どうすれば相手に勝てるかを突き詰めると、どうなってしまうと自分が負けるかを知ることにもなる。そんな力を、将棋の藤井聡太七段(17)はハイレベルで身につけている。七冠独占・永世七冠などの記録を樹立した羽生善治九段(48)によれば「自玉が危ないという危険感覚も非常に優れている」という。詰将棋解答選手権を5連覇している“詰将棋名人”の藤井七段が持つ危険察知能力は、棋界の第一人者を驚かすほどのものだった。
そもそも将棋は、相手の玉を動けない「詰み」の状態にすれば勝ち。正解の手を指し続けることで、その「詰み」にたどり着くのが「詰将棋」だ。藤井七段は、超難問のパズルのような詰将棋でも、小学生時代から圧倒的な速度で解くことで、将棋界ではプロデビュー前から有名だった。趣味でも自ら作ることもあるだけに、この「詰み」に対する感覚はプロの中でも断トツと言える。
この感覚が、自玉の危険度を察知することにも活きると羽生九段が指摘したのは、7月21日に放送されたAbemaTVトーナメント決勝、糸谷哲郎八段(30)との第3局だ。解説を務めていた羽生九段は、こう語った。
羽生九段 受けのスキルの高さも証明した。詰みのところで、非常によく読めるので、自玉が危ないという危険感覚も非常に優れている。あと1枚駒を渡したら詰みとか、2手余裕があるとか、瞬間的に読み切っている。
難問の詰将棋を瞬時に解き、自作もするということは、実際の対局においても盤上がどう変化すれば詰みが生じるかを、圧倒的な速度で読めることにつながる。現状が詰んでいるかを考えるのとでは、実戦において決定的とも言える違い、差が出る。
実は藤井七段、公式戦の最終盤、負けを悟ったと思われる場面である行動に出たことがある。状況は、お互い持ち時間を使い切った後の1分将棋。解説していた棋士からも、藤井玉に詰み筋があると指摘されるほど追い込まれていた。ここで藤井七段は、相手に考える時間をなるべく与えないように、60秒のうちほんの数秒だけ使って指し、相手の手番とした。結果はある一手から詰み筋が消え、一気に逆転勝利。相手よりも先に自玉の詰みを見つけられることで、こんな大逆転劇を“演出”できる可能性もあるのだ。
1時間以内で終わる早指し戦でも、12時間に渡る長時間対局でも、目指すものは「詰み」。この点において究極レベルのスキルを持っているからこそ、攻守にいきる一手を、あっという間に見つけ出す。受けに回った藤井七段の一手も、決して目が離せない。
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