先週、東京・高円寺の飲食店で開かれた、犯罪歴のある若者たちの社会復帰を考える勉強会。参加者も、強盗致傷や窃盗などの過去を持つ青年たちだ。
犯罪歴のある人は働く場所が少なく、一度でも罪を犯した人が社会復帰するのは容易なことではない。2017年のデータを見ると、罪を犯し検挙された人は年間約21万人。なかでも再犯によって検挙された人は約10万人、つまり、2人に1人が再び罪を犯していることになる。こうした傾向は10代でも3人に1人が該当する。
勉強会に出席していた少年院出身者は、「支援者の協力もあって今は職に就くことができたが、それがなければ100%刑務所に行っている」「もう悪いことをしてお金を得るしかないので、そういう(再犯の)考えしかない」と心境を吐露する。
先月19日には山下貴司法務大臣が記者会見で「再犯防止における就労の確保の重要性について広報啓発活動を重点的に実施している」と言及しているが、未だ多くの企業が受け入れには積極的になれずにいる。企業が犯歴などを理解した上で登録をする「協力雇用主制度」が存在するものの、受け入れは義務ではいため、2014年4月時点で登録企業1万2600社のうち、実際に雇用したのは472社にとどまっている。
しかし、あなたがもし会社の経営者で、過去に犯罪に手を染めたことのある人が就職を希望してきたとしたら、どうするだろうか。「また罪を犯してしまうかもしれないのに、雇うのはリスクがある」「会社内でトラブルが起こる可能性を考えてしまう」「自分が良くてもばれたときに取引先などがいい顔をしない」と考えてしまうのではないだろうか。
■犯罪歴のある人向けの求人雑誌に脚光
そんな元犯罪者たちの就労支援を行う株式会社ヒューマン・コメディ代表の三宅晶子氏は、去年3月から非行歴・犯罪歴のある人専用の求人雑誌『Chance!!』を年に四回発行している。
同誌には求人情報や悩みを相談できるNPOの情報だけでなく、犯罪歴を持つ人たち専用の履歴書も付いてくる。通常の履歴書とは違い、施設の入所回数や事件の背景・きっかけ、家族関係、再犯の可能性についての考え、さらには刺青や指詰めについて尋ねる項目もある。
三宅氏は「こういう人たちを雇うことはリスクを負うことだと思う。リスクを冒しても採用したいという企業は、寄り添って教育していきたいと腹を括っているだから全部さらけ出して書いてもらって、その上で判断できるようにしている。本人が自分と向き合うきっかけにもなると思う。でも頑張っている人の事例をたくさん増やせば、社会の見る目も変わってくるのではないかと思う」と話す。また、三宅氏によると、女性はあまり過去をオープンにして職を探すことはなく、非正規雇用や水商売などに就職することもあり、利用者は圧倒的に男性の方が多いのだという。
現在、同誌は全国237カ所の刑務所や少年院などに置いてあり、実際にこの履歴書を使って就職に結びついた若者も出てきたという。「最初は知り合いの社長に声をかけたり、建設業界のイベントに営業をかけるなどしてかき集めていたが、最近では当社を取り上げたニュースをネットで見た方が連絡をくれたるといったことも少しずつ増えてきた」。
■働き始めても感じる寂しさ「やっぱり家族に憧れている」
その一人が、栃木県の工事現場で働くのは野原ヒロユキさん(仮名、19歳)だ。昨年11月に少年院を仮退院した野原さんを受け入れたのは、建設業を営む株式会社大伸ワークサポートだ。同社では犯罪歴のある人を積極的に受け入れており、社員34人のうちおよそ半数が過去にそうした経験を持つ人たちだという。
野原さんが住むのは、新しく入った従業員を含めた3人部屋。それでも「罪を犯してしまっても社会復帰できるという環境を得ることができた。昔から身体を動かすことが好きだったし、お金をもらいながら身体を動かせるから毎日楽しく仕事ができている。会社の人は皆やさしい。悪さはそんなに楽しくない。少年院に入る前も、本当は遊びたいとは思っておらず、仕事をしたいと思っていた。」と話す。
一方、野原さんは「やっぱり自分自身家族がいなかったから、家族に憧れている。家庭を持ちたい」と寂しさも滲ませる。
本当の社会復帰には乗り越えなければいけないもう一つの壁、それが犯罪歴のある若者たちに芽生えた"大人は信用できない"という感情だ。両親2人と姉2人の5人家族で育った野原さんだが、幼少期に捨てられ、施設を転々しながら育った。彼の記憶に家族との思い出はなく、両親の顔すら思い浮かばないのだという。
時には施設の大人に虐待を受けることもあった。「イタズラみたいな感じのことをしたら、お仕置きとして夜中に1、2時間、山に置き去りにされた。皆が皆、嫌な大人にしか見えなかった」。
自暴自棄になり、「小学校高学年の頃には年上・年下関係なくブッ飛ばしたり、施設のガラスを割りまくったり、中学校を卒業してからは無免許でバイクに乗ったり、飲み歩いたり、万引きをしたりしていた」。度々警察の世話になり、自ら命を絶とうと施設から包丁を持ち出したところ逮捕され、少年院に入ることになった。
三宅氏は「刑務所や少年院は絶対に入ってはいけない、地獄のようなイメージがあると思うし、それが結構抑止力にもなっていると思う。ただ、一度そこに入ってしまうと、食事も出るし布団もあるので、快適ではないが地獄でもない、思ったより悪くないと感じてしまう。そこで再犯へのハードルがぐっと下がってしまうこともあるようだ。一般社会に溶け込みにくくなってしまうこともあるし、どうやって生きていったらいいのか分からないから、元にいた場所に戻った方がいいというのもあると思う」と話した。
■カンニング竹山「落胆することはない」、夏野氏「社会全体で育てる仕組みを」
カンニング竹山は「俺もあまりいい環境では育ってないから、友達の中にも"年少"に行っている奴がけっこういたし、"たったこれくらいのことで入れられちゃうんだ"と思ったこともあったくらい、普通だった。だからヒロユキ君も変わった人ではなく、普通の少年だったんだと思う。出てきてから親方になった奴もいたけど、やっぱり世間の風は冷たいし、さらに刑務所に入っちゃう人や、組に入っちゃう人もいるだろう。ヒロユキ君が大卒の人しか入れない会社には行けないのは仕方ないけれど、今はユンボの免許も取って働いているのは立派だと思う。落胆することはないと思う。頭を使いながら、どうすれば金を稼げるか考えて行くしかない。でも忘れちゃいけないのは、次はお前が大人になる番なんだから、同じことをガキや女にしちゃいけない」と諭していた。
ドワンゴ社長の夏野剛氏は「これだけ外国人労働者も増えているし、その人たちの過去なんて本当は分からないはずだ。それなのに日本人だけ、過去の犯罪歴を怖いというのはなんか変だと思う」と指摘。
その一方、「"仕事がなかったら悪いことをしてしまう"と言っていた方は、全く懲りていないのではないか。そういうマインドで仕事をしていることの方が怖いと思う。刑務所の中でどういう教育をしているのかなと思う。また、不登校なども多い中、少年院入所者の家庭環境データを持ち出して、その半数に両親がいなかったことを指摘してしまうようなこと自体、僕は大間違いだと思う。フランスなんかに行けば、両親のいる家庭の方が少ない。どちらかと言えば、日本の学校や社会がパターンにはまっていない人を"ちょっと変わっている"、"ちょっと違う"、"あそこの家は違う"などと言ってしまうことが人を追い込んでいると思う。"子どもはこうしなければならない"ということでガチガチになっていて、そういうところからちょっとずれると、親も含めてすごく生きにくい環境だ。僕の会社ではN校という高校をやっているが、優秀すぎるという理由でこぼれてしまう、"吹きこぼれ"の子たちも通っている。そもそも親御さんが育てられないとなったときに社会全体で育てていく仕組みがないことを是正すべきだ」と指摘していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)