3月22日、26日に行われるキリンチャレンジカップで、昨年6月のロシアW杯以来の日本代表復帰を果たした、香川真司のことだ。森保一監督は3月17日に30歳になったばかりの男を、新チームになって初めて呼び寄せた。
ロシアW杯で日本のベスト16進出の立役者となったのが香川だった。2010年以降、日本の10番として攻撃を牽引してきたが、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が中盤の選手に求めるプレースタイルと合わず構想外になりつつあった。
しかし、W杯が開幕する2カ月前にハリルホジッチ監督が電撃解任。バトンを受け取った西野朗監督は「(2014年の)ブラジルの悔しさを持っている選手で戦うしかない」と香川、本田圭佑、岡崎慎司などブラジルW杯の主力メンバーを招集した。
そして迎えたロシア大会。日本の初戦の相手となったのは、ブラジルW杯のグループリーグ最終戦で完敗したコロンビアだった。試合開始からわずか6分。日本は香川がDFラインの背後に出したパスに大迫勇也が抜け出す。大迫のシュートがGKに弾かれたところに、素早く香川が詰める。香川のシュートをコロンビアのカルロス・サンチェスが手で止めると、レフェリーは迷うことなくPKを宣告した。
このPKのキッカーに名乗りを上げたのは香川だった。ドルトムントやマンチェスター・Uといった世界のトップクラブで活躍しながらも、日本代表では順風満帆とはいかなかった。本来の実力を発揮できず、苦悩することも多かった。
香川にとって、W杯初戦で訪れたPKは、“10番との戦い”に打ち勝つチャンスでもあった。日本中の期待と不安が背中に注がれる中、香川はGKのタイミングを外した蹴り方で、ゴール右隅にボールを流し込んだ。
ベスト16の立役者となった香川だが、W杯後は別の試練が待ち構えていた。所属チームのドルトムントで出場機会を失ってしまったのだ。ほとんど実戦のピッチに立てないベテランは、新たに始動した森保ジャパンのメンバーリストからも外れた。
香川、本田らがいなくなった日本の攻撃陣には中島翔也、堂安律、南野拓実といった若い選手たちが台頭。自分の武器を前面に押し出し、積極的に仕掛けていくプレースタイルは、新生日本代表の象徴ともなった。
転機が訪れたのは2019年1月31日。移籍期限の最終日に、ドルトムントからトルコのベジクタシュへの移籍が発表されたのだ。すると、デビュー戦で途中出場からわずか3分で2ゴールを決める離れ業を演じた。ドイツからやってきた日本人は、すぐにトルコのサポーターの心をつかんだ。
そんな香川の活躍を森保監督が見逃すはずはない。アジアカップで活躍した欧州組の数人の召集が見送られた、今回の親善試合のメンバーリストに「香川真司」の名前があった。
「まずは1人の選手として彼が持っているものを発揮してもらえればと思いますし、ピッチでもピッチ外でも経験の浅い選手たちにいろんなことを伝えてもらえればなと思っています」(森保監督)
ブラジルで悔しさを、ロシアでうれしさを味わったコロンビア戦が、香川にとって日本代表としての再スタートになる。再び10番を背負う男から目が離せない。
文・北健一郎(SAL編集部)
写真・ロイター/アフロ