大関豪栄道はご当所の大阪場所で大きな声援を受けながら、地元優勝を虎視眈々と狙っている。大関取りに挑む関脇貴景勝もプレッシャーなど、どこ吹く風の力強い相撲で大きな目標に着実に近づいている。新小結の北勝富士も連日にわたり横綱、大関陣を相手に善戦し、存在感を発揮。平幕大栄翔も2大関を撃破するなど、頭角を現している。
彼ら番付上位に名を連ねる面々はいずれも埼玉栄高出身者だ。加えて幕下には納谷、琴手計、塚原ら、将来が楽しみな同校OBの大器が目白押し。昨年の高校横綱で今場所初土俵を踏んだ斎藤大輔こと北の若も彼らの後輩だ。
今場所の番付を見ると埼玉栄高出身の関取は全体の1/7にあたる10人にもなり、一大勢力を形成している。同校は高校総体をこれまで10度も制す強豪校だが、稽古量自体は決して多くはなく、むしろ少ないほうだ。寮生活を送る部員は登校前の基礎練や夜のランニングを除けば、稽古時間は放課後の1~2時間程度。週に3日はまわしを締めない日もある。稽古の番数こそ少ないが、後ろ向きの摺り足、高速で踏む四股、50キロ以上もある大型トラックのタイヤ押しなど、プロの相撲部屋ではちょっと見られないユニークな稽古で効率よく体が鍛えられ、廻しを締めない日を挟むことで相撲に対する“飢餓感”が逆に濃密な土俵内の稽古となっている。
相撲を取らない日はフィジカルトレーナーの指導の下、科学的なトレーニングで筋力アップや体幹強化に励んでいる。さらに高校では日本一の質と量を誇る“ちゃんこ”も体作りにおいて重要な要素のひとつだ。山田道紀監督の実家が料亭でもあることから大量の差し入れが寮に届き、監督自ら包丁を握って料理も作る。またOBの関取衆からは500キロ単位で米の差し入れもあり、部員たちの胃袋を満たしている。
ひとつ屋根の下で寝食を共にする部員たちは家族同然だ。「優勝してマネージャーを胴上げしよう」と大試合の前に監督が選手に発破をかけることもある。ここでは強い選手でも“天狗”になることは決してない。レギュラーを取れず裏方に徹する部員のサポートがあるからこそ、結果を残せることをみんな実感しているからだ。
トレーニングと食事、さらには感謝と思いやりの心が埼玉栄高の強さの秘訣と言えそうだ。ケガからのリハビリのために同校OBの力士たちがしばしば、道場を訪れては汗を流す。そんな姿を目の当たりにする現役部員はプロの力士に憧れを抱くと同時に、大きなモチベーションにもなるだろう。先輩から後輩へ。卒業しても“家族の絆”は変わらない。
こうして受け継がれる強さの伝統がある限り、角界に吹き荒れる“栄旋風”はこの先、さらに猛威を振るいそうだ。
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