アメリカで州知事選の男性候補が女性記者の密着取材を断ったことが波紋を広げている。
依頼を断ったのは下院議員のロバート・フォスター候補で、地元ミシシッピ州の「ミシシッピ・トゥデイ」紙の女性記者、ラリソン・キャンベル氏が要請した取材内容は、選挙カーに同乗し15時間にわたる同行取材をしたいという要請に対し、「妻以外の女性とは2人きりにならないと決めている」として断ったというのだ。
フォスター候補は「妻と私は、我々の結婚生活に疑念を生じさせたり、損なわせる恐れのある、いかなる状況も回避するという“ビリー・グラハム(有名な伝道師)のルール”に従うという誓いを立てた。このような考え方をしていないキャンベルさんには申し訳ないが、私の決断は妻への敬意を表してのものだ」とコメントしている。CNNの取材に「男性はいつも攻撃にさらされている」「私は、女性が私を告発できるような状況に自分自身を置くようなことはしない」とも話している。
一方、キャンベル記者は女性であることで取材を拒否された「性差別」だと主張、「あなたがここで主張しているのは、女性はまず性的対象であり、記者であることは二の次だということだ」とし、男性の付添人を用意すべきだとも訴えている。
■付き添い人を用意すれば解決できたのでは…?
テレビ朝日の平石直之アナウンサーは「テレビの場合はクルーで行くのでこのようなことにはならないが、独自の情報を取りたいという思いは同じ。地元紙としてきちんと取材をして勝負したいと思ったのだと思うし、それなのに女性だからという理由で拒否された記者の思いもわからなくはない。ただ、候補者側としてはアピールの意味もあるだろうし、記者側も男性を連れて行けばいいのではないかと思う」とコメント。
元日経新聞記者でジャーナリストの中野円佳氏は「私も車に同乗して取材をしたことはあるが、15時間はちょっと長いと思うし、本当にそこまでの取材が必要なのかと思う。その意味では候補者の側の言うことには一理あると思う。ただ、保守派ということで、家庭を大事にしているというアピールで言ったというのもありそうだし、現地紙の報道によると、代替案を示しながらも"あなたは女性だから、同僚を連れてこないとダメだ"というような言い方をしたそうなので、言い方の問題もあったのではないかと思う」と話す。
「私もネタを取りたいという気持ちから夜に男性とお会いして、お酒は入っていなかったが、"ちょっとまずいな"と思うようなことは何度かあった。被害に遭ってからでは遅いので、2人きりにはならないようにし、朝食やランチで取材するようにした。逆に取材相手からも"若い女性が家の前で何時間も夜回りをしているのは嫌だから、携帯番号を教える。それで連絡取ってくれる?"とか、"喫茶店で落ち合って、そこで話をしよう"みたいに提案をしてくれた人もいた。女性記者だからアウト、ではなくて、コミュニケーションで十分解決できる部分もあると思う」。
元毎日新聞記者でノンフィクションライターの石戸諭氏は「15時間というのは双方にとってキツい取材ではあると思う(笑)。ただ、僕が記者をしていたのは#MeToo運動よりも前だったし、記者が候補者の車に同乗するというのは取材方法として当然あった。僕も女性候補者を取材しろと言われれば当然取材しただろうし、色々な方法を使って接近しようとしたと思う」とした上で、「選挙というのは色々な思惑が重なるものなので、話の本質は女性差別かどうかではなく、議員がどこまで取材を受けるべきなのかという点だと思う」と指摘する。
「ケースバイケースだが、候補者側としては何を書かれ、有権者にどう見られるのか危機管理として考えるはずだし、そこで自分にメリットがあると思わなければ取材は受けないだろう。そこで生まれる駆け引きが記者としての腕の見せ所だが、今回の記者側の主張はそこが足りない気がする。女性だという理由で拒否するのは理不尽だという思いは分からなくもないが、そこで闘ってしまえば議員側としてはやはり取材を受けない方いいと思ってしまう可能性がある。今回は代替案を受け入れるか、候補者側にスタッフを入れさせるとか、そうすることで十分に取材はできたと思う。そもそもの目的からすればこうじゃないか、とみんなで考えていけば分かる。日本でも管理職と呼ばれる人は圧倒的に男性の方が多いし、議員もそうだ。その意味で女性記者が取材しにくいのは確かだが、MeTooの流れや財務次官セクハラ問題などを受けて、官庁や政治家の中にも取材に関するルールが意識されるようになってきたとは思う。そもそも一定の緊張関係の中でやらなければいけないところを、人間関係をズブズブにすることでネタを取ってくみたいなやり方が許容され過ぎていた。その意味では、まさにハラスメントの問題を考える上で、極めて重要なことを提起しているとも言える」。
■カンニング竹山、女性マネージャーとの距離感に悩む
2017年に世界で広がった「#MeToo」運動。今年6月にはILO(国際労働機関)により職場でのハラスメントを禁止する初めての国際基準も成立。男性側は自らの言動に一層の注意を払わなければならない時代になった。「LeanIn.org」による調査では、「社外(レストランなど)で女性と1対1で交流するのを避けている」と答えた男性が48%、「職場での1対1での仕事や交流に気まずさを感じる」と答えた男性は60%という結果も出ている。また、対策として「女性と2人きりになるなら、『夕食』ではなく『朝食』」「女性とオフィスで2人の打ち合わせをするならドアは開放したまま」「飲み会でのハラスメントを未然に防ぐため、男性だけで飲む『ハラミ会』を行う」といった意見もある。
「男性学」を研究する大正大学の田中俊之准教授は「男性側も馴れてきているし、"妻を含めた女性のことを考えている"という理由なら周囲を納得させやすいと思う。そこで女性の権利を擁護するというスタンスで来られると、男女分断が進む恐れもある」と指摘する。
タレントの井上咲楽は「あまりにも厳しくなりすぎると、男性が横に追いやられてしまう"おじさんMeToo"が起きるなと思ってしまうこともある」、池澤あやかは「線引き難しいと言われるが、たとえば相手の女性の恋人やご両親が帯同していたとしても同じ言動はできたのか、それがわかりやすい線引きだと思う。被害に遭った当事者にとってMeToo運動は意義がある一方で、有名になることのために使われているとしたら複雑な気持ちになる」とコメント。
カンニング竹山は「僕の現場マネージャーは20代の女の子。僕の運転する車で一緒に仕事に行くこともあるが、たまに"ああ、風俗に行きて~"と言うと"最低です"と言われる。これもセクハラになってしまうし、車内で注意するのも密室でのパワハラだと言われればそうなってしまう。2人で飲みに行くこともあるけれど、それもよく考えると年上のタレントと社員。無理やり連れて行かれたと言われればそれまで。毎日一緒に働いている仲間だけれど、女性であり、後輩でもあるから難しい」と心境を吐露。
幻冬舎の編集者・箕輪厚介氏は「いつの間にか今週は誰を引きずり降ろそうかと生贄を探すピラニアみたいなヤツがSNSには多すぎて、本質が見えなくなってしまうのがSNS×ワイドショーの問題。MeTooについても、"あれだけクリエイターとしてブイブイ言わせてた奴が闇に葬られるって最高だよね"と。パワハラ・セクハラに限らず、最初は正しい問題提起になっていたとしても、それが健全に処理されなくなっていき、"残酷ショー"になっていく」と指摘した。
石戸氏は「僕は異議申立て運動として#MeTooが起きたことは非常に良かったと思う。ただ、あらゆるものが社会問題化し、炎上しやすくなっている今、言い方の問題からボタンが掛け違うことは非常によくある話なので、"おじさん側"というか、まだ潮流についていけていない人たちとしては"何を言われても批判されそうな気がする。かつてだったら許されたのに"となる。それに対して、"お前、意識低いよ""ついていけてない人が問題だ"みたいなことを言って終わりにしてしまえば、"俺たちの方が被害者じゃないか"という不満が溜まることになる。その先には、トランプ大統領のように極端なことを言ったり、世間の風潮に抗い、あえて正しくないことを言ってみたりすることに惹かれる層が生まれる。だからこそ、極端な運動をし、発言をあげつらってばかりでいいのか、ということは考えないといけない」と訴えた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)








