「これでダメなら、国民はさらに国外に脱出する」”2人の大統領”で緊迫するベネズエラ情勢、次の日曜日がヤマ場か
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 南米ベネズエラで、同時に2人の"大統領"が出現するという事態が発生している。

 今月23日、最高裁判所を支配下に置くなど、独裁を続けるマドゥロ現大統領の退を求め、野党の指導者でもあるグアイド国会議長が「大統領として国家行政の権限を引き受けけることを正式に宣言する」と、"暫定大統領"就任を宣言。これをアメリカをはじめ、10か国が承認した。

 対するマドゥロ大統領はトランプ大統領よ、ベネズエラに干渉するな。今すぐ手を引け」と牽制、「アメリカの全ての外交官たちに72時間以内にベネズエラを退去してもらう」と叫び、国交断絶を宣言した。しかしアメリカのポンペオ国務長官は「マドゥロ大統領に国交を断絶する権限はない」とこれを拒否。対立が深まっている。

 そんな反米路線を取るマドゥロ大統領の背景に見え隠れするのが、大国ロシアと中国の影だ。ロシアは昨年12月、ベネズエラに核兵器搭載可能な爆撃機を派遣したとも報じられており、ベネズエラを足掛かりにアメリカを揺さぶる狙いがあると見られている。また、昨年マドゥロ大統領は北京を訪問し、習主席と会談。中国は深刻な経済危機が続く同国への経済支援に乗り出している。

 かつては報道の自由や、民主的な政治体制から「中南米の民主主義の優等生」とも呼ばれていたベネズエラで何が起きているのか。専門家に話を聞いた。

■チャベス→マドゥロ路線の恩恵を受けてきたキューバの思惑

 北はカリブ海、大西洋に面し、南はブラジルと国境を接するベネズエラ。面積は日本の約2.4倍で、人口は約3102万人。公用語はスペイン語だ。"天空の秘境"と言われる「ギアナ高地」など、雄大な自然が広がり、平原地帯では日本でも大人気のカピパラが生息する。埋蔵量世界一を誇る豊富な石油資源が人々の暮らしが支えられており、"美人産業"も盛んで、ミス・インターナショナルで優勝8回、ミス・ユニバースでも優勝7回を誇っている。日本人にも馴染み深いのが野球だ。ラミレス、ペタジーニ、カブレラなどのプロ野球選手を輩出してきた。

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 ジェトロ・アジア経済研究所の坂口安紀氏は「ラテンアメリカのほとんどの国が軍事政権だった80年代にも民主主義を守り、国政も安定していたのがベネズエラだった。石油産出国なので国民の生活もそれなりに良かったが、対外債務危機を迎え、パイの取り合いが始まった。そして二大政党制が安定すぎていたために、特に左派勢力の声を代弁する人がいなかった。これがチャベス前大統領への支持に繋がっていった」と話す。

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野球を愛し、野球のために首都カラカスの士官学校に進んだというチャベス前大統領は、のちに軍事クーデターを主導し失敗、収監されたこともあるという人物だ。しかし世論の支持を受け、1999年には大統領に就任すると"21世紀の社会主義"建設を標榜し反米路線に舵を切り、石油開発企業などの国有化や社会福祉事業の乱発し財政を悪化させた。

 「動物的な政治の勘がある人で、ブッシュ元大統領を"悪魔"呼ばわりしたことでも有名だ。役者でカリスマ性があり、大統領就任時は支持率が8~9割に達するなど、国民の期待も高かった。しかしとてもワンマンなところがあり、2年くらい経つと支持率も下がり、クーデターまで起きた。さらに石油価格が上がった貧困層向けアパートを全国に作ったり、中国から安く買った白物家電を配ったりという、ものすごいバラ撒きをした。そのアパートには"プレゼントだ"と、自分の似顔絵やサインがあったということなので、人間的にはすごく面白い」。

 そんなチャベス大統領は2012年、後継者にバスの運転手という経歴を持ち、外務大臣を務めていたマドゥロ大統領を指名し、翌年に逝去する。

 「他に何人もの候補がいた中、なぜマドゥロを指名したのか。そこにはキューバのアドバイスがあった。ソ連崩壊後、経済が悪化していたキューバを支えたのが、チャベス前大統領が送った石油だった。これが途切れると困るキューバとしては、チャベス前大統領の路線を忠実に守ってくれるのはマドゥロだと考え、後押しした。マドゥロは10代のころキューバで思想教育を受けており、キューバに対する思い入れもあるし、社会主義に対する彼なりの理解と彼なりの気持ちがある。キューバとしてもコントロールしやすい人物だった」。

■選挙結果か憲法か

 しかし、ベネズエラの深刻な経済危機はマドゥロ政権下でも続いていく。首都カラカスは「世界一危険な首都」と呼ばれ、殺人事件の発生件数は人口10万人あたり100件。ハイパーインフレが発生し、国民の10分の1が国外脱出を図っている。

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 「今の経済危機の原因はマドゥロ政権の失敗によるものだとか、2014年以降に石油価格が落ちたからだという言われ方もするが、私はチャベス前大統領が作った経済モデルの失敗と、その負の遺産をマドゥロ大統領が引き継いでいるからだと考えている。最新の数字ではインフレ率が169万%。外貨が無くなり、お金を刷ることで財政赤字を埋めてきたからだ」。

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 タレントのパックンは「トイレットペーパーを買うのに、それよりも多い量の札束を持っていかないと行けない。もうお札で拭いたほうが早いくらいだ。チャベス政権以降、軍が政治に近づき、腐敗していった。マドゥロ政権の基盤にも軍にあるので、政権が変わればそういう腐敗が露見してしまうという事情もある」と話す。

 そして今月10日、マドゥロ大統領の2期目がスタートする。すぐに首都・カラカスではマドゥロ退陣を叫ぶ数万人規模の反政府デモが発生。少なくとも40人が死亡、850人が拘束された。マドゥロ政権のサーブ検事総長は、反政府活動に関わったとして野党指導者のグアイド国会議長に対する予備捜査の許可の他、出国禁止・口座凍結を要請。最高裁もその日のうちに許可した。

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そんな混乱の中行われたのが、グアイド国会議長による"暫定大統領"就任宣言だったのだ。

 「マドゥロ大統領は自らが有利になるよう選挙を半年くらい前倒しにしたのに加え、反政府派の主要候補を政治犯として逮捕したり、被選挙権を剥奪して立候補できなくしたりした。ベネズエラはチャベス時代から三権分立にはなっておらず、司法や選挙管理委員会なども大統領によって支配されてきた。だからこそ、どう考えてもおかしい大統領選挙でも問題なしとされたし、最高裁も問題なしという判断をした。アメリカだけでなく、カナダ、ヨーロッパ諸国、日本などは、この選挙は条件を満たしていない、民主主義および憲法秩序を無視するものだという姿勢を見せたが、マドゥロ大統領側は正統性があると主張、任期の期限である10日に就任を宣言した。これに対して反政府派は、10日以降は大統領がいないはずだと反論、憲法に定められている通り、大統領不在の場合には国会議長が暫定大統領になり、大統領選挙を準備すべきだとしている。そのため、国会議長に任命されたばかりグアイドが暫定大統領となり、新たに選挙を行おうとしているということだ」。

 その上で坂口氏は「歪んだ選挙に参加することはできないと反対派はボイコットしてしまったが、だからこそマドゥロ大統領側としては、"その選挙の結果、自分は再選した"と正統性を主張している」と説明した。

■日本時間の日曜日に大きなヤマ場を迎える

 そんな中、軍事介入を示唆していると報じられたのがアメリカ。AFP通信は28日、会見に臨むボルトン大統領補佐官のノートに「兵士5000人をコロンビアに」(コロンビアはベネズエラの隣国)という走り書きがあったことを目撃したと報じている。当のボルトン補佐官は、軍事介入の可能性について「トランプ大統領の立場は明確。すべての選択肢がテーブルにのっている」とコメントしている。

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 国際ジャーナリストの春名幹男氏は「去年、ロシアの爆撃機、輸送機、普通の民間旅客機と、あわせて4、5機の航空機による軍事演習が行われた。ロシアがベネズエラを支持するという威嚇だ。これに対してトランプ大統領は"軍事的オプションもあるんだ"と言っている。ただ、問題はやはりお金なので、国内のベネズエラ資産を押さえてしまった以上、出るものがなくなるだろうということになると思う。やはり絵を描いているのは海外への介入賛成派であるボルトン補佐官だと思う。トランプ大統領は前大統領がやってきたことを批判して、アフガニスタンからも撤退しようとしているし、シリアからも撤退させると言った。イラクにも当然送らない」との見方を示し、「ロシアがベネズエラ基地をつくるという憶測もあったが、それもないだろう」とコメントした。

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 坂口氏も「今の状況はアメリカとロシアの代理戦争というより、95%はベネズエラ国内の不満だ。アメリカと対立するロシアについても、ベネズエラに関しては、経済的な利害を守るためという理由が大きい。投資や貸したお金が焦げ付いているので、マドゥロ大統領が倒れたら返ってこないのではないかという不安がある。新政権が借りた分を返すとほのめかせば、アメリカとの対立関係を理由に、今の姿勢を続けることはないだろう。中国も同様で、言葉ではマドゥロ政権を支持しているが、お金を貸すのには慎重になっている」と指摘、「キューバ危機の再来はない」との認識を示した。

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 また、今後について坂口氏は「マドゥロ大統領は追い詰められ、今度こそアウトだと思っても、粘り腰で戻ってきた。しかし今回は政権交代に繋がるかもしれないし、少なくとも大統領選挙を実施する可能性は高くなっていると思う最後のワンプッシュは、アメリカ国内にあるベネズエラの国営石油会社の資産を凍結したことで、マドゥロ政権にお金が入らなくなったことだ。おそらく日本時間の日曜日に大きなヤマ場を迎えると思う。ヨーロッパ諸国はこの日までにマドゥロ大統領が選挙をすると言わなければ、グアイドを正式な大統領として承認するとの立場を示している。これをどういうふうに乗り越えるかだが、もう戦うよりも国外に出る、ということで何百万人か脱出している。これでもダメなら、反政府派の国民はさらに無力感にさいなまれ、国外へ出る人はますます増えるだろう。飛行機でアメリカに出られる層はとっくに出ているし、貧しい人も徒歩で脱出すると思う」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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