25日、東京・渋谷区の児童養護施設「若草寮」で、施設長の大森信也さん(46)が胸や腹などを刃物で刺され、搬送先の病院で亡くなった。殺人未遂の疑いで現行犯逮捕されたのは、住所・職業不定の田原仁容疑者(22)。「若草寮」の元入所者だった。
児童養護施設とは、虐待や貧困など、様々な事情で家族と暮らせなくなった子どもたちを養育する施設で、現在全国に約600か所、約2万5千人が生活している。しかし対象とされているのは原則18歳までのため、高校卒業後は退所を余儀なくされるケースがほとんどだ。田原容疑者も「若草寮」で3年間過ごし、18歳で退所、就職したという。しかし仕事が長続きすることはなく、職場を転々。大家とも家賃滞納によるトラブルを抱え、去年9月に退去させられた。それから事件発生までの間、ネットカフェなどで寝泊まりを続けていたという。
田原容疑者は取り調べに対し「施設に恨みがあった。施設の関係者であれば誰でもよかった」と供述しているというが、「若草寮」の施設理事長は「自立支援のために、アフターケアという形でどの子にも一生懸命やっている。私の知る限りでは、彼(田原容疑者)は大森さんに感謝している立場だったと思う」とコメント。大森さんも著書に「18歳以降、社会的養護の枠から外れ、自立していかなければいけない現実。それは私たちが想像する以上に困難なものであると改めて認識し直す必要がある。この問題を子どもたちの自己責任論で終わらせない」という言葉を綴っており、近所の人も「面倒見が良かった。優しく接してくれたり。(施設とのトラブルは)全然ない。みんないい人ばかりで子どもたちも礼儀正しい」と話している。
26日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、18歳で自立を迫られる養護施設の子どもたちが直面する問題について、元入所者に話を聞いた。
東京の養護施設で育った田中れいかさんは、モデル業のかたわら、NPO法人「プラネットカナール」広報として自身の経験を講演するなどの活動もしている。
7歳の時、父親による家庭内暴力の危険から逃れるため、4歳年上の姉と2人で児童養護施設に入所した。施設で暮らす子どもたちは、やはり虐待を受けて心に傷を負っているケースが多かったという。
「いわゆる学生寮みたいな感覚で、起床時間や門限が決まっていたり。私の入っていた施設は定員が50人で、マンションのような建物で部屋が4つに分かれていて、10人ずつで暮らしているようなイメージ。最近では"家庭的養護"といって、一軒家に少人数で暮らすという形式の施設も増えている」。
現在、高卒者全体の進路は「就職」が18.3%、「進学」が70.8%となっているが、児童養護施設退所者の場合、「就職」が63.3%、「進学」が30.1%となっている。理由の多くが、経済的な問題だ。田中さんの場合、児童養護施設入所者を対象にした、返済の必要のない「給付型」の奨学金を得ることができ、都内の短大に進学。それでも生活は苦しく、家賃、食費、光熱費・携帯料金などの生活費を稼ぐためアルバイトを掛け持ちし、授業が終わると深夜まで働き続ける日々を送った。当然、遊ぶ時間はほとんどなく、孤独感にも苛まれた。
「勉強して、働いて、"自分だけが苦労しちゃっている"という思いを抱えてしまった。18歳で自分を律し、心のバランスをとるというのは難しかった。もともと自分の感情を上手に伝えられないまま育ったので、唯一気持ちを吐き出せたのは、ノートに日記を綴ることだった。同じ経験をした人と繋がることのできる場や、自分が困った時に相談できる場があることを知れたら、もっと楽だったかなと思う」。
退所者が直面する問題は、就職の場合でも同様だ。NPO法人「ブリッジフォースマイル」によれば、3年後には44.7%が離職しているという。この数字について田中さんは「働いている時の不安を話せる相手がいない。心の部分で折れちゃう子が多いのがこの統計の表れじゃないかなと思う」と話す。
施設で共に過ごした仲間たちとも自然と疎遠になり、施設にも相談することはできたが、やはり唯一の支えは姉だけだったという。そして田中さんは「こういう生い立ちでも好きな自分になれるということを伝えたい」と考えモデルを目指すことを決意。講演活動も継続している。
リディラバの安部敏樹氏は、今回の事件により施設に関わる人や入所者への偏見が生まれることを危惧、「施設で働く人も含め、非常に重要な存在。より多くの職員が配置された方がいいのに、志望者が減ってしまうのはすごく困ること」とした上で、「最近では青山学院大学が児童養護施設の出身者を受け入れる枠を作ったが、その手前の平等すら担保されていないと思う。大学進学率が5割を超えている今、児童養護施設の退所者に対しても、18歳からの4年間はちゃんとサポートする制度が必要だ。もちろん事情は個別に違うし、本人の努力の問題もあるが、子どもの責任によらない不平等は解消しなければならない」と指摘。コラムニストの犬山紙子氏も「評論家の荻上チキさんが、"ベーシックインカム"ではなく、"ベーシックキャピタル"ということをおっしゃっている。これは18歳や成人になったタイミングで、子どもに対して当面の勉強に励むことができるような一定額を支給する制度。これができれば進学を選択する子が増えるかもしれないし、貧困からの脱出もできるかもしれない」とコメントした。
最後に田中さんは施設入所者、そして退所者に向けて「今は施設を出た人向けのアフターケア事業というものも増えている。まずは自分で調べてみること。悩み相談出来ないという人は、ぜひ私に連絡を下さい」とメッセージを送っていた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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