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(のどかに豪快なジャイアントスイングを決める未詩。大会2日前、番組で憧れのアイドルの一人、松村香織と共演したことも力になったか)

 東京女子プロレスが毎年開催しているトーナメント「東京プリンセスカップ」が、5月25日の北沢タウンホール大会からスタートした。今年は16名参加で、7月7日まで続く長丁場。選手層が厚くなっている東京女子らしく、初出場の選手も多い。

 その一人が、アップアップガールズ(プロレス)のメンバーである渡辺未詩だ。アイドルとプロレスの完全同時進行を掲げたグループで、結成からもうすぐ2年。プロレスデビューから1年半になる。昨年は出場枠をかけて同じメンバーのヒカリと対戦し、敗戦。「もしあそこで勝てていたら、その後の環境が違ってたのかもしれない」と言う。ヒカリと組んで昨年12月にタッグ王座に挑戦している未詩だが、大きな実績は残せていない。黒星も多い状況だ。

 ただ、負けるのは上位と対戦しているからでもある。今年に入り、未詩は多くの大会でメインイベントに出場。また沙希様と操のNEO美威獅鬼軍に食ってかかり、後楽園ホール大会という大舞台で対戦してもいる。そうした経験は、確実に力になっていた。トーナメント1回戦を前に話を聞くと「先輩たちとの試合をたくさん経験して、身についているものは多いので。あとはそれを結果として見せていきたいです」と未詩。

 彼女はアイドルでありつつパワーファイターだ。得意技はカナディアン・バックブリーカーにベアハッグ。ソフトボール部出身で、投球フォームから繰り出すチョップ「レーザービーム」やバッティング式のダブルハンマーといった技も繰り出す。東京女子の試合を定期的に見ているファンなら、黒星が多い中でも試合ぶりがよくなっているのを感じていたはず。本当に、あとは結果を出すだけという状況だった。

 そこで迎えたのが、このトーナメントだ。1回戦でぶつかったのは昨年ベスト4の天満のどか。未詩にとっては先輩に挑む形だ。ここで未詩は、初披露のジャイアントスイングで主導権を握った。レスラーになる前から(バラエティ番組を見て)唯一知っていた技だという。

その後も未詩はのどかと真っ向勝負を展開。最後は新技で勝利した。返し技、丸め込みではなくしっかりダメージを与えての3カウントというところにも価値がある。

 相手を抱え上げ、顔面から落とす変形フラップジャック、裏バックドロップと言える新技の名前は「ティアドロップ」。未詩曰く「私が好きなアイドルの歌の名前です」。もともとはアイドルオタク、今も休日は「現場」に通う。グループに入るまで、プロレスについては何も知らなかった。アイドルになるためにプロレスが必要で、しかしやってみたらどんどんプロレスにのめり込んでいった。

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(パワーでは団体屈指の存在に。昨年末あたりからフィジカルトレーニングにも精力的に取り組んできた。ライブではMCの中心に。その部分でも力を上げている)

「みんな(周りの選手)はプロレスが好きで入ってきているけど、私はそうじゃない。だったら今、1日24時間の中で少しでもプロレスに関わる時間を長くしたい」

 そんな思いから、道場では通常練習だけでなく別グループの“先輩組”にも参加している。

「去年の夏の終わりくらいから、プロレスに対する気持ちがどんどん大きくなって。トーナメントに出る16人の中でも、成長のスピードは自分が一番早いと思ってます」

 努力は必ず報われる――のかどうかは分からないが、少なくとも未詩の努力は報われた。練習してきたこと、試合で負けながらトライしてきたことが、トーナメントという大事な闘いで、初の先輩越えという結果につながったのだ。

 もし、この勢いでトーナメントに優勝すれば、9.1大阪大会でシングル王座に挑戦できる。「目の前の試合で一つ一つ全力を」という未詩だが、今年の夏は「結果を出したい」という思いも強い。プロレスだけでなくアイドルとしても、だ。TOKYO IDOL FESTIVAL(TIF)をはじめ各種フェスが開催される夏は、ブレイクを期すアイドルにとって“勝負の季節”である。

「去年は“TIFに出たい”という思いでした。でも今年は“より大きいステージに立ちたい”って。それはどのイベントでも思います」

 夏に向けて、まずは一つ結果を出した。レスラーとして、アイドルとして「欲を出していきたい」と未詩は言う。今の彼女には、それだけのことをやっているという自負があるのだ。

文・橋本宗洋

(C)DDTプロレスリング

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