藤田晋社長「AbemaNewsは一番の赤字」それでもAbemaTVがニュース番組を続ける意味は #アベマの未来 後編
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 11日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、開局から丸3年を迎えたAbemaTVの"未来"について、藤田晋社長を交え2時間にわたって議論。後半では、ひろゆき氏、ラファエル氏に代わり、NewsPicks CCO(最高コンテンツ責任者)の佐々木紀彦氏が参加、AbemaNewsチャンネルと報道のあり方、『AbemaPrime』そのものに議論の対象を移した。<前編はこちら>(文中敬称略。)

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藤田:開局してすぐに熊本地震が起こり、AbemaTVが使われた。始まる時間に前に座るのがテレビだったが、AbemaTVは人々のライフスタイルに合わせて、見やすい場所で見やすいように使って頂く。ちょうどTVerもテレビで見られるように対応されたが、「テレビが見られなくなるから」という理由でできなかった。でも、皆が見やすいように出してあげるというのが基本。自分たちの都合を押し付けられる時代でもなくなってきた。ニュースも、令和の発表をみんながテレビで見られるわけではなかったので、そういう人はネットで見た。

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佐々木:昔あるキー局の偉い方に聞いたのは、バラエティやドラマがテレビ局の本質のように思われているが、実は芯にあるのは報道メディアとしての役割なんだと。しかし我々も『NewsPicks』をやっていて思うのは、ジャーナリズムはとにかく難しいし、お金も人もいっぱい必要。テレビ局や新聞社にはそういうリソースと、記者クラブといった独占的なものがあって実現できている面が確実にある。我々もしっかりやっていかなきゃいけないが、ジャーナリズムをしっかりやるというのは結構きつい。中長期的にどういうビジョンがあるかというのがすごく大事だと思う。

土屋:ビジネスとしての報道となると、最適化してたくさん広告を入れて、ということを優先してしまうし、現状そうなっている。だけどビジネスとのバランスをとりながらも、「こういうことって皆が知っていた方がいいよね」「こういう意見に対してこういう意見もあるんだよ」ということを、やるというのは間違いなく必要だ。

平石直之テレビ朝日アナウンサー):毎日毎日、放送後に他局との比較も含めて1分刻みの視聴率のカーブを見ると、「やっぱりこういうネタはこういうふうに切り取れば視聴者に刺さる」という"方程式"のようなものができてくる。視聴者に寄り添って、これが一番見てもらえるというという出し方、切り方ではあるが、「昨日の結果がこうだから今日はこう作る」というところから出て行きにくくなる。

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藤田:AbemaNewsというのはAbemaTVの根幹であって、確かにコストもかかる。ここが一番の赤字だ(笑)。それでも十分なお金をかけるべき場所。中でも『AbemaPrime』は開局以来の看板番組で、小松さん、小川さん、平石さんとメインキャスターを繋いでやってきた。これは背骨というか、真ん中にしたい。いずれにしても、出版社も新聞社もテレビ局も閉塞感が強まってくる環境で、テレビ朝日がAbemaTVという自社の強みを存分に活かせる場で報道番組を作ったというのは非常に大きいことだと思う。

面白いのは、先週、塚田国交副大臣が辞任したとき、橋の必要性について論じた。あれを地上波と同じテレビ朝日報道局の人たちが二面性をもって番組作りをしているということ。地上波だと視聴率を見て、それで「視聴者のために」とやっているが、そこから解放されると、「そうではないのでは」という話になってくる。

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乙武:先週、『AbemaPrime』のMCになって初めての回がそれだった。各局が忖度発言を叩いている時に、「本当にあの道路は必要なのか」と検証した。こういうのを待っていたという人は多いのではと思う。以前、スタッフの方と飲みに行ったときに、「どんな思いで作っているんですか」と聞いたら、「地上波ではやれないこと、地上波とは違う作りをしようと思ってやっている」と話していた。「地上波の時に他局と違うことをしようという考えはなかったのか」と聞くと、「そこの意識はあまりなかった」とおっしゃっていたのが結構意外だった。

平石:やると打ちのめされる。如実に負ける。だから食らいつく。だからマネが増えて、似てしまう。ただし、それは昨日までの結果だ。今日どうなのかは明日にならないと分からないが、それでもやっぱり方程式がどんどん刷り込まれていく。

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土屋:やっぱり"こんなものテレビじゃない"というものがテレビを進化させてきたわけで、その力が弱っているのだとしたらテレビの衰弱だと思う。見たことあるようなものしかないというのは、最もプラットフォームとして衰弱している状態だと思う。田原さんはテレ朝で『朝まで生テレビ!』であれだけめちゃくちゃなことをやってきている。会社のせいにしたらダメだ。

氏家:土屋さんと僕は同世代。バラエティにもいたし、報道にもいた。でも、僕らが現場にいた頃は人と同じものはやりたくなかったし、人がまだやっていないバラエティ、ニュースの見せ方、自分だけのオリジナリティのあるものを開拓して、それがうまくいって初めて成功。人のマネをして成功しても、そんなものは誇りにも手柄にもならないかった。失敗が許されないから上手くいかなくなるという状態なのであれば、テレビがそれだけ苦しいということだと思う。

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平石:それだけ成熟しすぎたのかもしれない。AbemaTVに来てまだ2週間だが、こちらは逆に同じことをやったらダメ。違う切り口にするし、チャレンジング。私の振舞い方も同じようにやっていたらダメなので、エアギターをやらされた(笑)し、地上波では"お前が言うな"だが、こっちでは"お前はどうなんだ"となる。その意味では自分自身の可能性も広がったようなところがあるし、そういう場を提供してもらっている感じがある。

紗倉まな:やりながら、「人を選ぶな」とも思いますか。

平石:それはありますね(笑)。

佐々木:PV至上主義とはまた違うが、我々は有料課金をやっているので、そこで偏りが生まれる部分はある。内容が深いもの、長いものが課金されたり、この人の意見ならと、人に紐付いていたりもする。そこから考えると、社会にインパクトを与えられるような大きい調査報道やジャーナリズムはすぐにお金が取れないと思うし、違う指標を入れないと本格的にはできないと考えている。

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ハヤカワ五味(デザイナー/実業家):3年前に『AbemaPrime』がスタートした直後は、「これ、1年後にあるのだろうか」と不安になった(笑)。しかしやっていくうちに、単なる視聴数だけでなく、議論をSNS上で巻き起こしているなという感覚が出てきた。それは制作サイドも感じているのではないかと思う。自分自信も報道のあり方を考えるきっかけになったし、責任感が強くなってきたと感じている。

宇佐美氏:ガリレオ・ガリレイがピサの斜塔の上から大きい球と小さい球を落とそうとした時、観衆は大きい球の方が早く落ちると考えていた。おそらく地上波も、大きい球が先に落ちるという報道をせざるをえないんだと思う。そうではなく、「理論的、科学的にはこうで、現実はこうだ」とやらなくてはいけない。でも、失言をしたら非難しなきゃいけないとか、薬物をやったらバッシングしなきゃいけないとか、地上波は"ストーリー"に乗っけたがる。僕は依存症問題に取り組んでいるが、地上波は「そういう報じ方はしちゃいけない」ということをやりまくる。本当は止めている人がやりたくなってしまうから薬物を映してはいけない。それを連日放送しながら「薬物をやってはいけない」とめちゃくちゃなことをやっている。その点、AbemaTVはそういう常識から出て、現場の当事者がどう考えているのというところからやってくれるのは本当にありがたいし、世の中にとって役立つ認識を広げてくれていると思っている。ピエール瀧さんの問題の扱い方はまさにそうだったと思う。

そこで藤田さんがマスを目指すと言ったことには意味があると思っている。メディアが変わる出発点となってほしいし、間違っているマスに対して「違うんだぜ」と言うメディアが必要だと思っているが、それを収益化するのは難しいからだ。それができる可能性のあるメディアは、僕の見る範囲だとAbemaTVとTOKYO MXしかないと思う。この1年半くらいで、何か「物を作っている」という感覚が出てきた。地上波と比較するのは良くないが、固定観念とは違う、ある意味でリベラルというか、自由に話して価値観を作っていける場になるかもしれないなという感覚がある。すごく期待している。

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佐々木:テレビが与党でネットは野党だ、みたいに、あまり野党的になり過ぎない方がいいと思うし、マスとかテレビをアンチテーゼにしなくていいと思う。あまり意識しすぎると、逆の方向に先鋭化してニッチ化してしまう。二項対立だけではなくて、テレビも面白いし、いいところは認め、ちゃんと融合していくということも必要だろう。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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