(トーナメントは瑞希が涙の初優勝。シングルでの成長を示した)
東京女子プロレスが毎年開催しているトーナメント、東京プリンセスカップは今年で6回目を迎え、その決勝には瑞希とまなせゆうなの2人が勝ち進んだ。どちらも初の決勝進出。1回戦の組み合わせが決まった時点で両者の決勝を予想したファンは多くなかったのではないか。
瑞希は1回戦で団体のエース、前シングル王者の山下実優と対戦。まなせは過去2回のエントリーで初戦突破を果たせていなかった。だが、というよりだからこそ、瑞希とまなせには期するものがあった。
山下との対戦に不安も口にしていた瑞希だが、タッグ王者としてだけでなくシングルプレイヤーとしても結果を残したいという思いが強くなっていた。一方のまなせは初戦突破が課題。その上で、東京女子に自分のポジションを確立したかった。
“アイドル系”の選手も多い東京女子の中でグラビア出身、“大人”の自分はファンにどうアピールし、どう闘うか。瑞希もまなせも、ほぼ専属状態ではあるがフリーの選手。選手にもファンにも完全になじんでいるのだが、それでもまなせは「東京女子で自分に何ができるか」を模索していた。
瑞希は1回戦で山下に勝ち、2回戦では現シングル王者の中島翔子から3カウントを奪った。7月7日の決勝大会(準決勝・決勝)では、今年から東京女子に参戦している万喜なつみとのスピード対決を制している。
(小柄だが思い切りのいい攻撃が瑞希の武器。場外ダイブも得意としている)
一方のまなせは1回戦で愛野ユキ、2回戦で辰巳リカに勝利。準決勝ではアメリカ・AEW参戦でも話題の坂崎に勝っている。瑞希とまなせは山下、中島、坂崎と、歴代シングル王者3人を下して決勝に進んだわけだ。瑞希はトーナメント期間中にタッグ王座から陥落しているが、そのことで余計に腹を括ったのかもしれない。
ただ勝ちたいというだけではなく、この団体でレスラーとして生きるために結果を出すことがどうしても必要だった2人の決勝戦では、どちらの持ち味も存分に発揮された。瑞希はスピードとテクニック、そして細い身体からは信じられない打たれ強さ。
そんな瑞希と闘ったことで、まなせの迫力がさらに増して見えた。170cmの長身でウェイトもある。最近のまなせは、女子プロならではの華麗さにこだわらず、パワーを活かした攻撃を見せるようになっていた。この決勝大会では、坂崎、瑞希の機動力を殺すグラウンド技も光った。
まなせは今年4月、ガンバレ☆プロレスから派生した今成夢人プロデュースの『ぽっちゃり女子プロレス』(ぽちゃじょ)の旗揚げ戦に“エース指名”を受け参戦した。「ルェベルが違うデブ専」を自称する今成による興行はネタのように見えて、実は「体型も含めありのままの自分を肯定する」というテーマがあった。ここでまなせは今成と対戦。男子との試合は初めてだったが、リミッターを振り切った全力の真っ向勝負を展開している。
同日、同会場のガンプロ石井慧介プロデュース興行では「ラリプロ」マッチに参戦した。試合中にかかる人気選手の入場曲に合わせ、その選手の得意技を使うという試合形式。ここでまなせはラリアットを自分のものにした。パワーとサイズがものをいうこの技は、トーナメントでも大きな武器になった。
(9.1大阪では瑞希と中島が王座戦。王者・中島にとってはリベンジマッチでもある)
まなせが攻め、瑞希が粘って反撃する。団体史上でも屈指の激闘は、瑞希がキューティースペシャルでまなせを投げ切って勝利した。その底力には驚くしかなかった。
結果として、瑞希はトーナメント出場の3大会すべてでメイン後にマイクを持ち、大会を締めることになった。マイクやコメントはまだまだ苦手だが、それも“ひとり立ち”には欠かせない。
「みんなが自分を信じてくれているように、私も信じていいのかなって思いました。これで何かが変わればいいなって。変わるのは自分なんですけど」
優勝した瑞希は、9月1日のエディオンアリーナ大阪第二競技場大会で中島のベルトに挑戦する。関西初のビッグマッチ。神戸出身の瑞希にとっては“ホーム”に近い舞台だ。2年前、才木玲佳の王座に挑んだのも大阪大会。「もうベルト戦で負けたくない。人の期待に応えられる人間になりたい…なる!」と瑞希は言った。
敗れたまなせも、東京女子のトップの一角という立ち位置を確立したと言っていいだろう。「これまで、自分が東京女子の一員だと胸を張って言えないところがあった」というまなせだが、彼女は東京女子に溶け込みつつ“東京女子プロレスらしさ”の幅を広げる役割を担っている。
トーナメントが終わってから“夏本番”を迎えるのが東京女子プロレスの季節感だ。今年は8.25後楽園ホール、9.1大阪とビッグマッチ2連戦。まなせには、8月20日のぽちゃじょ第2回大会も待っている。これらの大会で、また新たなドラマが生まれるはずだ。明るくて華やかで笑える試合も多い東京女子プロレス。しかしそのリングに上がる選手たちは、誰もが自分の人生を必死に生きている。
文・橋本宗洋
写真/DDTプロレスリング