（最後まで必死に食らいついていったぴなの。最後にベストパフォーマンスを見せた）
こんなに泣きながら試合をするプロレスラーがいるのか。そんな衝撃すらあったのが、アップアップガールズ（プロレス）のメンバー、ぴぴぴぴぴなの卒業マッチだ。
一昨年結成、昨年1月にメンバー4人全員が東京女子プロレスでレスラーデビューしたアプガ（プロレス）は、オーデイションの段階から“歌って踊って闘える”をスローガンにしていたアイドルユニット。アップアップガールズ（仮）の妹分グループである彼女たちは、アイドルとプロレスの完全両立をテーマに活動してきた。レスラーとしても急ごしらえではなく、練習生としての下積みをしっかり経験している。
（ぴなの卒業興行はライブからMAXの盛り上がり）
4人中3人はもともとアイドル志望。プロレスに関する知識もなく、レスラーとしての成長は決して早いものではなかった。それでも、個性派集団である東京女子の中でそれぞれの色を発揮。大晦日には初単独ライブを成功させ、今年からは個別のオリジナルリングネームとコスチュームで活動するようになっていた。ヒナノあらため「ぴぴぴぴぴなの」という名はインパクト絶大。2月には初の自力勝利もマークし、アイドルとしてもレスラーとしても、これからさらに面白くなっていくように思えたが、本人としては単独ライブ成功と初勝利をいい区切りと捉えたようだ。今後の進路を考える中での「卒業、引退」という決断だったという。
急遽、開催された4月5日の『ぴぴぴぴぴなの卒業スペシャル』（王子ベースメント・モンスター）は超満員に。客席のうち3面をスタンディングにしたこともあって幕開けのライブから凄まじい盛り上がりとなった。それより前、ライブのリハーサルを見ながら涙ぐむ選手もいた。
（未詩は泣きながらバックブリーカー）
メインイベントはぴなの卒業マッチ、時間差入場バトルロイヤルで「勝ち抜け・負け残り」ルール。当然、主にターゲットとなったのはぴなのだ。彼女が負ければ負けるほど、リングに残り続ける。つまり卒業までの時間が長くなる。攻撃しながら今後の人生に向けてのエールを送る先輩がいて、苦楽をともにしてきたアプガ（プロレス）の渡辺未詩は号泣しながらカナディアンバックブリーカー。試合から「勝ち抜け」した選手もリングサイドで声援を送りながら泣いていた。
もちろんぴなのも泣いて、同時に得意の「嘘泣き」で笑わせ、必死にエルボーを連打していった。合計19人を相手にボロボロになりながらも、ぴなのはこれまでで最高のプロレスを見せたと言っていい。
プロレスが嫌で、プロレスが向いてなくてやめたんだと思われたくなかったというぴなのから最後の3カウントを奪ったのは、メンバーの中でも特に仲がよかった乃蒼ヒカリだった。試合後のライブ、いよいよ最後の1曲となった「アッパーキック！」はまともに曲紹介もできないほどだったぴなの。体力も感情もすべて出し切っての卒業、引退だった。
（卒業セレモニーにはアプガ（仮）から古川小夏、新井愛瞳も）
「以前はプロレスとアイドルを両立してるグループが他になくて、同じ悩みを持ってる人もいない中で、メンバーがいたから頑張ってこれました。本当に感謝してるし、他の人にはできない経験をたくさんさせてもらったと思います。いっぱい泣いたけど、今日は本当に楽しかった」（ぴなの）
これからは3人で、独自の道を進んでいくことになる。ヒカリは5月3日のビッグマッチ、後楽園大会でタッグ王座に挑戦することが決まった。未詩は辰巳リカと組み、沙希様＆操と対戦する。らくは女子プロレス界屈指の人気選手・我闘雲舞の里歩と初タッグを結成することになった（vs才木玲佳＆小橋マリカ）。いずれも注目カードで、ヒカリが勝てばグループとして初のタイトルになる。未詩もパワフルな試合ぶりに磨きがかかり、最近はチョップなど打撃技の威力が増してきた。今の勢いでいけば、シングル王座挑戦もそう遠くないのではないか。
らくは初勝利を目指しているところだが、彼女にしかないリズムと雰囲気は中毒性がある。プロレスの試合中なのにおっとりしていて、なおかつそれが魅力になるという稀有な存在だ。3人で初めて迎える夏ももうすぐ。チャンスも試練も、これから数え切れないほどやってくるだろう。新章に突入したアプガ（プロレス）だが、彼女たちのキャリアはまだ始まったばかりだ。
文・橋本宗洋
