7月15日に開催されたDDTのビッグマッチ、大田区総合体育館大会には、豪華カード、異色カードとともに現実の厳しさを感じさせる試合もあった。その一つが、世志琥vs赤井沙希だ。2013年に赤井がレスラーデビューした際、6人タッグ戦で闘ったのが女子プロレス界トップの一角である世志琥。それ以降、赤井のキャリアにおける大事なポイントで対戦してきた。
「初めて負けたのも初めてタイトルに挑戦したのも世志琥選手で。次の転機も世志琥選手(が相手)と思っていました」(赤井)
しかし世志琥は特別な思い入れを見せなかった。記者会見の時点から突き放し、リングの上でもこれまで同様、容赦なく攻め込んでいく。エルボーにラリアット、投げ技にスリーパーホールドとすべてにおいてパワーが違った。
(顔面を蹴られた怒りもあり、試合後の世志琥は赤井を踏みつける。「これからもウチの獲物」(世志琥))
顔面を蹴られた怒りもあり、試合後の世志琥は赤井を踏みつける。「これからもウチの獲物」(世志琥)そんな世志琥に、赤井は蹴りで対抗。ジャンピング・ミドルキックにエプロンで走りこんでのPK。二段蹴り「新人賞」の連打も見せた。しかし、今年に入って開発した新技ケツァル・コアトルは惜しくもロープブレイク。ここが勝負の分かれ目となり、世志琥がダイビング・セントーンを2発投下して赤井を仕留めた。
世志琥の必殺技を一度はカウント2で返したところも含め、赤井の粘りも見えた一戦。赤井は「ケツァル・コアトルを出すときに“イキまーす!”を焦って言い忘れました。その言葉とセットじゃないから今日は未完成」とコメント。屁理屈のようでいて、赤井なりのこだわりがそこにある。「壁はいつか越えなきゃいけない」とも語った赤井。完敗とも言えるが可能性が残ったと見ることもできる、そんな試合だった。
(納谷は鈴木の関節技にギブアップ。しかしサイズとパワーが持つポテンシャルを感じさせた)
大鵬の孫、貴闘力の息子として鳴り物入りでデビュー、今年5月にリアルジャパンプロレスからDDTに移籍してきた納谷幸男はビル・ロビンソンの愛弟子、鈴木秀樹とシングルマッチ。ZERO1、WRESTLE-1、大日本プロレス、さらに女子団体アイスリボンでもベルトを巻いた硬軟自在の実力者・鈴木は場外戦で納谷を圧倒する。ボコボコにした挙句にコメントでもダメ出ししたリアルジャパンでの対戦が再現されるかと思われた。
だがリング内ではエルボーの打ち合い、コーナーへのボディアタック、さらにキックの連打と納谷が反撃を見せる。201cm、130kgの巨体とパワーを活かした闘いだ。ショートアームシザースから首を極める変形ネックロックにギブアップしたものの、やれることはやりきっての敗戦だった。
「リングで(納谷に)やればできるじゃんって言いました。心は折れてなかった。途中で嫌になったと思うんですけど」
鈴木は鈴木なりに、納谷にエールを送った。敗れた納谷は「鈴木選手の攻撃は一発一発が本当に痛かった。プロレスなめるなよと言われてるようでした。気持ちは全部ぶつけたつもりですけど、やっぱりまだ埋められない実力差、キャリアの差がある。そこから逃げるつもりはありません」。
粘り、反撃し、意地を見せる。プロレスラーとして大事なものを赤井と納谷は体現した。そこから“勝利”への距離をどう縮めていくか。敗者が「よく頑張った」と言われることには嬉しさも悔しさもあるはずだ。シビアでリアルな2試合だった。
文・橋本宗洋 写真/DDTプロレスリング