのではないか。自分の大事な人の未来を自分のセクシャリティのせいで奪ってしまうというのは平等ではない」とコメントした。
■「法案自体はどちらも同じ方向を向いていると思う」
今後の議論について一ノ瀬氏は「LGBTという言葉を使うから特権的に感じると思う。全ての人にセクシャリティがある。セクシャリティ平等扱い法案とか。LGBTという言葉の方が分かりやすいかもしれないが、全ての人が平等に扱われたいということでそういう名前に変えてほしい。同性婚の問題や選択的夫婦別姓、戸籍変更要件など、もっと具体的に困っている人を助けられるように議論を進めてほしい。法案自体はどちらも同じ方向を向いていると思うので、ドッキングさせ、いいものを作って頂きたいと思う」と話す。
西村氏は「"LGBT差別解消法"は略称で、性的指向・性自認による差別を解消するための法律案という言い方にしている。セクシャリティ平等法案、とてもいい提案だと思う。与党から提案して頂いた政府への要望はすごく良かったと思うが、単年度予算で終わっていたら、継続する形にならない。法案を出して頂いて、野党の法案とすり合わせができるところがあれば、一緒にやっていきたいと思っている。情報のない分だけ、地方の子どもたちはより深刻だ。そういう所に情報を届けるという点でも、国や自治体が計画やガイドラインを作って取り組んで頂くことが必要だと思う。そういう仕組みを整えることで、意識を変えていきたい」とコメント。橋本氏も「それはこちらも同じで、性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解増進に関する立法にしている。やはり、まずは自民党をまとめないといけないというのが大前提なので、あまり大きなことは言えないが、もちろん私としては国会できちんと議論できることを望んでいる。そのために頑張りたいと思っている」と応じた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)



















