トランプ大統領がまたも国際秩序を揺るがす暴挙に出た。25日、「長い時間かかったが、これは数十年前に行われるべきことだった」「過去の大統領はやらなかったが、今回承認したことを非常に名誉に思う」として、ゴラン高原についてイスラエルの主権を認める大統領宣言に署名したのだ。これに対しイスラエルのネタニヤフ首相は「あなたほど偉大な盟友に恵まれたことはない」と、感謝の言葉を述べた。
これにすぐさま反発したのが、シリアのアサド政権と、これを支援するロシアだ。シリアのムアレム外相は「この決定はアメリカの孤立を招くだろう」、ロシアのラブロフ外相も「ひどい国際法違反だ。中東全体の情勢を悪化させる」と警告。イラン、イラクなど中東諸国も一斉に反発、アラブ連盟事務局長は「占領が最大の犯罪であるなら、その正当化はこれに劣らない危険性を持つ過ちだ」との声明を出した。また、河野外務大臣も「これまでもイスラエルのゴラン高原併合は認めないという立場だし、それは何ら変わりはない」と日本政府の立場を説明している。
30日放送のAbemaTV『みのもんたのよるバズ!』に出演したケント・ギルバート氏は「ゴラン高原は1967年、イスラエルがシリアとの防衛戦争で占領したもので、国際法では防衛戦争で戦って取った土地は自分のものにしていいことになっている。ただし、イスラエル自体が国連によって人工的に作られた国だったので、特別扱いになっていた。だから本来の国際法の考え方に基づいて、イスラエルが占領し続けることを支持するというだけだ。この土地は戦略的にも重要で、上から見ればヨルダン川も地中海も見える。そこをシリアが取ってしまったら、いくらでもロケットを飛ばすことができる。だからイスラエルとしては手放すことはできない。また、石油とガスが大量に出るということが最近分かった」と持論を展開。「ただ、トランプ大統領自身がなぜこのタイミングに署名したのかはわからないし、側近も国務省もみんな聞いておらず、勝手にやったらしい」と話した。
イスラエルは1981年にゴラン高原の併合を宣言。しかしその後、国連安保理は併合を無効とする決議を全会一致で採択している。27日の安保理の緊急会議でアメリカ代表は「今回の決断はイスラエルにとって極めて安全保障上重要なものであり、地域の安定に寄与する」と主張したが、英仏独など欧州5か国は「イスラエルの主権を認めない。武力による併合は国際法で禁止されており、国連憲章に反する」との非難声明を発表している。
長年の慣行を無視し、これまでもエルサレムをイスラエルの首都と認めるなど、宗教右派勢力やユダヤ教徒向けの政策を行ってきたトランプ大統領。前東京都知事の舛添要一氏は、トランプ大統領が国際秩序よりも来年の大統領選挙を重視していると指摘する。
「アメリカは安保理で拒否権を持っている常任理事国なので決議できない形だが、1981年の国連決議を元にして非難をした。ただ、この1981年の国連決議をちゃんと読めば分かるが、占領しているイスラエルの法律を適用してはならないと書いてある。だからトランプ大統領が主権を認めても、イスラエルのルールはそこで効かないことになっているし、アメリカもそれは守らないといけない。つまり、国連決議違反をやらない限り、イスラエルは法律の適用ができない。今回、ヨーロッパが反発しているし、あれだけアメリカにべったりの我が国もダメだと言っている。"あなたは世界一の大国として、国連決議に違反したままやるのか"と、トランプ大統領に聞きたい。国連は戦勝国、アメリカを中心に作った。自国が中心になって作ったのなら、もっと大事にしないとおかしい」。
その上で舛添氏は「中東にはイスラエルだけでなく、パレスチナの人たちもいる。彼らから見れば、何千年も住んでいたところだ。例えば東京に"数千年前の歴史を見ると、ここは俺の土地だった"とやって来て、土地を取られたらどうするのか。もともとイギリスがパレスチナとイスラエルの両方に手形を切ったからこういうことになってしまったが、宗派の問題、石油の問題もある。それとバランス・オブ・パワーのような色々な要因があって。5次元くらいの連立方程式を解かないといけない。トランプ大統領はオバマ政権のやり方が悪かったと叩くことが非常に多い。エルサレムの問題もそうだし、今度のゴラン高原の問題もそうだ。トランプ大統領の支持基盤はユダヤ人が強いし、福音派も含めたキリスト教保守派も強い。大統領選挙のための選挙戦略だと思っている。また、イスラエルでは4月9日に選挙がある。ネタニヤフは今スキャンダルでやられているので、選挙のためにゴラン高原の主権を主張したのだろう」との見方を示した。
国際政治学者でもある自民党の猪口邦子参議院議員は「中東の国家間は、少なくとも全面平和にいかないとダメだ。かつての中東戦争ではエジプトとイスラエルの間に単独講和ではあるが平和条約が成立した。それ以降、大規模な国家間での戦争は抑止できている。テロリストの問題は大きいが、少なくとも国家間での平和秩序を維持し、発展させないといけない。トランプ大統領はディールメーカーなので、今回の行動についても、これからどういうディールをやろうとしているのかを考える必要がある。アメリカが内向きになったという論評があるが、実は違っている。孤立するどころか、ロシアではなく自分が中東の和平に関わっていくという動きに出ている。国連はこれを非難したり、国際機関として意見を集約したりする場として、きちんとバランスを取っている。アメリカに今後も中東和平をきちんとやりとげていくというプレッシャーをかければいい」と話す。
その上で、G20議長国としての日本の役割について、次のように指摘した。
「日本は中東に資源を依存している。イスラエルに対しては同情的な立場で、アラブ諸国とも良好関係だ。中東和平についての政府の立場は明解で、こういうことは認められないというもの。安保理の全体の流れもはっきりしている。他方でアメリカには、全体の平和とパレスチナの国家についても認めていくという仕事をしなさいという圧力をかけたほうがいい。G20で安倍総理は非常に重要な役割を果たすと思うし、言うべきことは言うと思う。重要なことは、アメリカが孤立主義にいかないことだ。トランプ大統領は強い意見は持っているが、孤立主義に回帰していくということではないと思う。中国とも貿易で対立はしているが、何とかしようともしている。ただ、マルチな場も必要だということをG20の場で働きかける」。(AbemaTV/『みのもんたのよるバズ!』より)