2月16日、両国国技館で『マッスルマニア2019 in 両国~俺たちのセカンドキャリア~』が開催された。DDTグループのイベントで、プロデュースするのはスーパー・ササダンゴ・マシンことマッスル坂井。世界で最もエンターテインメントに振り切ったプロレスイベントだと言っていい。
DDT自体が“文化系プロレス”と呼ばれアイデア重視、エンタメ性が濃いのだが、マッスルはさらに濃度高め。大喜利ありドッキリあり、試合のクライマックスでは選手がゆっくり動いてスローモーションになる“演出”が施され、選手のモノローグがスクリーンに映し出される。キャッチフレーズは「行こうぜ! プロレスの向こう側!」。
そういうわけで、マッスルは普通のプロレスとは全然違う。
そもそものスタートは人材発掘。学生プロレスや“ど”インディーの怪しい選手が次々に登場する大会で、飯伏幸太や鈴木みのるといったトップ選手はあくまでゲストだった。最初から“まともなプロレス”で勝負しようとはしていない。
久々の本格開催となった2.16『マッスルマニア』でも、マッスルはマッスルだった。常連選手・ペドロ高石の引退試合は都合により1日2試合。引退式も2回。ゲストのムード歌謡グループ・純烈の新メンバーに(試合で)アンドレザ・ジャイアントパンダが決まったと思いきや、直後の「スキャンダル疑惑」発覚で“即日”脱退。
南海キャンディーズ・山里亮太はアイドルとの「キス写真」が流出し、安田大サーカス・クロちゃんの部屋では、リング上の動きとシンクロする形で試合が展開され、テレビなどが壊れる事態になった。
今大会でマッスルの内容を初めて知り、衝撃を受けた人もいるかもしれない。「こんなものがプロレスと言えるのか」、「自分が好きな団体と一緒にしてほしくない」と。そう思われたとしても無理はないわけだが、しかしマッスルは10何年も前から「こんなプロレス」をやってファンに支持されてきた。見ていれば分かることだが、マッスルの中には選手のリアルな人生、本物の感情が浮かび上がる瞬間があるのだ。
ペドロ高石、この日2度目の引退試合では、対戦相手として総合格闘家・青木真也が登場。直後に行われた2度目の引退式で息子が手紙を読み上げた場面にはやはりグッときたし、純烈からは笑いに昇華させながら「スキャンダルの向こう側」に向かおうとする気概を感じた。何よりメインだ。アントーニオ本多vsDJニラ。決してトップレスラーとは言えない、“お笑い系”に分類される2人が、“お笑い系”のままのファイトスタイルで大会場のメインを張った。その光景に何も感じないファンはいないだろう。
プロレスとは言えないように見えて、マッスルはやっぱりプロレスだ。プロレスでしか表現できないものを観客に提示しようとしている。一部の“ネタ”を聞きかじっただけでは、それは分からないのだが。
文・橋本宗洋
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