11日、性暴力の被害を受けた当事者や支援者らが刑法の改正を訴え、全国各地でデモを行った。
きっかけは愛知県、福岡県、静岡県など4つの裁判所の性犯罪をめぐる裁判で無罪判決が相次いだことだ。こうした判断の根拠となっているのが、刑法177条「暴行又は脅迫を用いて」、同178条の「抗拒不能に乗じて」という箇所だ。つまり、殴る・蹴るといった暴行や、"殺すぞ"といった脅迫によって抵抗が著しく困難な状況にあったことが認定されなければ、強制性交等罪や準強制性交等罪が成立しないのが実情なのだ。
今年3月、19歳の実娘への準強制性交罪に問われた父親に対する名古屋地裁岡崎支部の判決では、「娘の同意は存在せず、極めて受け入れ難い性的虐待に当たる」として、性的虐待が中学2年生の時から続いており、被害者の意思に反するものだと認定したものの、「著しく抵抗が困難な状態にあったとは認められない」と判断、無罪を言い渡している。
こうした状況を受け、実父から性暴力被害を受けた経験を持つ山本潤さんらは刑法の改正を求める要望書を法務省に提出。受け取った山下貴司法相の様子について「やはりこういう性暴力の被害は"魂の殺人"であると話していた」と明かし、同席した人も「被害者の声を聞くということに対して、とても真摯に受け止めて頂いて、本当によく聞いて頂いた」と話している。
18日放送のAbemaTV『みのもんたのよるバズ!』では、この問題について議論した。
■元タカラジェンヌでLGBT活動家の東小雪氏「合意の無い性交は犯罪だ」
元タカラジェンヌでLGBT活動家の東小雪氏は、3歳頃から実父による性虐待を受けていたことを自著『なかったことにしたくない』で告白している。東氏は「放送をご覧になっていて"しんどいな"という方は、お休みしながらご覧になって頂きたい」と話し、自らの経験について明かした。
「お風呂場で、小学校3年生くらいからは挿入を伴う深刻な被害に遭っていた。それでも一緒に暮らしている家族だし、"お父さん大好き"と思っていたので、言っていいのか、言ったらどうなるかもわからず、抵抗するという選択肢もなかった。一度だけ母親に"お父さんがお尻の辺りに恥ずかしいことをするから、止めてほしいと言って"と必死で訴えたことがあった。しかし母は目を合わせず、聞こえないふりをした。幼心に"言ってはいけないことなんだ"と強烈に感じ、それからは誰にも相談することができなかった。これらの体験は、私の人生に傷跡が残ってしまう、本当に辛いものだった。20代後半になってカウンセリングを受けるようになるまで、自分はどうしてうつなんだろうとか、どうしてお薬をたくさん飲んでしまうんだろうと思っていた。お風呂場での出来事も、斜め上から眺めているような記憶になっている。心と身体を切り離すことでサバイブできたんだと思う。その後、専門的なカウンセリングを受け、仲間に支えられてここまで回復することができた。そして26歳のくらいの時、被害に苦しんでいる人たちがたくさんいらっしゃることを知り、自分の被害を隠し続けないでいい、自分のような思いをする子どもが1人でもいなくなって欲しいと思い、性被害の体験を話すことにした」。
その上で東氏は「抵抗しなかったから無罪、というのは本当に納得できないし、とても苦しい。やはり暴行・脅迫要件は無くしてほしいというのが当事者としての思いだ。合意のない性行為は性暴力なんだ、性犯罪なんだということを明確にしてほしい」と訴えた。
■国際弁護士の湯浅卓氏「近親相姦罪を加えてもいいと思う」
国際弁護士の湯浅卓氏は「私も名古屋の判決は感覚的に納得ができない」とし、「第一級強姦罪を定めたニューヨーク州の法律の条文には、"暴行や脅迫"というのがない代わりに、"強引な強制"という言葉が入っている。つまり、名古屋地裁の事件で考えれば、当然、14歳から19歳に至るまで続いてきた強制の歴史も含まれるということだ。そうでなければ、罪に問われた2年前の時にはたまたま暴行・脅迫がなかったから、ということになってしまう」と指摘。日本の刑法に、アメリカの法律を参考とした「近親相姦罪」の導入を主張した。
「アメリカの場合、強姦罪の他に近親相姦罪というものがある。いま問題になっているような事例は、アメリカであれば近親相姦罪にあたるケースだ。しかもニューヨーク州の場合、ここに強制わいせつなども含まれるし、対象も親子間だけでなく祖父母、おじ・おば、甥・姪、も含まれている。近親相姦の方がデートレイプと比べ冤罪率もはるかに低いし、強姦罪は残し、同意なき性交罪、近親相姦罪を加えてもいいと思う。カテゴリーをはっきりと示した上で、国民に対し周知徹底すれば済むことだ。そして日本では裁判員制度の対象は殺人罪などだが、アメリカの場合は性被害も陪審員裁判。だから裁判官の感覚がちょっとおかしくても対応ができる」。
この提案に、東氏も「日本でも近親相姦を明文化し、禁じて欲しい」と同意。実際、不同意性交が罪に問える国には、イギリス、カナダ、ドイツ(2016年改正)、スウェーデン(去年改正)がある。「冤罪を気にする方も多いと思うが、イギリスでは有罪になったのは60%というデータがあるので、なんでもかんでも有罪になってしまうわけではない」(東氏)。
■自民・丸山和也参院議員「5年、10年の期間をかけて決めていくことになってしまう」
2年前に刑法改正を審議した際の参議院法務委員会のメンバーで、弁護士でもある丸山和也参議院議員は「2年前、山本潤さんにも参議院の公聴会に来て頂いたが、110年ぶりに改正されるまで性犯罪に関してはかなり遅れていた。だから以前よりは相当良くはなっている。それでも家族間だけでなく、リスペクトがあったり、指導を受けたりしているような立場や、会社の上司・部下など、一定の関係性があるところで起きる性暴力の場合、暴行・脅迫がなくても心理的に萎縮し、抵抗が一切できずにフリーズしてしまうと思う。それなのに暴行・脅迫要件が入れば、声を上げていないではないか、抵抗していないではないかと、同意があったのではないかと判断されてしまう。2年前の改正時にも、そのような議論はたくさん出た。しかし同意の有無については物証となるものがないため、判断が非常に難しい。最終的に、"そこまでいくのは厳し過ぎるだろう"ということで、多数決で残ることになってしまった。性的な被害が多様化する中、かなり柔軟に判断しなければならないが、こういう事件を裁く経験が裁判所に蓄積されておらず、能力に乏しいという問題もある。裁判官が"最初は抵抗していたけれど、途中から抵抗しなくなったから"といった、古典的な判断をしがちだ」と指摘する。
「今の刑法がダメだという観点に立てば、暴行・脅迫要件を外し、合意の有無だけに絞るということになるが、刑法が罰を科す法律である以上、経済・民事関係の法律に比べ、コロコロ変えるべきものではないと思う。ひどい判例が続けば改正の圧力が強まると思うが、現実論的には2年前に法改正があったばかりなので、法制審議会にかけ、少なくとも5年、10年の期間をかけて決めていくことになってしまうと思う。それまでの間は認定をする裁判所の技術を上げることと、性犯罪の形態を細かく類型化し、規定化することで対応してくべきだ」。
議論を受け、東氏は「性暴力の被害者を支援するような法律も作って頂きたいし、相談体制も強化してほしい。そして、被害に遭われた方にお伝えしたいのは回復することはできるし、支えたいと思っている人もたくさんいるので、無罪になったからといって相談するのをやめて1人で抱え込まず、よりそいホットラインや地域のサポートセンターと繋がってほしい。決して諦めないでほしい」と呼びかけていた。(AbemaTV/『みのもんたのよるバズ!』より)