25日放送のAbemaTV『AbemaPrime』で、ともに3月いっぱいで番組を卒業するテレビ朝日の小川彩佳アナウンサーとウーマンラッシュアワーの村本大輔が対談を行った。テーマは「アナウンサーに"個人の意見"は必要か」。小川アナは言葉を選びながらも、村本の質問に丁寧に答えていた。
村本:毎回番組が終わった後に、小川さんを誘って反省会行きましょうよと言うと、スタッフさんが「ちょっと今日、小川は病んでいるから」と。
小川:そんなことないですよ(笑)。
村本:言い残したことがあって、まだまだ我慢していると(笑)。
小川:そんなことは…まあ(笑)。
村本:溢れる小川さんのこの人間味と、ちゃんとした個人の意見がたまにバッと出る瞬間がある。それをアナウンサーとして言うのにすごい葛藤が見えるが、その辺はどうか。
小川:局のアナウンサーが個人の意見を発するというのは非常に難しいことだと思う。小川彩佳である前にアナウンサーであり、アナウンサーである前にテレビ朝日局員であるというところがある。だから自分の意見を発するというのは、引いてはテレビ朝日社員としての発言になってしまうし、テ局の意見・見解、番組の見解となってしまうところがある。他の局がどうかはわからないが、アナウンサーが言葉を発することにテレビ朝日はおそらく寛容で、ことさら何かを言われたことはない。
村本:フリーになられて色々なところに行かれる。そうなったらどうなるのか。
小川:例えば番組の何か代表だったり、番組を背負うということがあればそこは気にすることはあると思うが、フリーになれば自分の名前でこれからは活動していくことになるので、自分の責任で言葉を発するということに終始するんじゃないかなと思う。
村本:小川さんは絶対に我慢できない人なので、『報道ステーション』の時から絶対に出ていたと思う。小川さんのファンの方は、もちろん容姿もそうだが、小川さんの意見、考え方をすごく支持している。他のアナウンサーとも喋っているが、こんなに隠しているようで全力で攻めている人、なかなかいない。隠し切れていない感じがする(笑)。
小川:隠してたんですけどね(笑)。顔に出やすいというところもあるのでダダ漏れになっていた感情というのもあったかもしれないが、私の場合は少し特殊事情というのがある。
入社して最初に担当したレギュラー番組が、田原総一朗さんの政治討論番組『サンデープロジェクト』だった。目の前で政財界の大物が激論を交わしていて、最後に10秒とか15秒とか、本当に短い時間しか残っていないが、キャスター付きの椅子に座っている田原さんがくるっと私の方を向いて、「小川さんどう思う?」と意見を求めてくる。入ったばかりの新人アナウンサーの時に意見を言わないといけなくて、社説に書いてあるようなことを背伸びして言ってみたり、ちょっときれいな言葉で取り繕ってみようものなら「そんなこと聞いてないよ!」と最後まで聞いてもらえないということが続いた。自分の中でニュース、目の前で起きていることに真剣に向き合った時に、等身大の自分の言葉というのはなんなんだろうかと言葉を探すとことを毎週していたような経験だった。
その後、痴漢冤罪事件を番組で取り上げたことがあった。私にとって初めての取材に近かった。ものすごく被害者側に感情移入をしていたこともあって、被害を受けた男性の方をスタジオにお招きした時に、思わず大号泣してしまって。号泣しながら自分の意見を述べるということをした。終わった後、思わず感情的になりすぎてしまったことを非常に反省した。やはりアナウンサーは冷静に、わかりやすく、フェアに言葉を繰り出す、情報を伝えるということが至上命題だと思っているし、その矩(のり)を超えてしまったなと非常に落ち込んだ。けれどその私を見て、田原さんが初めてに近いと思うくらい褒めてくださった。「そうやって素直になる。自分の感情が溢れ出すということはすごくいいことなんだよ」「テレビのメディアというのは綺麗に取り繕った言葉だったりとか、背伸びしたりとか、そういったものは全部バレてしまう。そのものを切り取って映してしまうメディアなんだから、素直になることを怖がらないで。それが1番伝わるんだから」と言ってくださった。その原体験というのがずっと心の中にあった。
もちろんアナウンサーは会社、私の場合はテレビ朝日の社員としての言葉も大事にしなければならない。それはずっと考え続けなくてはいけないことだが、素直になった時に一番言葉が伝わるのであれば、必ずしも自分の思いにいつも蓋をしていくというのが正解なんだろうかということを、それから考え続けるようになったというのはある。
村本:それはすごく魅力的。僕は感情に流されやすいので感情論で言ってしまうが、心を揺さぶられる。もしかしたら他の人がロジカルに語ろうとするから感情が浮き彫りになるのか。ただ、もしかしたらその人が犯人ではないのかもしれないのに感情的に伝えすぎたら、そのバランスはどう考えるのか。
小川:100%の感情というか、感情ダダ漏れ、それだけではもちろんダメだと思う。そこに至るまでの入念な下調べだとか、そのニュースに真剣に向き合うとか、当事者の声を真剣に聞くとか。そうしたことがあった上で思いが溢れてしまうという部分があって、もしそれが視聴者の皆さんにとって押し付けだったり邪魔だったりすることなく、反対でもいいし、共感でもいいし、反応してもらって、新たな思考を生むきっかけにもしなるのであれば。そのための言葉というのはなんなんだろうかと、それを探し続けるということがこの職業において必要なのかなと思う。
村本:アナウンサーの仕事の魅力ってなんですか。
小川:私も知的好奇心が旺盛な方だと思うが、多くのことを知るということは、また自分の新しい可能性やつながりを生んでいくし、新たな世界が広がって豊かになっていく。そのきっかけを作っていくことができることだと思う。そのお手伝いができるような仕事なのかなと思う。
村本:日々、僕なんかとは比べ物にならないくらいの新聞を読み、目の前をたくさんのニュースが流れる。僕がここでお笑い芸人としてやるというのは、ある種自分の持ち場を守るのとは同時に、僕はここからは行きませんよという逃げでもあると思う。小川さんもいろんなニュースがあって、これをなんとかしたい、しないといけないというのがある中でどういうふうに境界線を引いて、私はどういうふうにやっていくのかという。そこが難しくないか。
小川:すごく難しいところだと思う。今はAIも出てきて、AIアナウンサーというのもいる。中国のAIアナウンサーを見ていると、動きもシームレスで、どんどん不気味の谷を超えている。そういった方々も登場した時に、生身の人間がアナウンサーという仕事をするのはどういう意味なのかなというのは今突きつけられていることなのかなと思う。
対談を傍で見ていた作家の乙武洋匡氏は「報道ステーションとアベプラの違いというのもあったと思う。報ステだとここまでしかできないけど、アベプラだったらアナウンサーという立場でももっと出していいんだ、というその境界線を最初の1、2か月くらいは探っていらしたのかなと思う。でも11、12月くらいからだんだんここまで行ける、ここまで行けるというのを楽しまれているのかなというのは感じていた」とコメント。エッセイストの小島慶子氏は「アナウンサーは読んで字のごとく発表係だが、キャスターとなると、やっぱりキャスターであった方がいいと思う。小川さんが大事にされているのは"共感のジャーナリズム"とよく言われること。共感があるからニュースが入ってくる。私もすごく同意したし、尊敬する」とエールを送った。
















