スパイク・リー監督最新作『ブラック・クランズマン』のジャパンプレミア試写会に、映画評論家の町山智浩氏が登壇し、トークショーを行った。

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 『ブラック・クランズマン』は、1979年に黒人刑事が過激な白人至上主義団体KKK(クー・クラックス・クラン)に潜入捜査するという、大胆不敵な事件を克明に綴った同名ノンフィクション小説を鬼才スパイク・リー監督が映画化した作品。第91回アカデミー賞®ノミネーション発表では、作品賞、監督賞、助演男優賞、作曲賞、編集賞、脚色賞と6部門にノミネートされる快挙を果たした。

 「『ブラック・クランズマン』で描かれるのは今、アメリカで起こっている現実だ」と本作を評する町山氏。本作の描いている“アメリカの現実”とは?スパイク・リー監督の意図とは!?

 映画に登場する黒人のアフロスタイルを真似、アフロのカツラをかぶって登場した町山氏は、「僕が子供のころはアフロヘアーが流行っていましたね。1970年代に世界中でいろんな人種の人がアフロヘアーにしていた、この映画はそんなブラックパワーがあった時代の話です」と語った。

 映画の冒頭、「アメリカはかつてグレートだった。」と話す白人至上主義の学者ボーリガードを演じているのはアメリカテレビのバラエティ番組『サタデーナイト・ライブ』でドナルド・トランプ大統領のモノマネをしているアレック・ボールドウィン。「つまりこれは『アメリカをもう一度グレートにする』と発言しているトランプを茶化しているシーンです」と解説。

 次に、劇中ロン(黒人刑事役のジョン・デヴィッド・ワシントン)とパトリス(ロンの相棒役のアダム・ドライバー)の会話に出てくるブラックスプロイテーション映画について、「72年はブラックスプロイテーションの最盛期でした。世界ではブラックパワーブームがあって、黒人が最高にかっこいいという価値観の逆転がありました。格好良い黒人が白人を倒す映画がたくさんあり、次第に白人がお金儲けのために黒人の映画を撮っていました。それがブラックスプロイテーションです。エクスプロイテーションは搾取するという意味の言葉です。『黒いジャガー』(71年)と、『スーパーフライ』(72年)どっちが格好良い?という話が出てきたと思いますが、スーパーフライは麻薬の売人なのになぜかヒーロー扱いされていて、黒いジャガーは黒人の私立探偵。この二つがその時代の黒人映画のヒーローでした。映画に出てくるパトリスはブラックパワーに傾倒している女子大生ということで登場しますが、実在はしません。アンジェラ・デイヴィスというブラックパンサーのリーダーだった女性指導者がモデルです。アフロヘアーを女性がやるようになったのは、アンジェラ・デイヴィスが黒人であること、アフロヘアーであることは格好良いだと、これが美しさだと主張してきたからです。黒人であることを誇りに思えという警鐘から、『ブラック・イズ・ビューティフル!』が大流行語になりました」

 続けて「国家に対して黒人の権力を主張する運動をやり始めたのがブラックパンサーでした。黒人のファッションセンスを白人や日本人が真似しだしたり、ソウルミュージックの流行で、世界的なブラックブームが72年に起こっていました。『ブラック・クランズマン』は78年にあったことを72年に時代をずらして作っているのはそこに起因しています。スパイク・リー監督はコメディみたいに演出したり、ドキュメンタリーのように演出したり、自由自在な編集をしてそれぞれのシーンを自由奔放に描きました。でも最後はリアルの映像をぶつけていて、これはルールがない映画だと思いました」と当時のブラックブームの背景とそれを映した本作について語った。

 実話という本作については、「KKKを警察が潜入捜査すると思いますか?おそらくはなかったと私は思います。ロン・ストールワースがKKKに入ったことはあったと思うけど、最後のシーンについては脚色されています。監督は自由に撮っています。今回アカデミー賞の脚色賞にノミネートされていますが、あまりにも自由でそれが評価されたんでしょうね。その中でも驚くべき事実であるのは、黒人であるロン・ストールワースが、KKKの最高幹部であるデビッド・デュークを警備したということ。意外にもデビッド・デュークが電話出たのも事実です。監督は事実に脚色を混ぜて面白くなるように話を作っています。ただ、KKKの指導者であったデビッド・デュークがトランプを支持していることは事実です。KKKに支持された人が今のアメリカの大統領になってるんです。それが一番恐ろしいことです」と映画から見る、今起こっているアメリカ、そして世界の危機について語った。

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 また、劇中の白人の描かれ方については「この映画あまりにも白人がバカに描かれていると思いませんか?」と観客へ問いかけます。「不公平だ、ひどすぎると思いませんか?僕はかわいいなと思いましたけど。これはブラックスプロイテーション映画の逆パターンなんです。ブラックスプロイテーション映画で、黒人がバカに描かれていたことに対する反動なんです。黒人俳優は常に臆病者で気が弱くて、ずるい人として描かれていました。ジム・クローというキャラクターを演じるために白人男性が顔を黒く塗って、臆病者を演じたら、それがすごく人気になってしまって、それから黒人のステレオタイプが作られてしまいました。なかなか日本人にはわかりにくいところなんですけどね」と解説。

 そして、ユダヤ人とKKKの関係性については、「KKKを讃える映画だった『國民の創生』(1915年)が大ブームになった時KKKの敵は黒人ではなくユダヤ人でした。その頃アメリカには新移民が入っていました。彼ら(移民)の共通点はプロテスタントじゃないことで、KKKの一番の恐怖は非プロテスタントの人口増加でした。その頃KKKは正式な政党として各州でかなりの議会の議席を取っていて大きな反移民グループとして政治的な計画を取るようになりました。なのでこの映画にもユダヤ人という問題が大きく出てきます」と話した。

 加えて、「なぜ今この映画を作るのか、その背景にはやはりトランプ大統領が政権を握る社会が関係しています。トランプ大統領自身が政治的権力を得るために白人至上主義者の味方についたのは本当の話です。2017年8月、ヴァージニア州シャーロッツヴィルで開かれたユナイト・ザ・ライト集会で、行進する白人至上主義者の一人が自動車で反対デモに突っ込み、ヘザー・メイヤーさんを轢き殺した時、トランプ大統領は『どちらの側も悪かった』と言いました。この映画では白人至上主義者を非難しないトランプ大統領が叩かれています」と映画の本質を語った。

 エンドロールで使用されているプリンスの曲『Marry Don’t You Weep』については、「これはゴスペルで黒人の聖歌です。エジプトでユダヤ人たちが奴隷になった時の歌。今は辛くても、また正義がなされる時が来るという歌でアレサ・フランクリンがずっと歌ってきた歌でした。途中漫画のようなコミカルなシーンもあったこの映画の最後に『Marry Don’t You Weep』を流し、現実を突きつける。笑ったり泣いたり怒ったり感情の起伏の激しいスパイク・リー監督らしい映画だと思いました。今までスパイク・リーは、たくさんのヒット作を生み出しているにもかかわらず、アカデミー賞にはなかなか呼ばれませんでした。ハリウッドに受け入れられてこなかったんです。しかし、今年のアカデミー賞は作品賞のノミネート8作品のうち『ブラック・クランズマン』を含む黒人を題材に描いた作品が3作も入っています。マイノリティーを描いた作品がたくさんアカデミー賞に選出され、時代が大きく変わったなと思います。僕は監督賞をスパイク・リーにあげたいですね」と近年のアカデミー賞の傾向の変化を踏まえ、スパイク・リー監督へエールを送った。

ストーリー

 1970年代半ば、アメリカ・コロラド州コロラドスプリングスの警察署でロン・ストールワースは初の黒人刑事として採用される。署内の白人刑事から冷遇されるも捜査に燃えるロンは、新聞広告に掲載されていた過激な白人至上主義団体KKK(クー・クラックス・クラン)のメンバー募集に電話をかけてしまう。自ら黒人でありながら電話で徹底的に黒人差別発言を繰り返し、入会の面接まで進んでしまう。問題は黒人のロンはKKKと対面することができないことだ。そこで同僚の白人刑事フリップ・ジマーマンに白羽の矢が立つ。電話はロン、KKKとの直接対面はフリップが担当し、二人で1人の人物を演じることに。任務は過激派団体KKKの内部調査と行動を見張ること。果たして、型破りな刑事コンビは大胆不敵な潜入捜査を成し遂げることができるのかー!?

映画『ブラック・クランズマン』は3月22日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

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