近年、急速に盛り上がりを見せている「eスポーツ」。先月には幕張メッセで「第1回全国高校eスポーツ選手権」が開催され、全国から107校の「eスポーツ部」が参加、高校生ナンバーワン・ゲーマーの称号をかけた熱い戦いが繰り広げられた。大会は成功を収め、すでに第２回の開催も決定。８月には高校のeスポーツ部を対象とした新たな大会も予定されている。
世界では１億人が参加、市場規模は1000億円に達するeスポーツ。国内に目を向けると、プロ認定制度もスタートし、国内最大級のイベント「RAGE」には約6000人のゲーマーが参加するなど、職業としても認知されはじめている。
それでも学校現場を中心に、「eスポーツは部活動として適切なのか」「教育現場にeスポーツは必要なのか」といった論争も巻き起こっている。「ゲーム依存症のリスクがあるのに、なぜ学校が助長させるようなことをしているのか」「ゲームなんて時間の無駄。かける時間に対して得られるものが少なすぎる」「部活って？コンピューター越しの努力と結果がどれほど人をたくましくするのかは疑問」「部活は、人を成長させる為にあるものじゃないの？」といった反対意見が少なくないのだ。
スポーツの名門・成立学園（東京・北区）では昨年10月、「eスポーツ部」が誕生した。顧問の田島祐一教諭は「勉強する場でゲームをするということに関して、保護者や教職員の理解を得られないのではと、二の足を踏んでいた」と振り返る。そこで活動時間は放課後の2時間程、ゲーム依存症の講義や学期ごとに成績目標を決め、達成できなければ部の活動を禁止にするなどの対策を定め、部の立ち上げにこぎ着けた。
ITコースを設置する明聖高等学校（東京・中野区）の中野キャンパス長・花澤悟史教諭は、「色々な価値が見いだせるかどうかは始まってみないとわからないこともある。一時的なブームで消えてしまうかもしれないが、先生も混ざって楽しく活動できて、一つのコミュニティになれば、それはそれで学校教育としては意義のあることではないか」と話す。部員たちからも「判断力・決断力が伸びる」「協力して戦うので、コミュニケーション能力が高まる」といった声も聞かれた。
■板橋ザンギエフ氏「判断能力が試される。」
一日のプレイ時間について「できるだけやるだけやろうかなということで、10時間とか、それ以上やることもある」と話すのは、プロeスポーツチーム「DetonatioN Gaming」所属の板橋ザンギエフ氏だ。板橋氏は「格闘ゲームでは、それこそ瞬時の判断能力が試される。今日も"判断がイマイチだな"と思いながら練習していた」と話す。
「eスポーツも含めて、ゲームはすごく広い。戦略ゲームになると、本当に最善のコミュニケーションと、チームが一丸となってベストを尽くし、やっと勝てるかどうかみたいなもの。バスケに向いている学生もいれば、将棋に向いている学生もいると思うし、ゲームに向いている学生もいるはず。自分に向いているものを選んで取り組んでほしいし、それがゲームなら、やっぱり嬉しい」。
宮澤エマは「部活動にあまりにも青春みたいなものを見出そうとしすぎるのは良くないと思っている。そのために学校に行きたいと思えるのであれば部活動の意味としても十分に成立すると思うし、反対する理由はあまり見当たらない」とコメント。
スマートニュース社の松浦シゲキ氏も「判断という一点においてスポーツとeスポーツには区別がない。RPGであれば、ここでパーティーが全滅したらゲームオーバーになるとか、アクションゲームではここでジャンプするかしないかというところで判断力を磨くことができる。小説など、クリエイティビティではABの判断はしない。教育的な観点からも、覚える、理解する、発信することができるので意義はある」とした。
一方、あえて反対の立場から論陣を張ったパックンは、「僕もゲームが大好きだった。学生時代には朝まで遊んで、試験の成績がギリギリだったこともある。スポーツには限界が会って、１日12時間やりつづけることはできない。だけど、終わった後はより高く跳べるようになったり、早く走れるようになったりする。マンガやアニメは同じものを毎日何時間も見続けることは無いだろうし、いろんなものに出会うと思う。でも、ゲームは依存性が高く、何時間でもできるのに、翌日、何かが良くなったと思うことはなかった」と指摘。
「どのみちゲームは家に帰ってもやるだろうし、わざわざ学校で勧める必要はないと思う。ほっといても読むという意味では、エロ本部を作るようなもの。漫画部は情や想像力が鍛えられると思う。ゲームは瞬時に判断するかもしれないが、面白い物語が作れる人になるのか、クリエイターになるのか。将来的に学生が身に付けないといけないようなスキルはその場で学べているかといったら、学べていないのではないか」主張した。
■「プロやオリンピックを目指すような価値観の中に放り込まれることには反対」
こうした議論について、社会学者の加藤裕康氏は「まず辞書を見ればわかるが、基本的には身体を使った競技をスポーツという。そしてスポーツの語源をたどると、ラテン語のデポルターレ=気晴らし・遊びだ。つまり、身体を使った余暇活動もスポーツだと言える。結局は遊びの要素もあるはずなのに、多くの人がスポーツや部活に求めているのは、教育的な要素が付与されたものになっている」と指摘する。
「スポーツをすることで体力が増強するという価値観の中で、学校教育の中にも取り入れられてきた。一方、ビデオゲームは指を動かすだけに見えるが、脳貧血で入院生活を送っていた人が病室で格闘ゲームを１日中やっていたら、杖があれば歩けるようになったという人に会ったことがある。理学療法士の方も、eスポーツはスポーツではないという人がいるけども、あれはれっきとしたスポーツだと言っている。あるいは勉強になぜ価値が置かれているかといえば、勉強ができれば大学入試も就職試験もクリアでき、良い職業に就くことができるという仕組みになっているからだ。しかし勉強の本来の価値はものを考える訓練だと思う。ゲームを通して人と結びついたり、豊かな人生を送ったり、そこから本を読むようになることもあるはずだ」。
また、加藤氏はゲーム依存の問題についても「確かにやりすぎは問題。でもそれは、ゲームもスポーツも私は一緒だと思っている。スポーツも結局やりすぎると体を壊してしまう。ゲームもリアルな世界で色々な人との関わりがないと、どっぷりハマって抜け出せなくなってしまう。その意味では、部活という形で、他の生徒や教員という大人とも関わることができる。なぜ板橋さんなどのプロが10時間やっても依存と呼ばれないのか。それは、そういうことが機能しているからだと思う。ただし、学校の中に楽しめる場があることが大事なのであって、競技性だけを高め、プロやオリンピックを目指すような価値観の中にeスポーツ部が放り込まれることには反対だ。そこから外れた子どもたちは居場所をなくしてしまうし、人生の意義をなくしてしまう」と訴えた。
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