報道番組『かんさい情報ネット ten.』が10日に放送したコーナー「迷ってナンボ!」が批判を受け、読売テレビは13日、公式サイトに「不適切な取材だった」とのコメントを掲載。謝罪するとともに、当面のコーナー休止を発表。同日の放送の冒頭ではアナウンサーだけでなく、報道局長ら出演し、謝罪した。また、コーナーに出演していたお笑いコンビ・藤崎マーケットの2人も14日未明、Twitter上で収録時の状況を説明するとともに謝罪した。
問題となったのは、飲食店の店員に「常連客の性別が分からないので確認してほしい」との依頼を受けた藤崎マーケットの2人が、その常連客に接触。「彼女はいない」という発言を聞き出し、店員に男性であると報告。しかし依頼主らが納得しなかったため、2人は再び常連客の元へ向かい、性別を確認するためとして保険証の提示を求めたり、本人に促され、服の上から胸部を触ったりするなどした。このVTRに対し、コメンテーターとして出演した作家・若一光司氏が激怒。インターネット上にも、若一氏の指摘を支持する声が次々と寄せられた。
個人の性別をネタにした放送に、街では「あまり聞く必要はないかなと思う」「聞けない。失礼だなと思う」という声や、「これ流してもいいですか?みたいなものを(相手に)聞いたと思う、テレビ局も。その人の意思に反してないんだったら別に大丈夫じゃないか」など、様々な意見があがった。
AbemaTV『AbemaPrime』では、取材を受けた大阪市内のsabu chanさんに自宅で話を聞いた。
■sabu chanさん「自分の方から促していた部分もある」
「まさかこんな大事な騒動になるとは、というのが正直なところ。放送も面白かったなというのが率直な感想で、若一先生が怒り出してから、何かおかしい感じになったなと思った。なんで急に怒り出したのかなというのがまずあったが、確かに、言うことはもっともだなというのもあった。面白かったという視聴者もいるだろうし、本人が良ければそれで済む問題ではないという声もある。難しい問題だなとは思う」。騒動について、sabu chanさんはそう話す。
また、取材時の雰囲気については「直撃取材だった。あそこにいたら向こうから歩いてきて、なんか面白いことが始まったという感じ。どっちか分からないような人が毎日お店に来たら、そりゃ気になるやろなというのはあったから、そういう流れになるだろうというのもあった。テレビでフルネームを言うのはちょっと…ということで下の名前を名乗るのは断ったが、不愉快な思いなどは一切なかった。逆に胸を触らせたり、保険証を見せたりしたのも、"こうした方が面白くなるかな"と自分の方から促していた部分もある」と証言。
その上で「番組で出てきたお店にクレームが殺到していて、すごく困っているらしい。あのお店にはワンちゃんもかわいがってもらっているし、そういうことは本当にやめてほしい。ネットニュースの文面だけを読んで批判している人も多いと思うし、正直、"こんなに騒ぐようなことなのかな?"と思う。お店の人や僕を置き去りにして騒いでいる感じがする。迷惑している。あの場で若一先生が何も言わなかったとしても、同じように問題になったのか?」と苦言を呈した。
なお、sabu chanさんは放送後、自身がXジェンダー、アセクシュアルであることを明かしている。Xジェンダーとは、身体的性別に関わらず、性的アイデンティティが男性・女性どちらでもない人のことで、アセクシュアルは「性的に惹きつけられることがない人」のことを指すし、恋愛感情を持つ"非性愛"と"恋愛感情を持たない無性愛"に分類できるとされている。
■夏野氏「9割の奴はネットニュースだけを見て怒っている」
慶應義塾大学特別招聘教授の夏野剛氏は「テレビ局は情報番組と報道番組を切り分けていて、情報番組は情報の精度なども少し緩い。今回の企画についてsabu chanさん本人が怒ってらっしゃるならやめた方が良かったと思うが、全然気にしてないし、面白かったと言っているから、それで良いと思う。性的少数者を否定しているわけじゃないし、無理強いでやったわけでもない。テレビ局が言えないような保守的な意見や革新的な意見を言うのもコメンテーターの役割。"まあまあ、そうは言ってもテレビなんだからいいじゃないか"と言うコメンテーターがいれば、こんなことにはならなかった。一部の人がものすごいギャーっと騒いでいるけど、マジョリティがどっちか分からないし、9割の奴は番組を見ずにネットニュースだけを見て怒っているだけ。これが全部、読売テレビの仕掛けだったらいいのになと思う。これだけ炎上して、これだけ大騒ぎになって、報道局長が謝ったけど、話題になってよかったじゃん、って。大体、みんなプライバシーに立ち入るなというけれど、芸能人の誰と誰が付き合ってるとか、不倫問題についても、あれだけしつこく聞いている。乙武君は不倫問題でどれだけ追い込まれたか」と主張。
また、幻冬舎の箕輪厚介氏は「今の感覚では胸を触るのは確実にアウトだが、たとえば15年前なら普通にやっていたと思う。笑いに対する意識とも重なる部分があるが、性に対する意識が時代と共に変わっているこことに敏感ではなかったということだと思う。ただ、セクシュアリティの話って、触れたらアウトというか、確実に炎上すると思って誰も触れられなくなっている。問題意識を持っているわけでもないのに、鬼の首を取ったように"やっちゃったね、お前ら"と言っている奴も多数いる。正義ヅラして"はい、ダメ"と風紀委員になってるような気もする」と指摘した。
■カンニング竹山「こういうことをしていたらテレビは本当に終わる」
お笑いタレントのカンニング竹山は、「今回のVTRはオンエアするレベルじゃない編集の下手さとネタの選び方だ。報道番組だからダメだということではなく、深夜のバラエティでもアウトだと思う。そして藤崎マーケットが悪いという問題じゃないと思う。VTRを作ったディレクター、そしてプレビューした責任者、総合演出、もしかしたら報道局長たちがオッケーしていたとしたら大問題だ。テレビの作り手のクリエイターの低下だと思うし、こういうことをしていたらテレビは本当に終わる。今、テレビを終わらせないために、もっとテレビは面白いぞと頑張ってる時に、あまりにもディレクターの質が低すぎる」と苦言を呈する。
「若一さんが怒ったときに、アナウンサーやコメンテーターが"そうはいってもね"と議論を始めればよかった。時間の問題もあるし、次のコーナーに行かないといけないのはわかるが、それこそサブにいるディレクターなどが"次は飛ばして話をさせろ"と指示をするが生放送だろう。悪かったところは謝ればいいが、規制だけでは何も生まれない。より良くするためにも、オープンに議論するためにはどうすればいいかを考えないと、ジェンダーの問題だけでなく、規制する方向に行ってしまう」。
■小島慶子氏「人権の問題だ」
一方、エッセイストの小島慶子氏は「Xジェンダーとかアセクシュアルの方を一括りにしたり、sabu chanさんに代表させたりするのはおかしい。sabu chanさんは平気だったかもしれないが、言いたくないこと、言っても構わないことは人それぞれだ。昔と比べて細かいこと言うようになったとか、面白いことやろうとしても"配慮、配慮"でできないじゃないかという意見もあると思う。でも、見ている人の中には、自分もあんなふうに暴かれちゃったらどうしようとか、自分っていじられちゃう存在なんだと感じて、辛い思いや怖い思いをする人もいるということが今はわかるようになっている。それなら"テレビ作ってる人、すごくわかってるじゃん。いいじゃん"って言われるようなものを作った方がいい」と訴える。
その上で「人のセクシュアリティに踏み込んでもいいかという議論と、炎上しているところにただ乗っかって、面白そうだからお店を潰してやろうとか、叩かれてるやつをもっと叩いてやろうという面白がりの問題は別。前者は人権問題だが、後者も、また別の人権問題になっている。ネットの騒動によって人生が変わっちゃう人もいるので、そこに乗っかってくる人たちに対して納得がいかないというsabu chanさんの意見には同感だ」と述べた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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