『相棒』Season8の第1話冒頭、ロンドンからの便で空港に到着した杉下右京（水谷豊）を待っていたのは、杉下の元妻で小料理屋「花の里」の女将・宮部たまき（高樹沙耶）だけでなく、少し前に特命係へ異動してきた神戸尊（及川光博）だった。ところが、杉下が神戸に対し、少し鬱陶しいような表情を見せる。どうやら、まだ彼は杉下から「相棒」とは認められていないらしい。
警察庁警備局で警視だった神戸は、二階級降格されて警視庁特命係へ異動してきた。キャリアではないもののエリートコースを歩んでいた神戸が、なぜ「人材の墓場」と呼ばれる杉下のもとへ異動になったのか。不祥事があった記録が見つからないことから、神戸と旧知の間柄である監察官の大河内春樹（神保悟志）が真相を問いただすが、神戸は「へまをして」とはぐらかす。実際、弁はたつものの死体を見ると吐いてしまうなど、刑事としては頼りない面が目につく。
有能かどうなのかわかりづらい様子を見せつつ神戸は、特命係は警察にとって必要なのか調査と報告をする密命を帯び、警察庁から警視庁への庁内S（スパイ）として特命係に配属されていた。その目的のため、神戸は杉下の行くところ、しつこいくらい同行しようとする。また、知りたいという気持ちが言葉を多くさせたためか、あまり人物評を口にしない杉下から「意外と理屈っぽいですね、君は」と言わせ、「おまけに口うるさい」「いちいち君に注意されるのは不愉快です」とまで言わせる。
なにやら不穏さを感じさせる、特命係の二人の関係。上層部からの理不尽な要求も呑むのが組織人として当然だと、エリートとしての振る舞いを見せる神戸に対して、上司からの恫喝も組織からの圧力も馬耳東風で真実の追求をやめない杉下とでは、水と油。であれば、杉下は神戸をもっと置き去りにしてもよさそうだが、独自捜査にぴったり同行する神戸を積極的に拒まない。
行動をともにするうちに、神戸は杉下に独自の推理を開陳することが増えてゆく。ところが、たいてい「最後に一つ」と人差し指を立てながら質問を重ね、「細かいことが気になってしまう、僕の悪い癖」と微笑みながら、卓抜した洞察力から導き出される真実に驚かされる。
「相棒」シリーズは街で起こる身の回りの事件だけでなく、組織の腐敗や、国家や世界を揺るがすような出来事にも関わってゆくのが特徴だ。物語の幅広さは、目配りの効いた脚本はもちろん、各エピソードに登場する実力派俳優たちが支えている。往年のテロリスト本多篤人に古谷一行、ガーデニング好きな老女に草笛光子、特別養護老人ホーム所長のでんでん、iPS細胞研究に携わる研究員で神戸の元恋人に檀れい、神戸の元部下で警察庁警備局の警備システム係長に水野美紀など、連続ドラマと聞いて想像される俳優陣の枠を超えている。
話数を重ねるにつれ、庁内Sだった神戸が少しずつ変化していくのが伝わるのもSeason8の醍醐味の一つだ。杉下や、彼の捜査に同行して様々な事件を体験するうちに、庁内Sを続けるべきか否か、迷った末に決断をくだす。その決断を受け入れて、杉下と神戸がようやく「相棒」になる。
Season8ではほかに、初回から現在も出演しているイタミンこと捜査一課の伊丹憲一（川原和久）が、毒殺される危険にさらされる第8話など、シリーズのファンもにやりとしてしまう楽しさが満載だ。キザだけど憎めない、どこか青くささが残る神戸と杉下、彼らの絶妙な相棒ぶりは中毒性があること請け合いだ。
