ついに東京地裁がカルロス・ゴーン被告に保釈を認める決定をした。
東京地裁はこれまで2度にわたり保釈請求を認めない決定をしていたが、今回はなぜ認めたのか。弁護人の弘中惇一郎弁護士は記者団の取材に「知恵を絞って、逃亡だとかあるいは証拠隠し、証拠隠滅ということがあり得ないというシステムを具体的に考えて裁判所に提示したことが評価されたんだと思う」と分析している。
辞任した元東京地検特捜部長の大鶴基成弁護士らに代わり就任した弘中弁護士は、ロス疑惑(三浦和義氏)や薬害エイズ事件、陸山会事件(小沢一郎氏)や郵便不正事件(元厚労省局長の村木厚子氏)などを手がけてきたほか、数々のタレントの弁護人も努めており、"無罪請負人""カミソリ弘中"との異名をとる。米AP通信は「新しい弁護士・弘中惇一郎は有罪判決が99%である日本で無罪の判決を得ることで有名だ」と報じており、4日の会見では「私は73歳になったが、まだカミソリの切れ味があるかどうか試してみたいと思う」と話し、記者たちの笑いを誘っていた。
ライブドア事件で堀江貴文氏の弁護人も務めた高井康行弁護士は「知恵者であることは間違いない。特に薬害エイズ事件の裁判は他の事件とは異質で、医学関係の知識など、普段我々にないものを理解し、それを前提にして検察官の主張の欠点や矛盾点を見つけていく。思考力が緻密でないととてもできないし、弘中氏の能力が最大限発揮されていると思う」と話す。
■弘中弁護士の"策"の特徴と問題点は?
大鶴弁護士による1度目(1月11日)の保釈請求では、住居をフランスなどに指定、2度目(1月18日)は住居を国内に指定したが、いずれも却下されている。今回(1月28日)、弘中弁護士が繰り出した"新たな策"の一つが、住居を都内に指定した上で、外部との情報交換を制約するために監視カメラを設置するという提案だった。
「1、2回目は"逃走防止"に軸足を置いていて、今回は"証拠隠滅防止"に軸足を置いているので、質が違う。特捜が手がける大型事件で、かつ被告人が否認している状況で保釈を取ろうと思えば、裁判官の意表を突くような提案をしない限りはなかなか難しい。今回の保釈の条件は、監禁のちょっと緩やかなもの、いわば"軟禁状態に置くから保釈してほしい"と言っているに等しいもので、そんなことを思いつく人はなかなかいない。極めて稀なものだ。また、罪証隠滅について、裁判官によって抽象的・一般的に考える人と、具体的・現実的に考える人がいて、後者の方が保釈は取りやすい。その差が出ているということも考えられる。いずれにしろ、本人が承諾しないとこういう条件設定はできないので、とにかく拘置所から出たいということをゴーンさんも強く望んでいたということだろう。ただ、彼もわがままだから、最初から軟禁状態にしてもいいかと言っても、多分嫌だと言っただろう」(高井弁護士)。
その上で「余罪による逮捕という可能性は十分にあり得る」との見方を示すとともに、今回の弘中弁護士の方法には課題も残ると指摘する。
「今回、裁判所は実効性があるとして認めたが、検察官から見たら"ザル"ではないかというのが率直な意見だと思う。例えばトイレや風呂に入っている時にはどうするのか。寝ないで誰かが監視するのかと。"口裏合わせ"についても、例えば記者会見をやって、"私はこういうふうに思っている"と言えば、ゴーンさん側の人が"そうか。ゴーンさんがそう言っているから、そういうふうに言わなくては"と思う。インタビュー取材を受けることも可能だが、リスキーだ。私が弘中さんだったらさせない」(同)。
■「"人質司法"を改善していこうという裁判所の意思も」
ゴーン被告を巡っては、強制的な長期拘留などの問題について国内外からの批判を受けてきた。今年1月にゴーン被告の家族の弁護人がパリで会見を開き、人権侵害を訴える書面を国連に提出していることを明らかにしている。弘中氏も4日の会見で「今の日本の拘留は人質司法と呼ばれるくらい検察官の言う通りに自白しないと、罰としていつまでも拘留を続けることになっていて、私としては無罪が取れておかしくないと思っている」と指摘していた。今回の一報を受け、仏メディアはゴーン被告の家族側の「残酷で手荒い拘留が終わろうとしている。驚きでいいニュースだ。検察のやり方が公正でないことを示している」というコメントを掲載している。
「今まで日本の制度では保釈後は"保釈しっ放し"で、原則的に行動監視はしなかった。逆に言えば、証拠隠滅がなされない状態にならないと保釈を認めなかったため、認めるのも遅くなっていたということだ。今後は保釈を認める代わりに行動監視をする、という制度に変えないといけない。例えば強姦事件などの場合、20日間で保釈されるとしたら、被害者が怖くて被害届を出せなくなる可能性がある。そうした場合は被告人にGPSを付け、受信機を被害者サイドに渡すといった新たな仕組みを考えないといけない時期が来ている。"人質司法"と言われる、今までの非常に不公正な状態を改善していこうという裁判所の意思の表れでもある」(同)。
■「憲法違反」の主張とは?
4日の会見で弘中氏は「(日産は)司法取引で日産の幹部には害が及ばないよう検察に協力している。私は、これは普通の方法ではないと思っている」「違憲を視野に弁護活動をする必要がある」「日産も10年以上前から知っていた話」「内部で解決できる問題を刑事事件として検察に持ち込んだこの事件は大変奇妙だ」「ゴーンさんが違反になった場合、ボードメンバーも処罰されるべきだが、どう司法取引で決まったのか見ていきたい」と主張している。
この「違憲を視野に」という点について、高井弁護士は「本来共犯者として起訴されるはずの2名の方が司法取引で起訴されていない。これはそういう法律があるのでいいが、日産の司法取引の対象になっていない他の役員の中には起訴されてもおかしくない人がいるだろう、憲法で定める法の下の平等に反するという主張が出てくる。それが認められれば、捜査の手法や起訴そのものが"憲法違反"になり、公訴棄却になる。ここがゴーンさんとしても最もして主張ほしいと思っている点だと思う。ただし、検察官には極めて広い裁量権が認められていて、間違いなく有罪だと思っても、情状を考慮するなどして起訴しない権限がある。つまり、日産の役員を起訴しなかったことがその裁量権を逸脱していると言えるかどうかが争点になるが、これまで検察官の公訴権の行使が裁量権の範囲を逸脱していると判断された例はほとんどない」と説明。「この憲法違反の主張が通る見込みはあまりないし、主張することに意味のあるということだと思う。また、起訴している事件には同種の事例がない。初めて裁判官の判断を求める事例なので、どこまで有罪になるか、見通しがつきにくいところはある4割ぐらいの確率で無罪が認められる可能性があると思う。一般的に刑事裁判は99%が有罪になるので、無罪の確率が4割もあるのはとんでもないことだ」と話した。
4日の会見で「今の時点で、何のためにこれを刑事事件として検察の方に届け出たのか大変奇妙な感じがする。私は日本の将来のため、日本の社会のためにも、この事件についてはゴーンさんの無罪を明らかにする必要があると。一刻も早くゴーンさん、世界の方々からの信用を取り戻す必要があると思っている」と述べた弘中弁護士。今後、どのような法廷バトルが展開されるのだろうか。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)










