雀聖と呼ばれるほど麻雀を愛し、『麻雀放浪記』という名作を世に遺した故人・阿佐田哲也氏。
稀代のばくち打ちであった氏の、この言葉をご存知だろうか?
「ギャンブルの中で人が最後に辿り着く『ギャンブルの王様』は、競輪である」
恐らくその理由は、最も“人間くさい”からであろう。
公営競技は大きく2つに分けることができる。
最初から最後まで全力疾走か、否か。
ハンデ戦があって横並びにならないことが多いが、針がゼロを指した瞬間に飛び出したら、後はひたすらオーバルコースを全力疾走するのがオートレースだ。
これら2競技が全力疾走なのに対して、スタートしてからしばらくは、ゆっくりと位置取りをしながら進んでいき、ラスト何百メートルというところで一気にスパートを掛けてゴール前での競い合いを魅せるのが、競馬と競輪である。
最初から飛ばしてはいけないというルールがあるわけじゃない。
競輪はおよそ2キロ走るのだが、最初から全力疾走して勝てるならそうすればいい。ただ、余程の超人じゃない限り、途中でバテてしまうだろう。
陸上の長距離走やマラソンと同じく、最後は全力疾走でゴールを駆け抜けるのだが、どこでスパートをかけるかが重要となる。
全体のペースは速いか、遅いか……うん、このくらいのペースなら、早めに仕掛けても脚が持つな。よし……今だ! イケッ!……ん? おい、どうした? なんで行かないんだっ!!!!
なんてことがあるのが競馬。
いくら調教しても、突然いうことを聞かなかったり、逆に想定以上の力を発揮したりすることがある。言葉が通じないから、何を考えているのかわからない。そんな“動物くささ”が競馬の魅力のひとつであろう。
一方、競輪はレースのペースではなく、相手の出方次第で仕掛けどころが変わってくる競技である。
相手といっても9車で走る場合、最初から1対8の戦いになるわけではない。“楽して走りたい”という利害関係が一致したもの同士がグループとなって「ライン」と呼ばれるものを形成し、当面はそれらが競い合うのである。
2番車の選手「明日のレース、同県の後輩(1番車)が出るなぁ……おい、明日は風よけになってくれるか?」
1番車の選手「いいですよ」
3番車の選手「先輩、自分はそのうしろで風をよけてもいいですか?」
2番車の選手「いいんじゃねぇか。ただし、ちゃんと付いて来いよ」
なんて会話がなされたら、123というラインが組まれることになる。
1が2と3の風よけになる代わりに、後ろから来るヤツをブロックし、ラインを長くすることで後ろから捲られにくくする。そういった役割分担をすることで、互いに楽して走れるというわけだ。ちなみにラインは出走表を見れば書いてある。
同じような会話がほかでもなされて123-456-789と9車が3つのライン(グループ)に分かれた場合を「三分戦」といい、最もオーソドックスな競輪のスタイルとなる。
ゴール前まではこの3ライン(グループ)がトップを奪い合う戦いがくり広げられるのだ。
残り800メートル辺りで誰かが動き始めるのが一般的。例えば789のラインが先頭を取りに来る(前に出てくる)。456もそれに続くと123は引いて、後ろに構えると……。
789-456-123
という形になる。7は一気に駆けて逃げ切るか?……いや、1が前に出ようと(ペダルを)踏んでくるまで慌てる必要はない。1はいつ動き出すか。後ろをチラチラ、場の巨大ビジョンをチラチラ。「いつもアイツは仕掛けるのが遅いから、まだ大丈夫だろう……」と目を離した刹那、1が一気にスパート! 8がブロックする間もなく、1はあっという間に7の前へ。2と3もそれに続く。
見事な出し抜き。かまし先行。
いかに他のラインを出し抜くかも競輪の見どころのひとつだ。
789はもうおしまい。残るは456の捲りだけ。それを2が巧みに横へ動いてブロックしながらゴール前まで流れ込めば、このラインの勝ちは見えるだろう。最後に、風よけしながら全力で駆けて疲れ切っている1に「おつかれさま♪」と2がちょい差しして、決まり手は2-1-3。
これが最もよくある競輪のレース展開であろう。
しかし7は納得できずに1へ聞きに行く。
7番車の選手「なんで今日はいつもより仕掛けが早かったんだ?」
1番車の選手「久しぶりに地元で先輩を勝たせたかったんですよ」
この、“人間くささ”。
馬に「なんで行かなかったんだよ?」と聞いても「ヒヒーン」くらいしか答えないだろう。
対してこちらは人間。理由はいくらでもあり、それは練習不足といったフィジカルな部分から、人間関係といったメンタルな部分まで、様々ある。いくらでも展開を予想できるし、同じ選手が走ったとしても、無数の展開を予想することが可能なのだ。
しかもそれは自分と同じ人間が考え得る範囲での予想。
推理小説を解くようなときもあれば、ヒューマンドラマのあらすじをなぞるようなときもある。
だから、おもしろい。やればやるほど、おもしろくなる。知れば知るほど、おもしろくなる。
もちろん、初心者がいきなりその境地に辿り着くことは難しい。
まずは3つのラインの先頭にいる選手、前述の例で言えば1と4と7の競走得点や勝率を見比べて、どの塊が勝つかを予想し、先頭と2番手の選手を表裏にした3連単の2点(1=2-3=123、213)辺りを買ってみて、レースを眺めていただきたい。
全力疾走のレースとは違った“何か”が、だんだんとそこに見えてくるはずだから。
文・ウエノミツアキ
(C)AbemaTV
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■ミッドナイト競輪
2011年から始まった深夜の時間帯に開催されている競輪の競走。全国の競輪場のうち小倉(北九州メディアドーム)、前橋(ヤマダグリーンドーム前橋)、青森、高知、佐世保、玉野、奈良、武雄、西武園、大垣、弥彦、別府、宇都宮、松阪、豊橋、松戸、川崎、伊東温泉、松山、函館、四日市の計21場で開催されている。基本的に各レース7車立ての7レース制で、第1競走の選手紹介は20時50分、最終第7競走は23時19分発走(一部の場で違いあり)。開催が深夜のため無観客で行われるが、ネット投票を中心に売上が年々伸びている。
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