投票率24年ぶりにが50%を割り込んだ参院選。その要因の一つとして考えられるのが、メディアの報道量の問題だ。19日付の朝日新聞が『「視聴率取れない」参院選、TV低調 0分の情報番組も』としてテレビの問題を取り上げており、とりわけ選挙戦後半はジャニー喜多川さんとジャニーズ事務所に関する報道や、闇営業問題をめぐる一連の吉本興業報道によって、政治報道は一層低調にものになってしまったようにも見受けられる。

 他方、政党要件を満たしていないといった理由から、テレビの選挙報道で扱われる機会の少なかった「れいわ新選組」「NHKから国民を守る党」がネット選挙の活用により議席を獲得するなど、新たな現象の萌芽も見られた参院選となった。元NHKアナウンサーで、ジャーナリストの堀潤氏は、今回の参院選をどう見ていたのか。

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 テレビは選挙期間中になると途端に個別の候補や政党の主張に関する分析・評価ができなくなりますが、その表向きの理由は公正・公平を欠くからということです。しかしそれは1時間よりももっと短い尺の中で紹介するためには、という話であって、極端な話をすれば、選挙期間中は毎日24時間のうち8時間くらいは候補を招いて討論をしてもらうなど、選挙に関する番組を放送することだってできるはずです。特に"公共放送"として「健全な民主主義の発展と文化の向上に寄与する」と謳って受信料を徴収しているNHKは、災害、そして選挙報道に関してはきちんとその力を発揮させるべきで、比例は全国ネットで、各選挙区は地方局でカバーすることだって可能でしょう。やればできるという話で、本気になっていないだけです。

 党首討論会だって、大きな主語で語らせて、「賛成か反対か」「1分間でお願いします」と、早いパス回しのサッカーのように聞いていく。出る側としては、「都市部に住む、こういう年収の層に対してはこうで…」と、細かく説明もしたいはずですし、見る側も、他の候補とどこまでは一致していて、どこからが折り合えないのか、といったことが知りたいと思っているのではないでしょうか。

 それなのに開票日の夜8時を過ぎると、全ての局が特番を組んで、急に各党や各候補の政策の解説や選挙戦の分析をしだす。これこそ期間中に生々しくやってほしいわけですよ。「それをやっても視聴率が」云々、「特別編成になるから」云々と言いますが、それは局側の都合であって、電波は公共のものですからね。

 テレビだけではありません。僕は各地のJC(日本青年会議所)が主催する候補者の公開討論会のファシリテーターを務めたこともありますが、これこそホールなどもインフラも持っている地方紙、ラジオ局も含めたローカルメディアが開催すべきだと考えています。メディアとしては、「出てこない候補が現れたらどうしよう」と言うのでしょうが、それもびびり過ぎだと思うんです。呼んだのに出てこない、それも一つの情報だと思いますし、出てこない方が悪い(笑)というくらいで良いのではないでしょうか?100人いれば100通りの考え方がある。それらをゆっくり時間かけて話そうじゃないか、そういうものを作るのがメディアの役割ですよね。

 そして、メディア語られる「政治」って、投票率が低い=悪で、政治意識がない=権利放棄で、「民主主義の当事者としての意識を持つべきだ」「投票に行かない若者は損している」、だから選挙に行きましょう、という具合に、最初から一方向の道しるべがありませんか。そして、登場するのは僕のようなメディア人や政治に関する専門家、一般の有権者のVTRも、整った意見を持った人ばかりであるかのように編集されてしまっている。それって、普通の人たちにとってのリアルな感覚とは違うのではないし、自分が参加できる場所はでないんじゃないかって思わせる結果になっていませんか。

 例えば今国会では54本の法案が通っていますが、その中には外国人のための「日本語教育推進法」など、今後の日本にとって重要なものも含まれているんです。それえらがどのような議論を経て成立していったのか、あまり報道されていません。また、各党のマニフェストからも得られるものもあるけれど、前回の選挙から、どうだったのか。実行したのかしなかったのか、できなかったのか、今回は何が変わったのか。そういうことも含めて読み解いていくのはとても難しい。そういう分析、解説こそ、メディアに頑張ってほしい。現状では、各社の開票速報ページすら、時間が経つと消えてしまいますけれど…。

 そういう状態のまま、「もっと考えろ」とか「もっと参加を」というのは、やや責任放棄のようにも思えます。

 若者に投票を促す目的の、海外の煽りネット動画。ああいうものを積極的に拡散するのも、メディア人としてはあまり賛成できないですし、むしろ一線を画すべきだと考えています。感情に訴えかけて拡散させる、プロパガンダにも似たあのようなアプローチを政党が用いた時、きちんと批判することができるのでしょうか。

 一方で、SNSに代表されるインターネットは能動的に情報を取りに行くメディアでもあり、フィルターバブルによって自分とは異なる考え方に接触する機会が減ってしまうため、先鋭化もしやすく、熱狂の渦にいるような錯覚を覚えてしまうこともあります。しかも同調圧力が激しく、すぐに「そんなこと言ってんの?バカだな、情弱だな」とか、関心がないことがわかると「意識の低いヤツだな」みたいに言われてしまう。

 そうした自戒を込めて、僕はやるべきことをやろうと思い、いくつかの取り組みを試みました。

 一つは、先日、AbemaTVとTwitterのコラボ番組の司会を務めたことです。Twitter Japanのオフィスに主要政党の現職議員を招き、マイノリティ、夫婦別姓、同性婚など、今回の選挙の争点にもなっているテーマを1時間にわたって議論しました。はじめに宣言したことは、「とにかく今日はボクシングのような打ち合いではなく、現状の課題と、それぞれのアプローチ、処方箋を出し合う場にしましょう」と。出席した議員の一人、元法務大臣の松島みどり議員は、自民党内にあって選択的夫婦別姓の立場で闘ってきた議員です。時間はかかりますが、何が進まない原因なのか、丁寧に聞いていくことで、すごく理解が進みました。のべ70万人の方に見て頂き、与野党の議員ともに、終了後に「こういう討論。もっとやんなきゃな」と言っていましたね。

 二つ目が、毎晩の”Twitter”番組です。まず、恵比寿駅前から1時間、街頭インタビュー歴18年の腕を駆使しまして(笑)。僕に寄せられるリクエストとして、政治に関心のある"政治厨"でもなければ"堀ファン"でもなく、ただただ一般の声を拾ってほしいというものが多かったからです。

 心がけたことは、どんな意見があっても「それはおかしいよ。こうするべき」といったことは一切言わない。そういう空気を作り、若い人の間では、行かない人の方がもはやマジョリティになっていますよと教えてあげると、「良いんですか?こういうこと言っても」「行かないっすけど、ヤバイですよね、そういう感覚もあります」と話し始めてくれます。

 「年金?何についての判断をすればいいのかわからない」「消費税増税は嫌だと言ったところで変わるわけでははないし、上げないといけない理由もわかるし」「安全保障なんて国におまかせするしか無いし、それより自分の生活のこともある」「住民票がこっちにないから、見守り系ですね」。中には、「どの政党を支持してるとか言ったの初めて。特に言う機会が無かったんで」「お前、マジでけっこう考えてたんだね」という会話が生まれた大学生もいました。

 いろんな人の素朴な意見に触れて、視聴者の皆さんは"自分だけじゃなかった"と、少しホッとしたようです。報道に触れていると感じる、やんなきゃいけないのかなという焦燥感があったのかもしれませんし、そこまで強い関心があるわけでもない人が話す場がないんだなとも感じました。かえってメディアが同調圧力になってしまっていると。だって、テレビで街頭インタビューをする時に、「無理して行かなくたって良いですよ」なんて言いませんからね。どちらかと言えば、責められるかもしれないからって、無難なことしか言わないのでしょう。

 さらに19日には、「選挙ドットコム」さんと共同企画として「西田亮介さんと松田馨さんと堀で語る、各党マニフェスト徹底評価と2013年自民党公約の採点!」と題して、専門家を招いて配信してみまたし、投開票当日の夜にはAbemaTVの開票特番を見ながら、宇佐美典也さん、駒崎弘樹さんたちと話す企画もやってみました。

 6日間にわたっておこなったこれらTwitter番組も、のべ20万人の方にご視聴いただきました。「若者の投票率が低くて問題です」とか、「過剰な言葉がネット上には踊っていて、ポピュリズムが、分断が起きてます」とか、高みに立ったような俯瞰した解説はいらないから、本当の情報がほしいよねという、そういう人たちの声に応える取り組みを、これからも続けていきたいです。
 

■プロフィール
1977年生まれ。ジャーナリスト・キャスター。NPO法人「8bitNews」代表。立教大学卒業後の2001年、アナウンサーとしてNHK入局。岡山放送局、東京アナウンス室を経て2013 年4月、フリーに。現在、AbemaTV『AbemaPrime』(水曜レギュラー)などに出演中。

アベマ選挙SP~民主主義オワコン危機~』
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