集団の統率者であり、チームの顔でもあるキャプテン。しかしその役割はそれぞれで大きく違う。
柱谷哲二のようにピッチ上で味方を激しく鼓舞する姿を見せる闘将タイプや、中田英寿のように寡黙ながらもプレーで引っ張るタイプ、宮本恒靖のように冷静沈着でチームに大きな安心感を与えるタイプ、それらを併せ持った長谷部誠のようなタイプなど、日本代表で振り返っても様々なキャプテンがいる。
そういった秀でたものを持ったキャプテンが多いが、チームをまとめるのはそういった特徴だけではない。FC町田ゼルビアでキャプテンとして2年目を迎える井上裕大は“究極のバランス力”でチームを束ねる。
キャプテンなのにいじられキャラ
井上のプレースタイルを説明するのは少し難しい。ダブルボランチを組むロメロ・フランクは中盤での潰しからボールの運び、フィニッシュまでできてしまう派手さがある。一方で井上には攻撃面でも守備面でも突出したものがないように見えるため、観戦している人には少々物足りなさがあるかもしれない。
しかし、この関係性こそ井上の良さが存分に発揮されている。ロメロ・フランクの攻撃性は確かに魅力的だが、ボールをロストした瞬間にそこが穴になってしまう諸刃の剣でもある。その空いたスペースをしっかりとケアし、相手の攻撃に備えるのが井上の仕事だ。
攻め上がりによって抜けた穴をカバーし、セカンドボールを回収して味方につなぐ。一見地味だが、ポゼッションして相手陣内に人数をかけて攻めるゼルビアにおいて、相手のカウンターアタックを未然に防いでくれる井上の存在は大きい。
また栃木SC戦で見せた豪快なミドルシュートのように、ここぞのチャンスにはしっかりと攻撃にも顔を出して厚みを持たせるなど、プレー面におけるバランス能力が高い。
そうしたバランス能力はピッチ外でも発揮されている。34歳になる中島祐希などのベテランから高卒ルーキーである18歳の佐野海舟のようにゼルビアの年齢層は幅広い。30歳になった井上もベテラン選手の域だが、キャプテンでありながらチーム内では屈指のいじられキャラだと言う。
戦う集団である以上はストイックに勝利だけを求めてやることが前提だ。しかしそれだけでは息が詰まるのも事実。井上はそこのバランスを見極めることに長けており、だからこそほかの選手からも信頼が厚い。
そんな井上は次節に古巣であるV・ファーレン長崎との試合を迎える。大分出身であり大分トリニータユースからトップに昇格し、その後長崎でプレーするなど九州を離れたことがなかった井上は、移籍してきた2016年に「東京は怖い」と漏らしていた。
それから3年が経ち、今ではすっかり大都会に馴染んだ様子で、さらにキャプテンを任されるほどの選手となった。2年ぶりに迎える古巣との一戦でどれだけ成長した姿を見せられるかに期待したい。
文・川嶋正隆(SAL編集部)