「私がスポーツを観ていて"手に汗握りますね~!握る手無いですけど!"と言った時、みなさんは笑うことはできますか?」
そんな疑問を投げかけるのが、作家の乙武洋匡氏だ。あるバラエティ番組に出演した際、収録では大物芸能人から叩かれながらいじられることについて「おいしい」と感じたというが、オンエアでは全てカットされていたと話す。「自主規制というか、コンプライアンスというか、そういったものがここ数年で変わってきてしまっているのかなと感じた。こっちは商売あがったりだ(笑)」。
障害のある人が障害をネタにすると"笑えない"と言われる、その壁を超えたいと考えてきた乙武氏だが、そこには"障害者を笑っていいのか"という、視聴者の複雑な思いも立ちふさがる。
5日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、そんな"障害者と笑い"の問題について議論した。
脊髄性筋萎縮症で"お笑い芸人で唯一の寝たきり障害者"を名乗る、あそどっぐがスタジオに登場。すぐさま「立ってもらっていいですか?」とボケる乙武氏。あそどっぐが「ムリムリ(笑)」と即答すると、乙武氏は「僕からしたら、あそどっぐがちょっとずるいのは、いるだけでちょっと面白いということ。でも、健常者の方が見たら、いるだけでかわいそうと映るかもしれない。そうすると、あそどっぐとしては商売あがったりになる」と指摘。あそどっぐが「"かわいそう"と思われるのが本当に辛い」と応じると、乙武氏は「本当に辛くなったら白い布をかけておけばいい。ただの遺体みたいになるので」と再びボケてみせた。
こうしたやりとりについて、視聴者はつい「笑ってしまったら不謹慎だ」「他の障害者がどう思うか」といったことを感じがちだ。
しかし、障害者自立生活センターSTEPえどがわのAさんは「私の場合は足が動かないだけではなく、排泄関係がコントロールできないので、色々な失敗エピソードがある。排泄コントロール障害がある障害者たちの間では、それを話す時に"あるある"と爆笑する。私だけの苦労ではないという開放感みたいな感じなのかな」と話す。
海外で行われた、小学生とその親に、モニターに映し出される人物と同じ"変顔"をするというゲームをしてもらう社会実験では、障害を持った女性が登場すると、その時だけ親子の反応が違うものになるのだ。
視聴者からは「この問題は障害者に限った話ではない。"ハゲ"とか"デブ"とか"チビ"とか"短足"とか、女性の容姿や化粧、ファッションなど、こっちがいじってもネタとして受け答えしてくれて会話が成立する人と、異様に激怒する人がいる。結局、事前にどちらの人が分からないから、触らぬ神に祟りなしとなるのではないか」との意見が寄せられた。
あそどっぐは「障害者との付き合い方が分からないのではないか。例えば自分のことをネタにしているハゲの人にはツッコんだりボケたりしてもいいけど、カツラを被って隠している人には誰もそんなことはしない。それと同じで、同じ障害者にも、イジってほしい人とイジってほしくない人がいる。それは一緒に過ごして初めて分かること。身の回り、メディアに障害者がいっぱいいないのが問題じゃないかと。メディア関係者の皆さん、ぜひあそどっぐを使ってください」と話す。
乙武氏は「なぜ障害者だけ一括りにされるのかなと思う。例えばトレンディーエンジェルは自分たちの頭髪が薄いということをネタに頂点まで登りつめたが、彼らに"頭髪がない他の人たちがどう思うのか"なんて誰も言わないはずだ。なぜ障害者だけ、"他の障害者がどう思うのか考えないのか"と言われるのはなぜだろうか。あそどっぐが話した通りで、触れ合っていれば、多様性があることも分かると思う。知らないので、障害者とはこういう人たちだろう、こう扱わないといけないのではないか、など、一括りで考えるようになってしまう」と指摘した。
筋ジストロフィーと戦う、会社員で歌手の小澤綾子は「私たちにも表現の自由があっていい。障害者といっても乙武さんみたいな人もいるし、私みたいな人もいる。性格もみんな違う。面白いことを言ったのに、なんで笑ってもらえないんだろう、と思ってしまう時も多い。講演会では、よく"障害者にどう接したらいいか"と聞かれる。私は"障害者は人間だ"と答える。自分も健常者だった頃、そういうのがあったなと思う」と話す。
パンサーの向井慧は「吉本でも濱田祐太郎という目がほとんど見えないピン芸人がR-1で優勝したりとかしている。そういうのを笑うことに関しては全然ありだと思う。でも、乙武さんがさっき(あそどっぐに)したツッコミをいきなり僕がしたらピッと空気が張り詰めることがあると思う。ただ、障害の問題に関係なく、お笑いをやっていてウケると思っていてもお客さんがめちゃくちゃ引いちゃうこともある。そういうラインの読み間違えも結構あると思う」と話した。
その上で、あそどっぐのトークに「面白い、面白くないの判断はわりとフラットで、トークとしてはちょっと弱いかな」とツッコミを入れ、コンサルタントの宇佐美典也氏が「笑うよりも、"つまんねーよ"と言う方が難しいと思う」と指摘すると、乙武氏は「そこがすごく大事なところで、パラスポーツにも同じことが言える。例えばサッカー日本代表の試合で本田選手がシュートを外したといったら、翌日にマスコミはクソミソに叩くだろう。では、メダルを期待されていたパラアスリートが結果を残せなかった時、メディアは果たして叩くだろうか。おそらく、"障害を乗り越えてスポーツに取り組み、頑張ったよね"となる気がする。その時点でフェアではないと思う。東京パラリンピックがでは、存分にパラアスリートが叩かれる社会になったらいいと思っている」との考えを示した。
神田外語大学専任講師の塙幸枝氏は「笑っていいのかいけないのか、という問いの立て方が不思議だなと思う。いいと言われたら笑えるのかと言われたら、そうではないし、許可されて笑うことでもない。笑いというのは、対象に批判的でないと笑えないところがあると思う。感情移入したり、同情したり、愛着を持ったりすると、相手を笑うことができなくなってしまう。障害者に共感すべきだと教えられて来た結果、それを突き放すことができないために、どうしても笑いが留まってしまうのではないかと思う。あそどっぐさんの場合、小ざかしいキャラクターというか、嫌な人を演じていることで、心理的なハードルが下がる。そこで障害者ではない部分に目がいくのではないか」と話した。
向井は「"ブス"というツッコミが切られる時代なので、メディアにどんどん出していこうという流れにならなそうだと感じている。障害者だけではなく、色々なことへの自主規制の歯止めをどこかでかけないと根本的には難しいと感じる」、乙武氏は「向井さんが言った通り、自主規制をして、問題になりそうな人、物議を醸しそうな人を排除していこうというのではなく、この人は純粋に面白いので笑ってもらえるのではないかという人を発掘して、どんどん出していく。物議は醸すだろうが、議論をして、この辺りまではOKにしようとか、着地点を見出していくことが大事かなと思う」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)