アンドロイドが自ら考える指揮者に人とAIが共に奏でる「不気味で美しい」未来の音

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　AIが人間のオーケストラを指揮する――そんな未来のような話がすでに実現している。日本最先端の頭脳が結集した世界が注目するプロジェクトに、AbemaTV『けやきヒルズ』は密着した。

　響き渡るオーケストラのしらべ。タクトを振るうのは、人工生命を宿したアンドロイド「オルタ3」だ。動きは事前にプログラミングされているわけではなく、自ら考え、指揮している。

　この世界で唯一のオペラを手がけたのは、IT（ミクシィ）、ロボット工学（大阪大学石黒研究室）、人工生命（東京大学池上研究室）、音楽（ワーナーミュージック・ジャパン）のスペシャリストたちが集まった共同チーム。

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　ミクシィの木村弘毅社長が「ディスイズザジャパン。科学技術とアート。日本が持つものをどんどん世界に発表していかなければ」と話すように、すでに世界からの問い合わせが殺到。海外数カ国での公演も決まっている。

■カギを握る「揺らぎ」構造

　1月、都内の会議室に集まったのはプロジェクトのメンバーたち。

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「クリエイティブとテクノロジーで、未来に向けて豊かなコミュニケーションを創出していくと」（ミクシィ・木村社長）

「『Beyond AI』。AIの次に来るのは何か。私としては『機械に心が宿るのか』という方向」（東京大学・池上高志教授）

　普段は別の企業や大学に所属する彼らの合言葉は、「AIを超える」だ。

　そんななか、「『コミュニケーション』はいいキーワードだと思う。結局、指揮とオーケストラはコミュニケーション。人間の指揮者では気づかないコミュニケーションの微細さとか。実体を持ったアンドロイドと人間がどうコミュニケーションをとるのかの典型的な例として音楽がある」と語るのは、ボーカロイド・初音ミクとのコラボレーションなど、先端技術と音楽を融合させてきた音楽家の渋谷慶一郎氏。アンドロイド指揮者の発案者だ。

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　今、世界中で争うように行われているAI開発。自動運転やAI家電など、人間を助ける「道具」を作る研究がメインだが、今回作るのは「自ら考え動く」人間のようなアンドロイド。指揮を通して人とコミュニケーションをさせることで、これまでのAIを超えようという。

　そのために集まったメンバーも、様々な分野のトップランナーたち。ミクシィが「IT技術」を提供し、人工生命のパイオニア・東京大学池上研究室が「脳」を担当。「体」を作るのが、ロボット工学の世界的権威・大阪大学石黒研究室（アンドロイド開発：小川浩平氏）だ。

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　1カ月後、完成し運ばれてきたアンドロイドの体。あえて機械の部分をむき出しにすることで、想像力を掻き立て“人間らしさ”を出すという逆転の発想を取り入れている。

　「動きがダイナミックになる気がしている。このサイズで動きが大きいと、恐怖とか美しさとかいろいろなない交ぜになった感情を喚起するという、僕のやりたかったことが具現化できる」（渋谷氏）

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　人間らしさのもうひとつのカギは、動きを制御する脳だ。人間の神経細胞のような回路が複雑に絡み合うことで、不規則な動きを生み出す。光や音といった外部からの刺激が与えられると、さらに神経は活発に反応。ランダムに指令を出すことで、アンドロイドは“自ら考える”人間のような動きを見せる。

　この日、「脳」を担当する池上教授を中心に動作チェックが行われた。一見、見事にオーケストラを束ねているアンドロイドだが、池上教授は「これ『揺らぎ』の構造入ってないんでしょ？」と指摘。リズムが正確すぎて、人間らしい不規則な“揺らぎ”が足りないというのだ。

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　「ある1つの尺でリズムになるような完全にきれいな振動だったら、それは合っているのかもしれないけれど、オーケストラには『その場性』というのがある。内部で『揺らぎ』というのが作られていて、それがあると実在性とか臨場感というのが立ち上がる」（池上教授）

　ギリギリまで続く試行錯誤。その場には、自ら即決してプロジェクトに参加したミクシィ・木村社長の姿も。「（社内には）『なんでうちの会社が』という意見があったけど、そうじゃないんだと。楽しめるようなコミュニケーションを見つけた時に、私たちの次のビジネスにつながっていくと考えている」。

　そして先月28日、新国立劇場でいよいよ初披露。感情を宿したように揺らぎながら音を自在に操り、人と自由に戯れるアンドロイド。人と人工知能が共に生きる「不気味で美しい」未来の音色が確かに響きわたった。

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　渋谷氏は「人間が人間に感動してきたというのが人間の歴史。人間のようなものに感動することがようやくできるようになったので、それをやっていきたい」と語った。

　1年ほど前に「オルタ1」を取材したというBuzzFeed Japan記者の神庭亮介氏は、「その時はまだ歌えるだけだったのが、指揮もできるようになった。『揺らぎ』という言葉が使われていたように、機械はなめらかに正確に動くことは得意だが、人間ならではの余白や不確実性を再現するのは難しい。それを見事に体現している」とコメント。

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　同プロジェクトの研究者たちは、今回の研究を「将来、自立した人工知能とどうすればうまく付き合っていけるのかという前向きな議論を通して、『人間とは何か』を改めて考えるきっかけになれば」としている。神庭氏は「今まで人間がやらなければならなかったことを機械ができるようになり、より人間は創造的なことに取り組めるようになる」としつつ、「少し前だったら初音ミクも『何それ』という風潮だったが、今はボカロP（ボーカロイドのプロデューサー）を使いこなし、新しい才能が音楽を生み出している。AIもこの5～10年で当たり前のものになって、そこからまた新しいクリエイティブなものが生まれてくると思う」との見方を示した。

（AbemaTV／『けやきヒルズ』より）