物別れに終わった2度目の米朝首脳会談からもうすぐ1か月、両国間の緊張が再び高まっている。
先週、米朝交渉のキーマンと呼ばれる北朝鮮・崔善姫外務次官が「はっきり言うが、現在の強盗のようなアメリカの姿勢は事態を間違いなく危険にさらす」「我々はいかなる形であれ、アメリカの2度目の米朝首脳会談での要求に屈するつもりはないし、そのような形の交渉に携わるつもりもない」と発言、非核化交渉の中断にも言及。さらにトランプ大統領の側近についても「ポンペオ国務長官とボルトン大統領補佐官が敵対と不信感の雰囲気を醸し出し、交渉を妨害した」と名指しで批判した。
崔善姫外務次官の指摘に対し、ボルトン大統領補佐官は「不正確だ。決断したのは大統領だ。しかし反論する前にもっと政府で話したい」、ポンペオ国務長官は「金委員長はハノイで核実験やミサイル発射実験を行わないと何度も約束した。その約束を守ることを期待する」と述べている。
対話の継続か、それとも核・ミサイル開発へと逆戻りか。19日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、緊迫する米朝関係を考えた。
■"時計の針が戻ってしまった"
軍事ジャーナリストの潮匡人氏は「崔外務次官はこれまでも強硬な発言を繰り返してきた女性だが、最近はトーンダウンしていた感じがあった。それが逆戻りしている。昨年に行われた1回目の米朝首脳会談以前の状態、つまり核実験やミサイル発射を繰り返し、"明日にでも戦争になるのではないか"という不安が高まっていた時期にまで時計の針が戻ってしまった」と話す。
「現時点ではトランプ大統領に対する直接的な揶揄、誹謗中傷、罵倒は避けている。首脳会談のパイプは残しているし、本音としては交渉を継続させたいと北朝鮮も思っているだろう。ただ、崔外務次官は去年も大統領補佐官を非常に激しい調子で批判した。その際もトランプ政権は自制したが、北朝鮮がまだいけると思ったのか、今度は彼女の上司にあたる第一外務次官がペンス副大統領のことを"政治的な操り人形だなどと言ってしまった。するとトランプ大統領が6月に予定されていた首脳会談を取りやめると言い出したので、北朝鮮側が"いや、それは本心ではない。あなたのことを評価する"と手のひら返しをし、会談につながった。今回も同様の展開を辿ってもおかしくない。崔外務次官の挑発的な言葉について、今後もアメリカが許し続けるのかは不明だ。限定的な攻撃であれば北朝鮮は全面的な反撃には出てこないと誤算して、結果的に大規模な武力紛争を生起させてしまうというように、どちらも相手の出方を見誤れば結果的にかなり厳しい局面に展開するリスクを負っている」。
一方、拓殖大学大学院特任教授の武貞秀士氏は「確かに崔外務次官の言葉は非常に厳しいものだが、会見では同時に"トランプ大統領と金正恩委員長の個人的な関係は良好だ"とも言っている。その意味では1回目の米朝首脳会談以降の8か月の間に、"括弧つき"ではあるが一種の個人的な信頼関係を築くことはできているのだろう。2回目の会談では北朝鮮は"経済制裁を全て解除してくれ"と本音を言い、アメリカも"それでは核兵器を全て廃棄するのか"と言い返した。相手が何を要求しているのか、署名できなかった原因は何かということも学び、手の内、心の中が理解できる状態にはなっていると思う。3回目の会談がすぐに行われるかは別の問題だが、"雨降って地固まる"という可能性も残っていると思う」と話す。
「アメリカとしては、北朝鮮の指導者はパルチザン抗争をやってきた金日成の時から同じ家族なので、交渉も戦争も同じテーブル。"これを言っちゃあおしまいよ"ということも平気で言ってしまうのが金正恩委員長だということをトランプ大統領は学んだと思う。むしろ第3回では一種の"あうんの呼吸"ができあがる可能性も十分にあると思うし、2017年よりも前の状態に逆戻りすることは考えにくい。少ない兵力のパルチザンの発想は、自分を取り巻いている敵の一番弱い部分に集中する。多勢に無勢だが、ロシアゲートで弱り目にたたり目のトランプ大統領に集中的に外交資源を集中すれば譲ると考えて外交攻勢をかけたし、期待していることは間違いないだろう。2回目の米朝首脳会談の結果は北朝鮮にとっても想定外だっただろう。それでもトランプ大統領がいる間に米韓同盟もできるだけ薄め、制裁の緩和、できれば解消にまで持っていきたいと考えているだろう。ただ、トランプ大統領の次の政権でも中国、ロシアから色々な形で経済支援を受け取ればやっていけると考えている。一方のトランプ大統領は"アメリカファースト"。できるだけお金を節約したいと思っている。話し合いで緊張を緩和して、南北統一でやってくれるのが、トランプ大統領としては最もコストが安い」。
■アメリカが実力行使に出る可能性は
そこで注目されるのが、崔外務次官が「我が最高指導部が間もなく決心を明らかにするとみられる」として言及した、近く発表されるとみられる、金正恩委員長による今後の"行動計画"に関する公式声明だ。
他方、研究チームの「38ノース」は6日、北朝鮮が廃棄に合意したはずのミサイル施設で復旧作業が行われていると発表。米朝首脳会談の準備と並行して作業を進めていた可能性も出てきている。拓殖大学教授の川上高司氏は「アメリカはまだ北朝鮮を攻撃する可能性がある。北朝鮮がどのあたりまでアメリカを挑発するのか見物だ。逆にアメリカが北朝鮮のミサイル発射を待っている気がする」との見解を示している。
潮氏は「その中身がアメリカに対して挑発的な内容を含んでいるということになると、やはり残念ながら逆戻りという方向になると思うが、やはり崔外務次官の一連の発言の延長線上のようなものになると考えるのが自然だと思う。実際、金正恩委員長も年頭の辞で"これ以上制裁が続くのであれば、我々は新しい道を考えないといけない"と発言してアメリカに揺さぶりをかけた。首脳会談で制裁解除を得られなかったので、新しい道、つまり核・ミサイルの開発という従来の道に戻るのではないか。中でも最悪なのは弾道ミサイルの発射という事態だ。人工衛星を搭載したロケットだという形で時間帯を予告して発射したとしても、アメリカがそれを額面通り受け取るとは思えないし、実力を行使してでも阻止するだろうし、今回、動きが伝えられている場所にはエンジンの燃焼実験ができる設備もある。ロケットの発射は自制したとしても、新型エンジンの燃焼実験を行ったとなれば開発が続いているという疑いが浮上するし、米朝関係が再び緊迫することも十分に予想される」と指摘した。
武貞氏は「アメリカは1994年10月の米朝枠組み合意直前に北朝鮮への攻撃を検討するところまで行っていた。2年前に、北朝鮮がグアム島周辺にミサイルを撃ち込むと脅した時にも緊張した。ただ、結局はアメリカが攻撃のオプションを取れなかった構造が今も続いている。ただ、北朝鮮が降参するまでの間、韓国には相当の弾薬やミサイルが降り注ぐ可能性があるし、日本にもノドンが飛んでくるかもしれない。そういう犠牲を伴ってまで北朝鮮問題を解決するのは、ベネフィットに比べてコストがあまりにも大きすぎる。そこまでの犠牲を伴ってまで北朝鮮の核問題を解決すべきなのか、我々はずっと考えてきた」とした上で、「これまで北朝鮮は核開発の理由として、"アメリカが反北朝鮮政策を取り続けるならば"とか、"アメリカの政策が変わらないのであれば"というような文言を必ず頭につけてきた。だから今回も条件次第で米朝首脳会談から撤退すると言う可能性は十分にあるし、目に見える形でミサイル開発を可能性も出てくる。ICBMについては去年4月の中央委員会の会議で撃たないと決定しているが、中距離など、日本が迷惑を被るようなものを止めるとは言っていない。したがって、日本とアメリカの間に微妙な雰囲気が流れるような"日本いじめ"の政策を取る可能性を考慮する必要がある」と指摘した。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)














