無人偵察機を撃墜したイランへの報復攻撃を中止したアメリカが選択したのは「サイバー攻撃」だった。
両国の対立が深まる中、トランプ大統領はイランへの報復攻撃を指示したもの、「150人が死亡する」との報告を受け、攻撃開始の10分前に中止したと自らTweet。その一方、イラン革命防衛隊がミサイル発射などに使うコンピューターシステムに対し、アメリカがサイバー攻撃を実行したと複数のメディアが報じたのだ。
イランに対し、さらなる大規模な追加制裁を発動することも明言しているトランプ大統領。アメリカの思惑とは。
一連の動きとトランプ大統領の判断について、慶應義塾大学SFC研究所上席所員でサイバー防衛に詳しい安全保障アナリストの部谷直亮氏は「トランプ大統領としては、"イランに対して圧力をかけていけばイランは折れる"という側近の進言に従って色々な軍事的圧力や原油を止めるなどの行動を取ってみたが、イランは折れるどころか、むしろイランが後ろにいる可能性も疑われるような攻撃が中東各地で相次いでしまっている。そうした中で自国の無人機が撃墜されてしまった。このままでは攻撃がエスカレートしてしまうので、釣り合いを取るためにサイバー攻撃を判断したのだと思う。落ち着いた、当然の判断だと思う」と話す。
部谷氏によると、サイバー攻撃には「インフラ破壊・麻痺」「世論調査」「軍事施設等の破壊・麻痺」といったものがあり、戦争の概念や形を変える可能性もあることから、武力行使との境界線について国際的な議論が進行中なのだという。
「インフラ破壊・麻痺には、80年代にアメリカがシベリアにあるソ連のパイプラインを爆破したとされるケースや、北朝鮮が韓国に対して仕掛けた、ATMやクレジットカードを使えなくするようなもの。ダムや電力システムを止めるような攻撃も考えられる。また、世論調査は、いわば"お茶の間への攻撃"。大統領選の時、なぜかヒラリー氏のスキャンダルが重要な演説の日に出てくるなど、皆さんのスマートフォンに嘘のニュースを流すなどし、世論を変えようとするもの。軍事施設等の破壊・麻痺には、アメリカ軍が以前から研究しているとされるのが、軍事攻撃にあたって敵の防空網を一時的に沈黙させ、他の攻撃を助けるというものがある。今回、アメリカ側はイランの防空システムやミサイルを一時的に動かなくしたと言っているが、イラン側は全て防御したと言い張っている」(部谷氏)。
国際政治学者の三浦瑠麗氏は「自分たちは反撃できる、有事になった時にはこのくらいの能力が封じ込められてしまうんだぞ、ということを外交面だけでなく、アメリカ国民に対して見せつける意図や効果もある。また、"10分前"という情報がどれだけ正確かどうかは別として、150人の付随的な被害が出ると聞いたトランプ大統領が武力攻撃を止め、即座にサイバー攻撃を決断、実行されたということは、犠牲に関することも含め軍が予め説明をし、トランプ大統領が合理的にサイバー攻撃という選択肢を選ぶよう、ある種誘導したとも言える。さらにそれを受け入れるくらい、トランプ大統領もある程度は抑制的で正しい判断をしたと思う。政権内に好戦派がいる中、軍はよくやったと思うし、サイバーならばこれよりエスカレートしてどんどん死人が出るような状況にいかないぞという、アメリカの意思を示すことに確実に繋がっている」と指摘。「イスラエルのネタニヤフ首相は自分たちの入植地に"トランプ高原"という名前を付けるほどの、かなり"擦り寄り"・"抱き付き"戦略を取っている。すごく厳しい政治的状況に置かれている中で、"アメリカと俺は近いぞ。アメリカは自分の言う通り、イランに対して敵対姿勢を取ってくれるぞ"と国内向けに言いたい。それが今回のことで、イスラエルは"アメリカは思ったほど好戦的になってくれないぞ"という、"梯子外され感"を覚えたと思う」との見方も示した。
今後の展開について、部谷氏は「イランは"戦争にならない範囲で戦争になってもいい"という覚悟を持って、様々な武装勢力を使って挑発している。このまま行けば、イランは7月に核濃縮を再開するので、1年後にはイスラエルを攻撃する核兵器も作れる状態になってしまう。それを早く潰さなければいけないアメリカとしては、どうしようか戸惑っていると思う。放っておけばイスラエルが攻撃を開始してしまうので、イランに対しては強いことを言わなければならない。危機はどんどん高まっていく。イランは、アメリカに挑発しておいてほしい。そういうチキンゲームが続くだろう」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)









