今シーズン、サンフレッチェ広島から期限付き移籍でFC町田ゼルビアに加入した増田卓也。ロンドン五輪アジア予選では全試合で選出されるなど、世代別の代表を経験してきた期待の星だった。しかしプロ入り後は、決して順風満帆なキャリアを歩んでいるとはいえない。
3度目のチャンスを生かせるか!?
サッカーの強豪校である広島県立広島皆実高等学校出身の増田は、全国高校サッカー選手権大会の85回大会、86回大会でプレーし2年連続でベスト8を経験した。さらに2連続で日本高校選抜に選出。流通経済大学に進学後も1年生から全日本大学選抜に選ばれるなど、アマチュア界のホープとして期待されてきた。
すると2012年、大学3年生から練習参加していた広島への入団が決定し、ついにプロとしてのキャリアを歩み始める。
ところが、広島には絶対的な守護神・西川周作が君臨。そのため増田は第2GKとしてベンチを温める日が続く。その西川が2014年に浦和レッズに移籍し、ポジション奪取のチャンスが巡ってくるも、ここでは林卓人との競争に敗れてまたも第2GKの立場に。
またロンドン五輪世代でもある増田は、U-23日本代表としてアジア予選の全試合に招集された。五輪の前哨戦であるトゥーロン国際大会も経験したが、本大会出場は叶わず、五輪メンバーから落選となった。
2017年からは心機一転、V・ファーレン長崎に加入すると一気にポジションを掴む。恵まれた体格を生かした堅実なセービングが持ち味であり、さらにGKにも足元の技術を要求する広島のスタイルに揉まれたことで増田は大きく成長していた。結果としてJ1昇格を果たした長崎では、42試合に出場するなど守護神として活躍する。
しかし、またも増田はこのチャンスを生かしきれない。J1での活躍が期待された2018シーズンだったが、このシーズンに加入した徳重健太とのポジション争いに敗れて、再びプレー機会を失ってしまう。
迎えた今シーズンからゼルビアに加入。ここまで全試合でゴールマウスを守る活躍を見せている。特にゼルビアは、高い位置から積極的にプレスを仕掛ける「ハイライン」を敷いている。そのため増田には今まで以上にディフェンスラインの裏のケアの意識が求められるが、果敢な飛び出しを見せるなどゼルビア加入後から自身のプレーの幅も広がった。
V・ファーレンをJ1昇格に導いた増田の経験はチームにとって大きい。さらに23歳の福井光輝、21歳の渡辺健太とゼルビアのGKは若い。29歳の増田にはピッチ外でもその経験を伝える大きな役割が求められている。
自身にとっては3度目の大きなチャンス。アマチュア界のホープながらも長い下積みを経験してきた増田だからこそ、今年に賭ける思いは強いはず。ゼルビアの昇格のため、そして自身がもう一皮むけるため。増田は大事なシーズンを戦っている。
文・川嶋正隆(SAL編集部)