19年続くドラマ『相棒』は、人気の高さも手伝って再放送される機会も多い。ところが、長い歴史を持っていると、見るチャンスがなかなか巡ってこない放送回がある。その代表的なものが、レギュラー放送になって最初の『相棒 Season1』だ。
警視庁生活安全部の片隅につくられた小部屋にある「特命係」は、陸の孤島と呼ばれる窓際部署。係長の杉下右京（水谷豊）のもと、これまで何人もが部下として配属されたが、全員半年ももたずに辞表を書いて警察を去ってゆく。あまりに部下が辞めることから、ついに「杉下右京は人材の墓場」と噂されるほど…。そんなふうに周囲から薄気味悪がられている「特命係」へ、指名手配犯に人質にされるという失態を犯した捜査一課の亀山薫（寺脇康文）が異動して、約半年経過したところから『相棒 Season1』は始まる。
特命係という部署名だけを聞くと、何か特別な任務を担っているようだが、実際は特に仕事はない。間借りしている生活安全部の援軍として出動したり、人手が足りない地域の警察署を応援すべく、多すぎる証拠品の下着をもって地取り捜査に歩いたりする日々。つまり、他部署のヘルプ要員だ。それでも事件現場にかけつけると、捜査一課の伊丹憲一（川原和久）や三浦伸輔（大谷亮介）から「特命係の亀山ぁ！ なんでお前がここにいる」「なぜ、ここへ？」と疎ましがられるが、なんだかんだで特命係による捜査の結果、事件の真相が判明し犯人逮捕へ結びつく。
ところが、この2人しかいない特命係は、決してチームワークが良いわけではない。そもそも、東京大学卒業のキャリアで趣味は落語とクラシック音楽鑑賞、紅茶党でスーツをかっちり着る杉下と、コーヒー党で、フライトジャケットにカーゴパンツ姿で滅多にスーツを着ない亀山は、何をするにも気が合わない。およそ相棒と呼べる関係に見えない二人が、様々な事件を経験して少しずつ「相棒」らしくなっていく様子が分かるのも、『相棒 Season1』の見どころの一つだろう。
また、相棒シリーズを見る楽しみのひとつに、毎回、役柄にぴったりのゲスト出演者が登場することがある。『相棒 Season1』も初回冒頭からダイナマイトを体に巻いて亀山を人質に警視総監室に立てこもる田端甲子男（泉谷しげる）が登場し、深刻な場面のはずなのに思わずニヤリとしてしまう。そして、19年にわたる長期シリーズならではの、意外な人の初々しい姿が見られる。
第5話に登場する小学生・手塚守は、両親を事故で亡くしてから親戚の家で暮らしている。話が合わないこともあり、同級生と無邪気に遊ぶこともなく、図書館でひとり過ごすことが多い彼は、大人びた口調で杉下の質問に答え続ける。一般的な意味では可愛げが全くないが、複雑な内面を抱えた子供をという難役に、当時10歳の染谷将太が扮している。その類まれなる演技力は必見で、現在の活躍にはしっかりした素地があったことがわかる。
そしてもう一人、最近では映画『万引き家族』での取調室で正論を語る警察官役など、ヒロインだけでなく印象的な脇役としても活躍する池脇千鶴が、『相棒 Season1』第11話と第12話で、女子大生の川端蘭子を演じている。NHK朝ドラでヒロインをつとめた直後の時期で、当時は21歳。寂しげなまなざしの奥に強い決心を秘めた、可愛いだけではない、透明感のある女性の生き様をすでに見せている。
他にも若手からベテランまで、実力派俳優が次々と登場する相棒シリーズ『相棒 Season1』は、警察を舞台にしたドラマでありながら、その舞台が不安定なことも特徴のひとつだ。
そもそも、組織の論理に染まろうとしない亀山に対し、警察を辞めさせたくて特命係へ異動させた上層部は「まだ辞めんのか。最長記録だな」と苦々しく彼らの行動を監視している。『相棒 Season1』を通して、特命係は常に存続の危機にあり、第11話冒頭では、あと一週間で特命係は解散と告げられる。その証拠であるかのように、特命係が使用する小部屋入り口の表札は割れたままで、かろうじて読めるものの、修理する気配がない。
この不安定な特命係が生まれたのはなぜか、部屋の表札が割れているのはどうしてなのか、そして、杉下が単独で行動しがちな理由は何か。2人だけの警視庁特命係にまるわる謎のいくつかが、『相棒 Season1』を見終わると明らかになる。
ファンの間では、数年前の地上波再放送を録画して今も繰り返し見ている人もいるほど、貴重な『相棒 Season1』。是非この機会に見てみてはいかがだろうか。
