「戦後最大の司法改革」とも呼ばれた裁判員裁判の開始から10年を迎えた。これまでに９万人を超える人が裁判員に選ばれ、およそ１万2000の判決を下してきた。しかし、市民が有罪か無罪かを判断しなければならない法廷の実態については未だ見えてこない部分が大きい。
また、数字で見てみると、2009年には53.1％だった辞退率は年々上昇、2019年には年間8万5000人以上、実に68.4％に達する。さらに呼出状を受けての無断欠席率はおよそ４割、裁判の出席率も2009年の83.9％から2019年には66.5％にまで低下している。背景には、2009年には3.4日だった審理日数が2018年には6.4日と年々長くなっていることもありそうだ。
そこで３日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、裁判員の経験者に話を聞いた。
■無断欠勤扱いになり、退職を余儀なくされた男性も…
2011年に裁判員を務めた木村宏之さんは、東京都目黒区で起きた凶悪な強盗殺人の裁判を10日間にわたって担当した。勤務先の上司には、裁判員を理由に会社を休むと伝えたが、当時は事例がなく、無断欠勤扱いされてしまったという。
「裁判が終わって会社に戻ると、机の上には段ボールが積まれ荷物置き場と化していた。"忙しい時に暇なことやっているやつは違うよなぁ"みたいな言い方をされ、評価も下がった」。会社に居づらさを感じ、退職。持病だったうつ病が悪化し、現在は障害者雇用を利用して働いている。
それでも木村さんは「裁判員をやって良かったと思う。他の人の視点や考え方を聞ける機会になったし、社会に対する還元という意味もある」と力を込めた。
■「精神的・肉体的な疲労感が強かった」
不動産会社に勤務するる田口真義さんが裁判員を務めたのは９年前。最初に届いたのは最高裁判所から送られてきた、候補者に登録されたことを知らせる「候補者登録通知」だった。この時点で裁判所に出向く必要はないが、その後１年間は「呼出状」が送付される可能性があり、正式な呼び出しを受けたにも関わらず、病気や高齢、子育て、仕事など、やむを得ない理由もなく欠席すれば、10万円以下の過料が課されることもある。「裁判所からの通知なんて、なかなか受け取ることがない。心当たりがないので、ちょっとドキドキしました」。
候補者の中から義務教育を修了していない人や国会議員などが除外され、質疑応答や抽選を経て、一つの事件につき６人が選任手続きを経て、正式に裁判員となる。主な役割は、証拠調べや証人への質問だ。
また、裁判員裁判で裁かれる罪は、殺人、傷害致死、現住建造物等放火、保護責任者遺棄致死、強盗致傷、危険運転致死、身代金目的誘拐、覚醒剤取締法違反などの非常に重いものに限定されている。社会の関心が高く、重大な事件が基本だ。
田口さんが担当したのは、保護責任者遺棄致死の罪に問われた事件だった。 他の裁判員５人、裁判官３人と一緒に下した判決は有罪、量刑は２年６月だった。終了後、記念のバッジをもらった。
「帰る方向が同じ裁判員の方とは互いに気を遣って、あえて電車の時間をずらしていた。交流してはいけないような雰囲気があって、お互い番号だけで、どこに住んでいるのか、何をしているかも分からなかった。裁判員制度が始まってすぐの時期だったし、もちろん刑事裁判で法廷は初めて。右も左も分からない状況で、"これでよかったのかな"という思いはある。被告人だけじゃなく、被害者、その遺族の人生もかかっているわけだから、とにかく間違いがあってはいけないと、決して適当な判断はできないということで、精神的・肉体的な疲労感が強かった」。
■裁判官に「違う」と言えるのが裁判員の役割
それでも裁判員をやってよかったと話す田口さん。その後、裁判員経験者が交流できるコミュニティ「LJCC事務局」を設立、経験談を多くの人に知ってもらうべく活動している。
改めて裁判員の役割について田口さんは「裁判官はレールを敷いて、ストーリーを展開していく役割で、なかなか議論に加わらなかった。僕はあえて"どう思うのか？"と聴いたりして、裁判官を巻き込んだ。裁判員には前例なんてないし、２回目、３回目の人もいないので、前例がどうかは関係がない。いわば裁判官と同じ１票を持っているわけだし、裁判官がこうだと言ったことに対して、違うと言えるのが裁判員の役割だと思う。事件が起きると、被疑者=極悪人というイメージがついてしまうが、裁判員を経験したことで、罪を犯してしまった人の背景を違う視点からみることができるようになった。アメリカのように、日本にも"裁判チャンネル"みたいなものができてもいいのかなと思う」と話す。
■カンニング竹山「メディアで言っていかないと」
平日の昼間は全て裁判所で過ごし、傍聴回数は１万回を超える裁判傍聴芸人の阿曽山大噴火は、田村さんの裁判員裁判も傍聴したといい、「田口さんは生放送ですごいことまでお話になっている」と評価した上で、「当時に比べて結構フランクなのかもしれない。オウム事件を担当した裁判員同士が連絡先を交換して結婚したというケースがあって、裁判官に報告したらプレゼントが届いたらしい（笑）」と話す。
また、裁判員の意義について「証拠の写真を見て倒れてしまった人もいるということで、CG化されるようにもなっているが、本当の証拠じゃないわけで、それはありなのかとも思う。かなりプレッシャーがあるのは確かなので、選ばれても行かなきゃいいじゃん、と思う。実際に過料の10万円を払わされたという報道もない。ただ、こういう時、裁判員のデメリットばかり言うが、メリットもあると思う。法廷で喋ったことが重要になってきたので、"調書主義"が崩れつつある。これはものすごくいいことだと思う」とし、プロの裁判官ではないからこそ下される厳しい判決や、逆に執行猶予が付きやすい傾向について指摘した。
カンニング竹山は「もちろん裁判は見に行けるし、僕も何度か傍聴に行ったことがあるけれど、裁判員制度についてはこの10年間、閉ざされていた感じがするので、こうやって経験者に話を聞くしか無い。誰でも選ばれる可能性があるんだから、知らないといけない。メディアでも言えるかぎり、言っていかないと」と話していた。（AbemaTV／『AbemaPrime』より）
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