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(コメント中の佇まいからして「レスラーらしさ」皆無のらく。そこが魅力と言うしかない)

東京女子プロレスのトーナメント「東京プリンセスカップ」。1回戦の中で注目カードの一つだったのが、伊藤麻希vsらくの対戦だ。

1.4後楽園ホールで山下実優のシングル王座に挑戦、5.3後楽園ではアジャ・コングと対戦したがいずれも敗れている伊藤は、このトーナメントで明確な結果を出したいところ。一方のらくはアップアップガールズ(プロレス)のメンバーで、デビューから1年5カ月たった今も自力勝利がない。

らくがアプガ(プロレス)のオーディションを受けたのは、あくまでアイドルになりたいから。過去にスポーツ経験もなかった。アイドル活動と並行してのプロレスの練習はひたすらきつく、何度もやめようと思ったそうだが「やめたいと言い出せなくて」練習に参加しているうちにプロテストに合格、レスラーデビューとなった。

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(得意技のスリーパーなどで健闘。トーナメント参戦によって、勝ちたいという気持ちはさらに強くなったっとも)

アイドル好きで電車から景色を眺めるのが好き。もともと人と争うような性格でもなく、一言でいえば“おっとり”しているらくは、驚くべきことにリング上でもおっとりしている。なんだか試合の雰囲気がふわっとしているのである。

当然、勝てるわけがないのだが、それはそれで得難い空気感。いつの間にか、らくは東京女子プロレスになくてはならない存在になったと言っていい。試合ぶりも少しずつよくなり、初勝利まであと一歩、あと半歩という試合も出てきた。そんな中で決まった伊藤とのトーナメント1回戦だ。

「先輩アイドルを食って、初勝利が大金星もありうるんじゃないか」

そんな機運が高まっているのを、伊藤も感じていたという。だからこそ、伊藤は容赦しなかった。6分16秒という短時間でギブアップ勝ち。力の差を見せつけての2回戦進出だ。らくも河津落とし、河津落としのフェイントからの丸め込み、チョップ連打など食い下がったが、やはりまだ伊藤には及ばなかった。

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(フィニッシュは今年から使い始めた。伊藤スペシャル。テキサスクローバーホールドとは違う技とのこと)

アジャ戦後の「小顔整形」告白が話題になった伊藤だが、プロレスへの取り組み方は生半可なものではない。それは体つき一つ見ても分かる。よく頑張った。しかし、らくが初勝利を掴むには、まだまだ実力をつける必要があるということだろう。試合開始のゴング直前に涙を見せ、伊藤から「試合前から泣いてんじゃねえよ」と叱咤される場面もあった。だが、この涙は怖気付いてのものではなかった。らくはインタビュースペースで、こう振り返っている。

「緊張もあったんですけど、伊藤さんの(入場時の)歌の歌詞に感動して涙が出てきてしまって。それはすごくいい意味で」

伊藤の入場曲は、所属ユニット・トキヲイキルの『Brooklyn the hole』のソロカバー。確かにいい曲だが「憧れのレスラーとの対戦に、相手の入場シーンで泣いてしまった」というのではない。もちろんトーナメントゆえの緊張や興奮もあったが、歌いながら入場する伊藤の、その歌詞に感動して泣いたというのである。リング上のレスラーが。おそらく史上初だろう。

純粋といえば純粋、レスラーらしくないといえばらしくない。取材を驚愕させたらくの「涙の理由」は、しかし彼女にしかない感性だ。「プロレスとはこういうもの」という常識に囚われていないからこその涙だった。

いつかその感性が、リングの上で花開くこともあるだろう。らくは伊藤とは違う形で、唯一無二のレスラーになる可能性がある。このままおっとり成長してほしい。

文・橋本宗洋

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