4年前、自身がゲイであることを同級生に暴露=アウティングされた後、校舎から転落死した一橋大学法科大学院生の男子学生の遺族が「被害を申告した後の対応が不十分だった」とし、約8600万円の損害賠償を求め大学側を提訴した裁判で、東京地裁は27日、「安全配慮義務や教育配慮義務に違反したとは認められない」として請求を棄却した。一橋大学は「引き続き学内におけるマイノリティーの方々の権利についての啓発と保護に努めて参ります」としている。
判決の理由について東京地裁は「教授はAさんの苦しみに共感を示しており、Aさんを追い詰めたとは認められない」「Aさんが体調不良を生じる可能性を予見できたとしても自殺行為は予見できない」とした。これに対し、原告側の代理人である南和行弁護士は「裁判所がアウティングの本質的な問題に踏み込まなかった」「アウティングの本質的な問題である人間関係の破壊に触れていない」と疑問を呈し、「今回裁判所はアウティングが不法行為であるかどうかという判断すらしていない」と厳しく指摘した。
アウティングはプライバシーの侵害のみならず、された側が差別・いじめを受けて居場所を失ってしまう可能性すらある。そのためこの事件以降、他の大学にもアウティングを予防する動きが広まっているが、今回、裁判所はその危険性に言及することはなかった。
南弁護士は「どんな問題が起こっても、その大学が案件個別の重大性や案件の特殊性を考える必要もなく、その瞬間、表面的に対応をしている。(亡くなった男子学生の)お父さんは"人が1人亡くなった事実があるのにうわべだけで判断している"という気持ち、妹さんについては"結果として大学の対応を肯定していることになった。また被害者が出てしまう"と話されている」と明かした。
今回の裁判は大学側を訴えた裁判であり、暴露した学生本人との間はすでに和解が成立していた。しかし、アウティング問題の本質の判断なくして、その後の対応はできるのだろうか。
弁護団が大学に求めた対応について、この事件を取材したテレビ朝日の小川彩佳アナウンサーは「アウティングによって人間関係の破壊がもたらされているということをもっと認識して、クラス替えをしたりなどの措置を講じたりするべきだったと主張していた。また、遺族側からはAさんは教授に対し、"将来的にゲイであることをもっと広い集団でカミングアウトしたい"と相談したようだが、"将来的に法曹界で肩身が狭くなる。就労にも支障をきたすかもしれないから止めた方がいい"というアドバイスを受けてしまった。それでますます彼は不安を募らせてしまったということがあったようだ」と振り返る。
ジャーナリストの堀氏は「今回問題になっているアウティングは、明らかに名誉を傷つける、悪意のある共有の仕方になってしまっていたと思う。そのあたりについて裁判所が何も言わなかったのは問題だと思う。また、大学側がアウティングに対しての知識を持たず、意識が低かった点についても論じなかったのかと思う。その点で不当な判決だと思う。裁判官にはもっと勉強し、想像を働かせてほしいと思う」と訴えた。






