金融や財政の専門家が12回に及ぶ会議を経てまとめた金融庁の報告書。作成に携わったセゾン投信の中野晴啓社長は「本当にとことん議論してまとめあげたものなので、我々委員にとっては自信を持って提案したものだ」と話す。しかし、報告書がモデルケースとして記載した、高齢夫婦(夫65歳以上・妻60歳以上の無職世帯)の平均的な赤字額は毎月約5万円、30年生きるとすれば不足額は2000万円に上るというデータや、「投資などの資産運用」「自宅など不動産の売却」「生活費の安い地方への移住」といった提言がクローズアップされ、論争を巻き起こしている。
立憲民主党の蓮舫氏に「報告書を読んだか」と尋ねられた麻生財務大臣は「冒頭の部分、一部目を通させて頂いた。全体を読んでいるわけではない」と答弁。「これだけ国民の間で怒りが蔓延して大問題になっている。読んだら5分で終わる報告書を読んでいない」と批判された。結局、諮問したはずの麻生大臣は「これまでの政府の政策スタンスとも異なっている」として報告書の受け取りを拒否。しかし麻生大臣は2008年に発表の論文では「政府がどんなに「100年安心」と謳っても、自戒を込めて言えば、もはや信用する人は誰もいないのだ。年金制度はまさに「負のスパイラル」に陥っている。」とも指摘していた。
他方、自民党の二階俊博幹事長は「2000万円の話が独り歩きしている状況で、我々は選挙を控えているわけなので」と発言。野党側も参院選をにらみ、
「麻生さんが上から目線で"だから2000万円貯めろよ"と」「政府にとって都合の悪いものを隠し、ごまかそうとしている姿勢。これが(選挙の)争点だと思っている」(立憲民主党の枝野幸男代表)
「国民が怒っているのは"100年安心"が嘘だったと。自分で2000万円貯めろということはどういうことか、という憤りだ」(蓮舫氏)
「自分たちにとって都合が悪い、とりわけ選挙に都合が悪いからといって受け取らないというのも前代未聞」(国民民主党の玉木雄一郎代表)
「"100年安心"だと言っていたのがいつの間にか"年金をあてにするな。自己責任で貯金せよ"と。国家的詐欺に等しいやり方だ」(共産党の小池晃書記局長)
など、厳しい追及を続行。2か月ぶりに国会論戦に応じた安倍総理は「国民の皆様に誤解や不安を広げる不適切な表現であった」と釈明しながらも、「"100年安心"が嘘であったというご指摘があったが、そうではないということを申し上げさせていただきたい」と述べ、委員長の静止を振り切り、「皆さんに都合の悪い説明になると遮るのか」と反論する姿勢も見せた。
■舛添要一氏「参院選を控えていなかったらこんなことにならない」
第一次安倍内閣、麻生内閣で厚生労働大臣を務めた前東京都知事の舛添要一氏は報告書について、「総務省の家計調査を元に厚労省が計算した非常にいい数字を踏まえ、学者や金融の専門家が入った金融庁の市場ワーキング・グループが12回の会合をしてまとめたもの。5分では読めないが(笑)、よく勉強していて、決して悪い報告書ではない」と評価。その上で、年金制度そのものについて次のように説明する。
「野党の話を聞いていると、誤解があるというか、プロパガンダだと思う。私が厚労大臣だったら"100年安心だ"と堂々と論駁する。なぜなら100年安心というのは、所得代替率といって、現役の人が40万円で生活していたらその半分の20万円以下に年金が下がることはないということを基本にして組み立てた制度で、これを今から100年後も続けるということだ。確かに自分たちはもらえるのだろうかと不安になるのは分かる。しかし公的年金制度はどんな生命保険会社でも提供できないくらいに有利なもの。掛け金の半分を払ってくれるなんて保険はない。それを考えてもらいたい。1961年に国民年金ができた時は、支給を始めてから5年くらいしか生きないという前提だった。ところが今は65歳で定年退職して、90歳ぐらいまで生きるという前提からこういう数字になってしまう。やっぱり制度自体を手直ししながら持続可能にしなければ。仮に少子化対策がしっかりとできて、2人、3人、4人と子どもを持とうかなと思う人が増え、出生率が上がってくるとまたもらえるようになる。ただ、私は全ての制度を70歳からに、と考えている。80歳までピンピンしている人もいるし、60歳で病院通いの人もいるが、基本的には70歳まで働いて、70歳からしか年金はあげないとすればほとんど解決する。"60代後半まで働かせやがって"というが、私に言わせれば"70歳まで働け"だ」。
さらに舛添氏は「総理が"不正確で誤解を与える"と言ったが、あえて忖度すると、この発言は"赤字という言葉はどうなのか。70歳と90歳ではコストも生き方も違うのに単純に月5.5万円に30年をかけるというのはおかしいよ"、とおっしゃりたいんだろうと思う。そう解釈すれば総理がおっしゃったことはその通りだと思う。ただ、報告書を受け取らないというのは問題だと思う。やはり全て選挙だ。参院選を控えていなかったらこんなことにならない。12年前、"消えた年金"と言われた年金記録問題で大惨敗したので、悪夢が蘇ってきているのだろう。もらえるはずの年金をもらっていないお年寄りがたくさんいて、どうやってそれを取り返すかということで、私は自民党の参議院の政審会長として茂木敏充さんや世耕弘成さん、塩崎恭久さんとチームを組んで対応にあたったが、選挙で自民党は負けた。私も以前は150万票取れたのが、50万票しか取れず、落選するかと思った。しかし、安倍内閣は続き、私も厚労大臣として取り組んだ。しかし、今回は12年前の時とは全然違う。国民はこういう時だけではなくて、常に自分で考えないといけない。私は『ねんきん定期便』を作ったが、国民が無関心だったから社会保険庁がやりたい放題やっていた。まだ衆参同日選の可能性はなくなってはいない。与党としては、この問題がどう展開するかによっては、勝つために解散をした方がいいという選択肢を残しておかないといけない」と指摘した。
■森永卓郎氏「私なら来年からベーシックインカムを導入する」
一方、『老後破産しないために、年金13万円時代でも暮らせるメタボ家計ダイエット 』(扶桑社新書)などの著書もある経済アナリストの森永卓郎氏は「あの研究会には金融関係の人がたくさん入っていて、私腹を肥やすために国民に投資しろと言っている。でも、金融庁の調査で投資信託を買った人の46%が損している。利回りを取れるどころの話ではない。それでも厚労省とか金融庁に言われるままに報告書を作ったら"これは不正確で受け取れない"なんて、冗談じゃないと思っているだろう。10日後、安倍総理が緊急記者会見を開くと思っている。そこで消費税の延期と衆議院の解散を同時発表するというスケジュールだと思う」と話す。
「今の若い女性の場合は100歳まで生き残る可能性が20%ある。105歳まで生き残る可能性も5%弱ある。つまり安心するためには40年間分貯めないといけないということ。一方、65歳支給開始を守るとどんどん給付額は下がっていく。それを合わせると最終的に4割カットになる。すると私の計算では5780万円が足りない。そんなの貯金できるのかという話だ。このままいくと年金は夫婦で月に13万円くらいになる。大都市だったら年金だけで住むのは100%不可能だ。また、舛添さんが言った"所得代替率50%以上"、つまり現役世代の手取り収入の半分以上の年金を支給するというのは、5年前の財政検証で完全に行き詰まっている。だからとてつもないインチキをしている。私は当時、雇用政策研究会という委員会に属していたので、その手口が分かる。何をやったかというと、50%以上もらえるのは全部65~69歳、つまり70歳手前の男性の労働力率を67%にセットした。つまり70歳までみんなが働いて年金保険料を払えば財政収入になるし、彼らには年金を給付する必要がない。今は65歳から年金がもらえることになっているが、それを事実上70歳からに変えてしまえば年金制度はギリギリ持つと。委員会で私は"冗談じゃない。日本人男性の健康寿命を知っているか。72歳だ。これだと年金をもらい始めて2年で介護施設行きではないか"と反旗を翻してクビになった(笑)。そして、新しい財政検証の結果は出ているが、今は隠されている。選挙の後に出てくるだろうが、何が書いてあるかはほぼ見えている。60歳代後半の男性の労働力率は70.1%、女性も60歳代後半は53%台。つまり、みんな死ぬまで働けというのが出てくるのはほぼ間違いない」。
その上で、「野党がきちんとした代替案を出していないのも問題だ。このままほっといたら、真面目に年金保険料を払ってきた人が生活保護よりも生活水準が低くなる。私なら来年からベーシックインカムを導入する。赤ちゃんから老人まで全員一律7万円、4人家族なら月に28万円。全部やると財源は100兆円くらいかかるが、年金、生活保護、失業保険を廃止する。通貨発行益が450兆円あるので20年くらいは一切増税せずにばらまける。経済学を分かっていない人が政治家をやっているのでこういう訳の分からないことになっていると思う。世界で実験中だが、みんなうまくいっている。勤労意欲も一切阻害しないという結果も出ている。あとは財務省さえ決断すればすぐにできる。とりあえず赤字国債をバンバン出して、全部日銀に買わせればいい。なんの問題もないが、それを認めてしまうと今までの財務省の権力がひっくり返ってしまう」と主張。さらに「報告書は地方に行けと言っているが、過疎地域は物価が高いので無理。私が"トカイナカ"と呼ぶ、東京から50kmから100km圏くらいのところに行けば住居費がほとんどいらなくなるし、食費も劇的に下がる。物価も3割は安い。私も実践しているし、去年からは野菜作りを群馬の昭和村で修行中だ。つまらない仕事をしているより楽しいし、田植えはスクワットと全く一緒。体にいい(笑)」とも話していた。(AbemaTV/『みのもんたのよるバズ!』15日放送より)