
大日本プロレスのデスマッチヘビー級王者・木高イサミが初防衛戦を行なう。舞台は6月30日の札幌大会。挑戦者は植木嵩行、デビュー6年目の27歳だ。
イサミはプロレスリングBASARAの代表でキャリア17年、すでにインディーマット、特にデスマッチの分野で確固たる地位を築いている。デスマッチヘビーは2度目の戴冠。5月5日のビッグマッチ、横浜文化体育館大会で高橋匡哉からベルトを奪った。前回の王座獲得から時間が経っていたこともあって「イサミを王座へ」の機運は最高潮だったと言っていいだろう。
その人気と試合の充実ぶりから、長期政権樹立も期待できるのが今のイサミだ。BASARAでもトーナメント決勝進出を決めている。
しかし、挑戦者・植木に対する期待感もまた高い。挑戦表明したのは5月30日の後楽園ホール大会。この日、植木は高橋、佐久田俊行とのユニット「3代目血みどろブラザーズ」で6人タッグ王座を獲得している。キャリアで大きく上回る伊東竜二を植木がフォールしての勝利だった。

イサミも「今の試合を見て(挑戦を)受けないわけにはいかない」と、同格以上の相手と認めた上でタイトルマッチを受諾した。
元警察官という異色のキャリア、スト2・ザンギエフのコスプレがやけに似合う暑苦しすぎるキャラで愛されてきた植木だが、もの足りなさを感じていたファンも多いのではないか。思い切りのよさはあるものの、ここぞという“修羅場”で気後れしている印象があった。先輩レスラーに噛み付いたものの、マイクアピール合戦でやり込められるという場面も。
だがイサミに挑戦表明して以降の植木は一皮むけて“覚醒寸前”の雰囲気だ。6.12新木場大会では、イサミのチームを相手に6人タッグ王座防衛を果たしている。
6月23日の後楽園大会でもメインに登場した植木は、佐久田と組んでイサミ&塚本拓海と対戦。佐久田が塚本に敗れたものの、イサミをターゲットにした植木の気合いが目立った。蛍光灯を敷き詰めたボードに自分の体ごとイサミを叩きつけ、場外への敬礼式ダイビングヘッドバットも。この一撃は自爆に終わったが、インパクトという点で王者と挑戦者は互角の状態。「植木」コールの大きさがその証明だ。

試合後、マイクを握って「俺は負けてねえぞ!」とアピールした植木。しかしイサミは、その言葉に「三流レスラーか!」とダメ出しをする。タッグマッチでパートナーが負けたら自分の負け、一人でプロレスをやっているのかというわけだ。
過去の植木なら、ここで言い返せずに終わっていたはず。しかし今は違う。真っ向からの反論ではないにせよ「6月30日は俺が勝ってマイクでコテンパンにしてやる! お前ら(後楽園の観客)も見に来い! 沖縄から札幌行くより東京からのほうが近いだろ!」と強引に観客を巻き込んでいく。さらにイサミに「(敗者は)リングを降りろ!」と言われると、降りては戻りを繰り返してイラつかせてみせた。
イサミをはじめアブドーラ・小林、伊東、FREEDOMS王者の葛西純に竹田誠志と、デスマッチのトップファイターは総じてマイクアピールがうまい。凶器も言葉も、いかに武器にするかという“プロレス頭”が共通するのかもしれない。
総合的にはまだまだイサミが上。しかしマイクも含めて植木の勢い、成長度合いは文句なしだ。機運に関していえば「イサミ防衛、長期政権へ」と「植木、デスマッチヘビー初戴冠」は同レベル。「植木がどこまでやれるか」ではなく、勝つか負けるかの大勝負だ。そこまで植木が昇ってきたのである。
文・橋本宗洋
この記事の画像一覧

