「実態を知らぬ“嫌韓”の罪深さ」新大久保駅転落事故から18年、勇気ある韓国人留学生が未来に託した「日韓の架け橋」
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 先週金曜日、JR新大久保駅に1人の韓国人女性の姿があった。辛潤賛さん(68)は今から18年前、この駅で大切な長男を失った母親である。毎年の命日には、事故現場となったこの駅を欠かすことなく訪れているという。

 2001年1月26日、JR山手線・新大久保駅で線路に落ちた人を助けようとした二人の男性が犠牲になった。そのうちの一人である李秀賢(イ スヒョン)さんは当時、日本語学校に通っていた韓国からの留学生。当時26歳だった。

 事故現場となったホームに立ち、悲しみのあまり今にも崩れそうな身体を懸命に維持しながら「いつもここに息子がいるような感じがします」と涙ながらに話す辛さん。18年前の1月26日、一体何が起こったのか。

 東京・新宿のある日、この日に行われていたのは、3月に亡くなったイ スヒョンさんの父であるイ ソンデさんを偲ぶ会。ソンデさんは息子の死後、日本と韓国の学生をつなぐ奨学金制度を設立。この日は外交官などの関係者を含む80人を超える人が献花に訪れていた。

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 スヒョンさんは、高麗大学に在学中の25歳の時に日韓の貿易関係に興味を持って来日した。スヒョンさんが通っていた赤門会日本語学校の新井時賛理事長は当時のことを「自分は必ず『日韓の架け橋』になるんだと話していた。明朗活発で非常に運動も好き。音楽も好き、勉強も好きの稀にみる好青年。絵に描いたような学生だった」と振り返る。

 自らの命を顧みず、勇気ある行動を起こしたスヒョンさん。その行動を称えられる一方で、母親が大切な息子を異国の地で亡くした悲しみは想像を絶する。また、この日は両親の活動を追ったドキュメンタリー映画「かけはし」が上映された。その映画では、来日した韓国の学生と日本の学生が、交流を深めながら歴史認識の違いを知り、成長していく姿が描かれている。

 来場者した中高年の女性らが「すごく色々と考えさせられる」「今まで過ごした時間の中で今日が一番、有意義な時間の過ごし方だった」と映画の感想を述べれば、若い夫婦は「子どもが立派に育つような親でいなくてはいけないと感じた」と話した。

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■現実を受け入れられず、霊安室で眠る息子の携帯に電話を掛けた

 近年、その関係が悪化の一途をたどる日韓関係。こういった状況の中、スヒョンさんの母親はどのような思いを抱いて18年間を過ごしてきたのだろうか。18年前の事故当日、第一報を聞いたときの気持ちなども含めて話を伺った。

「連絡があったのは夜1時過ぎでした。大けがをしたということだけ聞いたので、足が不便になるのか? 腕は不便になるのか? などケガのことばかり考えていた」

 そう話した辛さんの思いは、来日直後に一変する。成田空港に降り立ったご両親を待ち受けていた報道のあまりの多さに「ただ事ではない」ということを悟った。しかしこの時点では、息子の死を知らなかったという。その後、警察署の霊安室でスヒョンさんの遺体と対面することになる。

「これはうちの息子ではない」

 現実を受け入れることができなかった辛さんは、その場でスヒョンさんの携帯電話を鳴らした。しかし、スヒョンさんの死という辛い現実は揺るがなかった。スヒョンさんの夢は、事故の翌年に開催されるサッカーの日韓W杯で通訳をすることだった。その夢は叶うことはなかった。

 この事故を経て、日本を恨んだことは無いのか? その問いに対しては次のように答えた。

「生前、スヒョンが日本が韓国より技術的な面でかなり発展していると言っていた。だから私も駅の機械は優れていると思っていた。スヒョンもそれを信じて行動を起こしたのだろう。事故後に実際に駅に行ってみたらホームドアやストップ装置もなくて、その時はすごく恨みました」

 しかし、辛さんの思いはある出来事を機に変化したという。

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■「日本と韓国の架け橋に」亡き息子の遺志は未来の学生に託された

「葬式が行われたその日はすごく大雪だった。でも事故を通じてスヒョンのことを知ってくれた多くの方が、手紙を書いて参列してくれた。いただいた手紙を1枚1枚読んでいるうちに気持ちが切り替えられるようになりました」

 翌2002年には、全国から寄せられる支援金を元手に、アジア人の留学希望者を支援するLSHアジア奨学会を設立。「日本と韓国の架け橋になりたい」という息子の遺志を継ぎ、その活動は続けられている。その理由について辛さんは「息子は夢を叶えることができなかったが、同じ夢を見る留学生もたくさんいる。スヒョンの強い遺志が多くの人を動かしたんだなと感じています」と語ってくれた。果たしてこの18年間は、そんな辛さんにとってどのような年月だったのか――。辛さんは「息子は無くしてしまったけど遺志を受け継いだ18年間だった」と穏やかな笑顔で答えてくれた。

 実際に話を聞いたテレビ朝日三谷紬アナウンサーは「事故が起きた2001年は小学一年にもなっておらず、事故のことはほとんど知らなかった。事故が起こって、息子さんが亡くなってから失意に落ちるのではなく、その後を見据えて、これからの留学生のことを支援しようとしたお母様やお父様の活動に心を打たれました。自分自身、何か嫌なことがあったらそこで落ち込むのではなく、次のことをしっかり考えた人生を送りたい」と静かに語った。

 この事件を受け、今日に至るまで日本では様々な変化があった。外国人留学生は2001年の約7万8000人から2018年では約29万8000人に増加。さらにスヒョンさんのような悲惨な事故を未然に防ぐための駅ホームドアの設置や緊急停止ボタンの設置。防犯カメラの増加など、事故の教訓は着実に生かされている。

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■実態を知らずに“嫌韓”に走る「罪深さ」

 こういった民間レベルで進む交流を受け、今後の日韓関係について意見を求められた国際政治学者の舛添要一氏は「やはり政治が問題。文大統領も安倍首相もしっかり政治の判断をすべきだし、政治判断をフォローするメディアも同じことだ。今だから話しますけど、3年前に失脚した大きな要因の一つは『日韓関係を良くしよう』としたこと。当時の朴大統領に会いに行った矢先に批判が増えた。政府が日韓関係改善に取り組まなかったから、関係はものすごく悪かった。せめて地方の政府から改善を図るべきと考えた。東京とソウルは姉妹都市にあたる。しかし、ヘイトスピーチがものすごかった。日韓の歴史認識において間違っている点は間違っていると申し上げるが、それ以上に“政治の意思”がしっかりしなければならない。ようやく朴さんと安倍首相が話せるようになったら、政権交代。非常に悲しいですね」と持論を展開した。

 ネット問題に詳しい文筆家の古谷経衡氏は舛添氏の話を受けて「スヒョンさんの事故の翌年のW杯あたりからネット右翼(ネトウヨ)と呼ばれる人たちが出てきた。2003年から2006年に至るまで、それらの人々はこの事故について『事故自体がねつ造だ』と言っていた。韓国民団(大韓国民団)や日本メディアが韓国を美化するためにわざわざねつ造したとも。舛添さんが叩かれていた時に、何の根拠もない『舛添は在日コリアンだ』という噂も流された。ネット右翼の台頭に伴い、韓国人と実際に、または通訳を介して話したことも無い人たちが『韓国は滅亡する』『韓国人は嘘つきだ』『韓国人は盗人、詐欺師だ』と言い続けてきた。後に逮捕されたある人物に関しては、韓国に行ったことすらなかった。これが実態だ。韓国では反日本など売っていない。日本だけだ。この状況をどのように考えるか」と語気を強めた。

 続いて大阪で生まれ育ったというタレントの時人は「周りに海外の人が多く、“何が嫌なのか”は分からないが、シンプルに軽蔑したり、差別したりということがあった。理由もわからずに『嫌韓』でいる人が多いと思う。僕もそうだが、こういったことを知ることができれば、実態を分からないまま差別している人が減るはずだ」と話した。

 最後に三谷アナは「日本で韓国がブームになったり、多くの韓国人が日本を訪れている。民間同士の交流は増えていてうれしい。一方で政治がかなり緊迫している状況だが、我々は政治について何も言うことは出来ないのでもどかしい」という辛さんの言葉を代弁した。

 なお、映画「かけはし」は5月31日に大分で、6月25日の韓国での初上映を経て、7月7日に大阪、8月30日、31日は沖縄で上映される予定だ。

(C)AbemaTV

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