いつの間にかすれ違い、会話することもなくなった父との絆を取り戻そうとする息子が、子供の頃、一緒に遊んだゲーム「ファイナルファンタジー」の、オンラインの世界に父親を誘い、自分は正体を隠して父親と共にゲームの世界で旅をする。累計アクセス数1000万を超え、書籍やドラマ化もされた人気ブログをもとに映画化した『劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』が6月21日(金)より公開される。主人公のアキオ役を坂口健太郎が、息子アキオの密かな計画とは知らずに、次第にゲームに夢中になっていく父親・暁役を吉田鋼太郎が演じている。近年、大ヒットドラマ『おっさんずラブ』の人気で若い女性たちからも注目を集める吉田が、今回は寡黙で家庭の中では居場所のない父親という役どころに挑戦した。実写パートとゲームパートが融合した本作にどう取り組んだのか振り返ってもらいながら、近年のドラマで続いている若手俳優との共演の面白さを聞いた。
「実話だから、見る人に一層勇気を与える」
ーーまず、本作のオファーを受けた時の気持ちを教えてください。
TVドラマ版では大杉漣さんがなさっていた役ということで、すごく光栄で、責任重大だと思いました。天国の大杉さんに恥ずかしくないようなお芝居をしなくちゃいけないなと…。大杉さんとは何回か共演もさせていただいてますし、俳優として大好きな方だったので、身が引き締まる思いでした。それと実は、僕はこう見えてゲーマーなんです。仕事でテンションをあげて帰って来るじゃないですか。で、寝る前に気持ちを鎮めるために、軽くゲームをやるんです。『みんなのゴルフ』『グランツーリスモ』とか。ゲーム歴でいえば、ファミコンが発売されて最初に飛びついた世代で、『ファイナルファンタジー』は最初から新作までずっとやってきました。ようやく俺にファイナルファンタジー絡みの仕事が来たかと思いました(笑)。
ーー脚本を読まれた感想はいかがでしたか?
父と息子の関係の修復という心温まる話であることはわかったんですけど、その話にゲームの部分がどう組み込まれていくのか。実写とゲームの部分がどうリンクしていくのか、脚本を読んだだけでは具体的に絵として浮かばなかったです。撮影中も、実際にどうなるのかなかなか浮かばなかった。出来上がったものを見て、ああ、なるほど、実写の部分とゲームの部分がこうつながっているのかと驚きました。一度で、二度おいしいというか、目からウロコでした(笑)。
ーー脚本もいつもとは違う感じのものだったんですか?
いつもと同じです。でも、一冊の台本に、アキオとの会話の次に、いきなりゲームのキャラクターたちがしゃべり始めると書いてある。だから、最初はなかなか読み取りづらかった。
ーーオンラインゲームで、父と子の関係を修復するという話ですが、吉田さんご自身はどのように思われますか?
これがただのフィクションだったら、“物語”で終わってしまうと思うんですけど、本当に実話だから、見る人に一層勇気を与えるのかなと思います。親子関係がうまく行っていない人たちが見たら、ひょっとしたら自分たちも…と思う人もいるんじゃないかと。まあ、実際にやるのは難しいと思いますけど。なかなかできないと思う。だけど、親子の仲を修復したいと考えている人たちの、何か一つのきっかけになるんじゃないかなという気がします。
寡黙なキャラクターは初挑戦!?「ハードルは高かった」
ーー最近では『今日から俺は!!』の父親など、吉田さんというとテンションの高い役が多いですよね。今回、演じられた父親・暁は口下手で不器用で普通のお父さん役でしたが。
そうなんです。だから、ものすごく難しかったんです。普段の僕は暁みたいな寡黙な人間じゃないし、お芝居でもたくさんしゃべる役が多い。初めてと言っていいぐらいのキャラで、ハードルは高かったですね。
ーー具体的にいうと、どのあたりにハードルの高さを感じましたか?
健太郎くん演じるアキオにしゃべるのは一言、二言。そこに、自分の気持ちを凝縮しなくちゃいけない。たくさんしゃべれれば、説明がつくというか取り返しもつくのですが、一言二言なので難しい。たとえば、「友達申請するのを、教えてくれ」というセリフがあるのですが、その言葉に全部、アキオへの父親としての気持ちを込めなくちゃいけない難しさ。それがずっと続くので、ヘトヘトになりました(笑)。しゃべる量は少ないけど、すごく集中力がいるし、寡黙なキャラを崩しちゃいけないから慎重にならないといけない。
ーーその暁の役とは別に、ゲームの中でのキャラクターのインディもありますよね。最初は硬いけど、だんだんゲームの世界に馴染んできて、言葉じりに『~ぴょん』なんてつけちゃう。見ている方は、そのギャップがおかしくて。
インディも難しかったんですよ(笑)。ゲームの中では筋肉隆々な勇者といった感じですけど、現実世界では岩本暁である。岩本のキャラクターから逸脱しては絶対ダメだし。普段は寡黙なお父さんなんだけど、ゲームの中では少しずつ人が変って、だんだんゲームが楽しくなってしまっているという線をやったんですけど、なかなかさじ加減が難しかったんです。
「あいつらに抜かれたくない!」若手俳優たちからの刺激
ーー舞台では以前から若い俳優の方たちとご一緒されていますが、とくに近年はドラマでも『今日から俺は!!』や『おっさんずラブ』などで若い方たちと仕事されてますよね。今回は坂口さんと共演して、刺激を受けたとか。何か発見されたことはありますか?
「若い人=経験値がない」「若い俳優=お芝居が未熟だ」という考え方が、最近、完全に払しょくされています。みんな凄いです。みんな一流な連中ばかりです。『今日から俺は!!』の賀来賢人、『おっさんずラブ』の田中圭に、そして今回の坂口健太郎も。だから刺激になる。たとえば、僕が実働75歳まで働くとして、これから15年の間に、あいつらに抜かれたくない! 「鋼太郎さん、ダメになったね」とは言われたくない!という気持ちが沸々と芽生え始めてます(笑)。 追いつかれたくないね。
ーーそのために、何か今やってらっしゃることは?
いやぁー、何をしていいかわかんない!(笑)。ただ、気持ちだけは若い奴らに負けるもんかと思っています。
ーーそんな“若い奴ら”の1人である坂口さんのお芝居を見て、ここはいいと思われたところは?
健太郎は普段、とってもニュートラルで物腰が柔らかくて、優しくて普通の青年なんです。でも、だからってナメてるととんでもないんですよ(笑)。一番初めに彼と二人でやったシーンで、アキオがゲームをやっている時に、暁が部屋をノックして「友達申請どうしたらいいんだ」って聞いてくるところがあるんです。その時、健太郎はゲームをやめ、いろんなものを片付け、何でもなかったようなフリをして、「何、お父さん?」って応える。そこまでの一連の芝居がうまいっ! いろいろやることがあるから本当はとても難しいのに、それを流れるようにやってのけたのを見たときに、「あっ、こいつもタダ者じゃないな」と思いました。全てのシーンをものすごい集中力でやってくる。普段はあんなに穏やかな普通の青年なのに、いきなり芝居モードに入って、やってのけちゃうんですよ。凄いですね、負けそうですね(笑)。
「“キュートなおじさん”以外の顔も舞台で観ていただければ…」
ーー先ほど、ご自身の俳優人生をあと15年とおっしゃいましたが、決めてらっしゃるんですか?
いや、決めてないけど、大体、そんなもんかなって(笑)。
ーーそんな寂しいこと言わないでください!最近は若い女性ファンもすごく増えていて、素敵なオジサマと言われていて、鋼太郎さん人気、凄いですよね!
いやぁー、それはどうだろう。まあ嬉しいですよ。道でも声掛けられますし。ただ、いろんなことが自由にできなくなったのがツラいですね。嬉しいこともあれば、ちょっと不自由なこともあります。
ーーとくに、『おっさんずラブ』以降は「カワイイ」って言われることが増えたんじゃないかと。
そうですね。どんどん言ってください、ぜひ(笑)。で、キュートなおじさんの私しか知らない方たちが、私に興味を持って舞台も見て下されば、また違う私を見せてあげられると思うんです。ぜひいろんなところを見て欲しいですね。
『劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』
6月21日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
監督:野口照夫(実写パート)・山本清史(エオルゼアパート)
脚本:吹原幸太
原作:「一撃確殺SS日記」(マイディー)/ ファイナルファンタジーXIV(スクウェア・エニックス)
出演:坂口健太郎、吉田鋼太郎、佐久間由衣、山本舞香、前原 滉、今泉佑唯、野々村はなの、和田正人、山田純大/佐藤隆太、財前直見
声の出演:南條愛乃 寿美菜子 悠木碧
配給:ギャガ
テキスト:前田かおり
写真:You Ishii