少し前までなら考えられなかったようなシチュエーションが、現実のものとなった。
4月21日に開催された『RIZIN.15』横浜アリーナ大会。那須川天心はキックルールでフリッツ・ビアグダンと対戦した。ビアグダンはボクシング界のスーパースター、マニー・パッキャオの推薦選手として来日。無名ではあるがWBCムエタイのフィリピン王座を持つという。
しかし試合前になって「パッキャオには会ったことがない」とコメント、RIZINの榊原信行実行委員長が事情説明することにもなったが、大会当日にはパッキャオ本人がリングに登場、挨拶するとテレビ中継の解説席にも座った。
つまり那須川はパッキャオが見ている前で試合をしたというわけだ。大晦日にはフロイド・メイウェザーとエキシビションとはいえ闘い、今度はパッキャオに試合を見られる。SNSではコナー・マクレガーからの“対戦希望”もあった。そんな日本人ファイターが登場するなど、本当に考えられなかったことだ。
試合が始まってみると、ビアグダンは予想以上のタフさと勇敢さを見せた。那須川によると「覚悟が決まってましたね。相打ち覚悟で前に出てきましたから」。ビアグダンが那須川の強打を食らっても倒れず、打ち返してきたことでこの試合は見応えのあるものになった。
「いろんなことを試そうとしたんですけど、倒せる時に倒さないとダメですね。力みが出てしまった。ゲームでいうと、コマンドが5つくらい出ていた状態で。それじゃダメだと気づけました。やっぱり実戦に勝るものはないですね」
そんな反省点も口にした那須川だが、試合直後にこれだけの分析ができる時点で規格外だ。粘るビアグダンを倒し切ったのは3ラウンド。パンチ一辺倒にならず、冷静にヒザ蹴りをボディに突き刺してのノックアウトだった。
リング上でパッキャオにも勝利を祝福された那須川。しかし将来的な対戦について聞かれると「そこはノーコメントで」とかわしている。実現するかしないか分からないもので勝利の余韻を消されないためにも、クレバーな選択だった。
ただし、今の那須川にはそうした話題性がついて回るのも確かだ。繰り返すが、この20歳の日本人はメイウェザーと闘い、パッキャオ推薦選手を倒し、マクレガーから対戦アピールされた。
「凄いことだし幸せな人生ですよね。マンガだとすると展開が早いなって。もっともっと有名になりたいし、もっともっと自覚持たなきゃって思います」
これからさらに、那須川天心という存在は世界に知られていくだろう。「世界を巻き込む」ことは自身の狙いでもある。しかしその闘いとコメントの落ち着きぶりを見ていると、彼が人気や知名度に足元をすくわれることはなさそうだ。
文・橋本宗洋
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