【那須川天心インタビュー】“神童”と呼ばれて……号泣KO負けのメイウェザー戦振り返る
「神童」と呼ばれ、20歳にして「キックボクシング史上最高の天才」と称される那須川天心。RISE、RIZIN、KNOCK OUTなどに参戦し、キックボクシングとMMA(総合格闘技)の両軸で活躍している。
順風満帆な人生に見えるが、2018年12月、RIZIN.14において、プロボクシングの元世界5階級制覇王者であるフロイド・メイウェザー・ジュニアと対戦し、敗北。那須川はその場に崩れ、号泣した。
全世界に敗北した姿を映された那須川は今、何を思うのか。今回『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(テレビ朝日系)で“先生”として教壇に立った那須川にインタビューを行った。
メイウェザーに敗北する姿が世界中で拡散も……「勇気をもらいました」の声が殺到
高校時代は格闘技に集中するため、授業が午前中のみで終わる4年制に進学した那須川。当時の学校生活について聞くと、こう答えてくれた。
「クラスの人からは『格闘技やってるんだー』ぐらい。別に特別扱いっていうわけでもなく。『すごいね』って言われることもありましたが、そういうのは最初だけ」
笑う姿は20歳の好青年そのもの。父の勧めもあり、5歳から空手を始めたが、最初のうちは子供ながらに嫌だったという。
「メイウェザー戦は、父親から説教された後に、軽い感じで言われたんですよ。RIZINの企画で名前が挙がって『もしかしたらメイウェザーと試合やるかも』って」
ボクシング界のレジェンドとも言われるメイウェザー。年収は約300億円と言われ、「世界で最も稼ぐスポーツ選手」として名高い中、ラッパーの妻を口説いてトラブルになり乱闘騒ぎを起こしたり、観戦したNBAの試合チケット代790万円を踏み倒したりと、選手としても人間としても桁違いな“やばい奴”である。
しかも、メイウェザーが行うボクシングは両手にグローブをはめ、お互いに相手の上体を打ち合い、判定やノックアウトで勝敗を決する競技。一方、那須川のキックボクシングはタイの国技であるムエタイ(タイ式ボクシング)をモデルに日本で考案された格闘技。パンチやキックのほか、肘や膝も使うため、メイウェザーとはそもそも戦うフィールドが違う。
その上、メイウェザーとは5階級も違い、那須川には危険も伴った。もともと軽量級や中量級がヘビー級のボクサーと対戦することはタブーとされており、ルールも「有効打撃はパンチのみ」という那須川にとって圧倒的不利なものだった。
エキシビジョンマッチ(戦歴には残らない非公式試合)で、父親から切り出された話とはいえ、前代未聞の異例な試合。
そんな突発的な案にひるむかと思いきや、那須川は「いいよ」と1秒で快諾。そんなメイウェザーとの戦いを那須川はこう振り返る。
「パンチが当たった途端、急にメイウェザーの目のまわりが少し赤くなったんです。最初はヘラヘラしていたのに、目つきが変わり、ガードを変えてきた。記者会見のとき、メイウェザーはジャージ姿だったので、全く意識しませんでしたが、リング上で対峙して、今までにない感情になりました」
結果、メイウェザーとの戦いで人生初となるKO負けを経験した那須川。3度目のダウンになったところで那須川陣営からタオルが投げ込まれ、試合が終了した。
試合中「足が使えれば勝てるのに」という気持ちも少なからずあったはず。そんな那須川にとって敗北を喫したメイウェザー戦だが、対戦後のSNSでは「日本人がメイウェザーの顔にパンチを当てた歴史に残る日」「浅くてもパンチをレジェンドに当てられたんだから」「階級が上で土俵が違う世間に無理と言われるような試合に自分を追い込めるなんてすごい」など、那須川を称える声が続出。
「試合後に『那須川は誰もやらないことをやった』と言われたのは覚えていますね。本当によく立ち向かったって。『勇気をもらいました』って言ってくれたので、これからも僕の戦いを見て、何かに立ち向かう勇気を持ってくれる人が増えてくれたらうれしいです」
「“失敗”だと思わなければ、失敗じゃない」那須川天心が持つ強さの根幹
メイウェザーとの試合後、号泣する姿が全世界に拡散された那須川だが、本人は全く気にしていない。むしろ、前向きだ。そんな那須川が一番好きな言葉は「なんとかなる」だという。
「負けがあるからどんな人も強くなれる。『死ななきゃなんとかなる』って思っているんで。自分次第でこれからどうにでもなる。何か大きな失敗や、悔しい思いをしている人には『なんとかなるよ』って伝えたい。僕はどこか抜けているところもあって、完璧ではない人間ですが、失敗を“失敗”だと思わなければ、失敗じゃないんですよ。そう思えば、次に向かっていく思考が早くなりません?」
「前向きでいることを心がけているのか?」と聞くと、那須川はこう答えてくれた。
「心がけではないですね。自然にいつも前向きなんです。これでいいのか僕にも分かりませんが、性格なんでしょうね。自分は好きなことをやって、ブレずに生きていければいいと思っているので」
最後に、メイウェザーとの戦いを勧めた張本人である父について聞いてみた。
「常に自分が一番だと思っているので、格闘技界で目標とする人はいません。その中でも父親は尊敬している部分が多い存在です。毎日トレーニングですし、きついなって思ったことは数え切れないくらい、めちゃめちゃある。今の時代だと周りの人が心配してしまうかも(笑)」
突き詰めていくと、那須川が幼少期に始めた“空手”も父がきっかけだった。
「でも、父親がそうやって時間をかけて育ててくれたからこそ、今がある。父親がいなかったら、こんな風にはなれなかったと思っています。感謝しかないです」
那須川は今年6月2日に行われたRIZIN.16にてISKA世界フェザー級王座に挑戦し、アルゼンチンのISKAバンタム級世界チャンピオン、マーティン・ブランコに勝利。世界三冠を達成した那須川だが、強い相手と戦う上で、怖さはないのだろうか。
「試合が決まったときは『怖いな』って思いますよ。でも、怖さを埋めていくために練習がある。メイウェザー戦は公式戦とは比べられませんが、基本的に試合が始まるまでには、もう怖さはなくなっています」
今回、インタビュー同日である『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(6月24日テレビ朝日地上波放送 ※放送終了後完全版がAbemaビデオ配信)の収録後にも、練習を控えているという那須川。また、6月22日(よる7時~)にはAbemaTVの3周年記念番組「1000万円シリーズスペシャルマッチ 那須川天心VS亀田興毅」が生放送され、ボクシングルールで対戦する。
これからの戦いにも目が離せないことになりそうだ。
Photo:You Ishii