(「令和のエース」として防衛戦に臨む宮原。試合だけでなく言葉のセンスにも磨きがかかっている)

この春、秋山準社長が舵を取る全日本プロレスは大きく前進した。3月19日、“平成最後の三冠王座戦”では王者・宮原健斗と挑戦者・野村直矢が激闘を展開。平成生まれ同士の新鮮なタイトルマッチだった。野村を下した宮原は、伝統のリーグ戦チャンピオン・カーニバルでも優勝を果たす。シングルマッチの連戦の中、常に狙われるだけに王者の優勝は難しいとされてきた。偉業達成と言っていいだろう。

決勝で対戦したのはジェイク・リー。宮原と同じ30歳で、初の決勝進出だ。結果として宮原が勝ったものの、ジェイクも大善戦している。お互いヒザ蹴りを得意とするだけに、一発で形勢が逆転するスリリングな展開が続いた。

内容とともに重要なのは、宮原vs野村、宮原vsジェイクで後楽園ホールが超満員になったことだ。新しい顔合わせの大一番を、ファンが支持したのである。ジェイク、野村、それに青柳優馬といった自分と同世代、あるいは下の選手が台頭してくることを、誰よりも望んでいたのは宮原だ。全日本プロレスの新時代と呼ばれることについては「彼らは新時代。俺は宮原時代だから」とあえて差別化する宮原だが、ジェイク戦を終えると「やっとライバルに出会った。それがチャンピオン・カーニバル優勝と同じくらい大きい」と語っている。時間をたっぷりかける入場、コール&レスポンスで大会を締めるマイクでも知られる宮原は、常に自分のやり方で全日本を盛り上げてきた。

「俺はエースだから、ほかのレスラーと価値観を共有することはできない。プロレスの神様とだけ会話して、答えを探してきた」

自分の強みを「ナルシストさ」と言う宮原らしいコメントでもあるが、今は孤独ではないだろう。少なくともライバルがいる。

5月20日の後楽園大会では“令和初の三冠戦”が決定。挑戦するのは、リーグ戦で宮原に土をつけている“大巨人”こと石川修司だ。DDTや大日本プロレスのトップ戦線で活躍し、全日本でも三冠王者に。現在は諏訪魔と世界タッグ王座(PWF&インターナショナルタッグ)を保持しており、宮原を倒せば“五冠”達成となる。ここ数年フリーとして活動してきた石川は、今年から全日本所属に。挑戦に向け「宮原一強じゃつまらない」とコメントしている。宮原自身、石川の「俺は二番手、三番手になるために所属になったわけじゃない」という言葉を重く受け止めているようだ。

宮原はチャンピオン・カーニバルに優勝して「令和のエース」を宣言。全日本プロレスをさらなる高みに引き上げるという思いはまったくブレることがない。

「ファンの皆様に、もっと最高の景色を見せる。俺を見てれば、そうならざるを得ませんから」

“宮原時代”が確立され、若いライバルが出てきた今だからこそ、石川のような上の世代の奮起も意味が大きくなってくる。それを宮原自身も分かっている。これまでにも名勝負を繰り広げてきた宮原と石川だが、今回はまた違う見え方、魅力を持った三冠戦になるのではないか。

文・橋本宗洋