上野千鶴子名誉教授による祝辞が大きな反響を呼んだ、東京大学の入学式。
会場となった日本武道館で"平成最後の新入生"たちに話を聞いてみると、「ロボットとか作りたい」「宇宙飛行士」「法学部に進学して政治学を学んで、偏見のない報道に関われたらいいな」「外務省を目指している。」「硬式野球部に入ろうと思っている。文武両道頑張っていきたい」と、新時代の東大に期待が膨らんでいるようだった。
一方、イギリスの教育専門誌「ザ・タイムズ・ハイアー・エデュケーション」などが発表した「THE世界大学ランキング日本版2019」では、これまで１位常連だった東大が初めて２位に転落。主な原因は、外国人学生の比率などから算出される「国際性」のポイントで、京都大学に差をつけられたことだった。これについては新入生たちも実感しているようで、「クラスに留学生が何人かいるのかなって思っていたけれど、自分のクラスは１人もいない」といった声が聞かれた。
■学生たちが考える「東大の課題」
"人生経験豊富"な東大生たちはどう考えているのだろうか。２浪から７浪まで、全員合わせると33浪になる"多浪"の学生でつくるサークル「東京大学多浪交流会」（代表は4浪の舘澤洋希さん）で話を聞いてみると、様々な課題が浮かび上がってきた。
・「もう少しすごい人がたくさんいるのかなと思っていたけれど思っていたよりいなかった。現役でも１浪でも、受かったという意味ではすごいが、"東大まで"の人がすごく多いし、東大に入ってからめちゃくちゃ頑張っているな、という人は10～15％くらいしかいないと思う」（文科II類２年・鈴木大雅さん）
・「僕が入った理科III類は首都圏、あるいは大阪、兵庫などの進学校の出身者がいっぱいいて、それ以外から進学してくると、入学した時点で友達が全然いないという問題があった」（医学部４年・大野嵩侃さん）
・「堅くて地味で真面目みたいな印象があるし、アイドルになりたい、歌手になりたい女子高生はいても、東大生になりたい女子高生はあまりいない。それがまずいと思う」（大学院総合文化研究科１年・桑原咲弥さん）
工学部３年の萩原湧人さんは慶応大学経済学部、大阪医科大学医学部をそれぞれ中退して東京大学工学部に入学した経歴を持つ。「就活市場を考えて慶応の経済学部に入ったが、やはり医者になったほうが安定するのかなと思い入り直した。でもレールに乗っかるのも違うと感じて、自分のしたいこと追求しようと、東大の理科II類に入った。今は電子工学を学んでいる。宇宙開発などにも興味があったので楽しいし、いろんなことができている。ただ、親や周囲には"医学部が良かった"大反対された。それがわかっていたので、親に内緒で東大を受けて、受かってから明かした」。
そんな萩原さんは東大の課題について「みんな知っていると思うが、東大生の官僚離れが進んでいる。国家公務員試験は難しいし、しかも薄給で激務な官僚にわざわざ突っ込むよりは、外資に行くとかベンチャーやるとか。そういう感じになっている」と話していた。
さらに現役東大生たちに話を聞いた。
インドと日本のハーフであるサーカー壽梨さん（教養学部３年）は、インドで育ち、飛び級をしたため、17歳で入学した。現在は授業が全て英語のコースで学び、女子サッカー部にも所属する。東大生であることにプレッシャーも感じるというが、将来はアナウンサーになりたいと話す。「やはり日本一の大学なので、中学、高校と東大に入るために勉強してきた。交換留学のプログラムもあるし、外国人が一般生として入学する方法もあるので、東大が国際性に欠けるは感じていない。私の周りは留学生が多いし、私のクラスは女の子が13人、男の子が６人という割合なので、女子だから差別を受けたということも全くない」。
一方、現在３年生の高橋祐貴さんは「東大という記号で評価されても、それは自分自身の評価ではないという思いが強い。東大生かどうかというのを気にするかどうかというのは、要するに自己のアイデンティティーが、東大が自分自身よりも上にあるか、それとも自分自身がそれを超えるか、というところの問題に集約される気がする。"もういいじゃん東大とかって"と思えたらだいぶ楽だ」と話す。建築学科で学び、デザインや建築計画に興味を持っているが、進路については迷っているという。
■東大を中退、ハーバードに進学した学生は…
東京大学新聞社の記者としても活躍する高橋さんは、過酷な環境の研究室を「ブラックラボ」として特集したり、優秀な学生が東大と海外のトップを天秤にかけ、海外に行ってしまう現象を「蹴られる東大」として特集したりしてきた。
高橋さんが取材した学生の一人で、東大を中退してハーバード大に進学した高島崚輔さん（３年）にも話を聞いた。
高島さんは「僕の場合、18年間を大阪で過ごしていたので、大学の４年間を過ごす場所としより成長できる環境を考えてハーバードを選んだ。ハーバードは都会にあるが、森の中にある大学もたくさんあるので、政治経済、文化の中心である東京で学ぶということは、学外の機会もたくさんあると思う。そもそも日本の大学よりもアメリカの方が偉いということはないと思う」と話す。
その上で、日米の大学の違いについては「こちらはより勉強に時間が割かれていると思うし、必修の授業というものがなく自分で選んだり、ディスカッションベースの授業があったりと、色々なところで自分を主語にして問題にどう向き合うべきかを考えられる機会がたくさんある。専攻も自由に変えられるので、そのあたりのフレキシビリティも高いと感じる。また、研究がしたいからという理由で海外の大学を選ぶ子たちが多いが、それはアメリカの大学が１年生の頃から研究の機会を提供してくれるからだ。そういう機会が東大にもあればいいと思う。東大とハーバードでは学費が全然違うが、僕は大学から奨学金を頂いているので基本的に返済は不要。ただし、コスパを考えて本当に海外の大学に行くべきかは考えた方がいいし、人それぞれ合う人、合わない人がいる。アメリカの大学に来て、帰ってしまう人もいる。僕は留学フェローシップというNPOで海外進学の支援をしているが、高校生から相談を受けた時には、本当に海外でしかできないことがあるのか考えたほうがいいとアドバイスしている」とし、
再生可能エネルギーを学ぶ高島さんは、「教育をベースにひとりひとりが自分の使いたいエネルギーや自分の行きたい進路、やりたい学びを自己決定できる社会を作りたいと思っている。今は"ハーバード生の高島"呼ばれているが、所属に関わらず活躍できるように成長していきたい。"日本のため"にという思いも強いし、最終的には日本に帰りたい。ただ最初はアメリカでもいいし、ヨーロッパでもいい。両親は自分についてはもう諦めていて、応援もしてくれるので感謝している」と話した。
ジャーナリストの堀潤氏は「スタンフォード大学を取材したとき、日本からやってきた東大生のプレゼンに、ベンチャーキャピタルのアメリカ人から"君は将来、日本の企業人になるのか、それとも米国の企業人になるのか"と言われて、間髪入れずに"米国の企業人になります"と答えていた。日本の大学だけ並べて考えるのではなく、海外の大学も含めて考えなければ、投資家たちに売り込んでいくような国際競争力については見えてこないのではないか」と指摘していた。（AbemaTV／『AbemaPrime』より）
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