8月16日、タイで開催された「ONE: DREAMS OF GOLD」で地元出身の女子キックボクサー・スタンプ・フェアテックス(タイ)が総合格闘技デビューし、3Rリアネイキドチョークで、アシャ・ロカ(インド)に1本勝ち。すでにONE Championshipでキックボクシングとムエタイの女子アトム級の2冠を達成している絶対王者が、“三刀流”に挑むMMAのタイトルに向け衝撃の初陣を飾った。
女子格闘技というより総合格闘技の未来を予見させるようなスタンプの歴史的なプロMMAデビュー戦だった。超人気選手、しかも地元でのMMAデビュー戦にプレッシャーがかかる。対戦相手のアシャ・ロカもアトム級を代表するハードパンチャー。軽量級に似合わずほとんどの試合で1ラウンドKOし、ボクシングでの実績をMMAの世界でもいかんなく発揮した“ノックアウト・クイーン”というニックネームに偽りはない。勝手の違うMMA戦にスタンプがKOされる可能性も十分にあり得たが、そんな予想は大きく裏切られることとなった。
いつものムエタイスタイルで構えるスタンプに対して、ロカは慎重にサークリングで様子をうかがう序盤戦。組合いになるとスタンプは、ムエタイ仕込みの首相撲で強烈なヒザを叩き込む。両者空をきる大きなパンチをかわし膠着するも、再び首相撲からヒザ蹴りのパターンにスタンプが持ち込むと、脇を差しながらロカの左足を払いテイクダウン。サイドから高速のニーオンザベリーと素早い動きからマウントを取り、拳を打ちつける。ロカもケージを利用して逃れようとするが、寝技への対応が鈍く組み付いてパウンドから逃れるのがやっという様子だ。ラウンド後半にはスタンプのマウントからの流れるような腕十字、回避すると低い姿勢からの強力なヒザ、さらにフロントからのギロチンからパウンドなど、学んだ技術を全て試すように1ラウンドを圧倒する。
2ラウンド、流れを変えたいロカがパンチを軸にスタンドでの勝負に挑む。対するスタンプはローキックで崩しにかかる。生命線といえるロカのパンチもローを警戒するあまり距離を詰めることができない。2ラウンドの後半は、スタンプがローキックで相手の左足を重点的に狙いダメージを蓄積させ、相手の攻撃を一切受けない距離を取り省エネモードでラウンドを終える。しかもゴングがなると笑顔でダンスを披露する余裕っぷりだ。
3ラウンドは後がないロカが胸元に飛び込んでパンチを連打。被弾するもののスタンプも冷静に2発3発とヒザを打ち込んで応戦し、1ラウンドのように首相撲から崩してテイクダウンに成功。スタンプは、マウントで小刻みに肘、パウンド、あらゆる体勢の防御に対して効果的な打撃を打ち下ろす。たまらず亀の体勢になったロカを引き剥がして最後はバックからのリアネイキドチョークでタップを奪った。
ジョシカクの勢力図を大きく変えるような正に「スタンプ・ショック」といえる今回の勝利だが、これはONE Championshipが取り組んできた育成の成果の勝利ともいえる。元UFCのレジェンド、リッチ・フランクリンを招聘した「ONEウォリアーシリーズ」でMMAに取り組んできたスタンプだが、前述のようにキックボクシングとムエタイでチャンピオンに君臨した上での3刀流への挑戦だ。
男子でも女子でも、キックからMMAへのチャレンジというケースは少なくないが、ここまでの高い完成度でのデビューは前代未聞。しかもスタンプ・フェアテックスは21歳と若くこれからの可能性は無限大だ。キックとムエタイのタイトルを防衛しながら、2年間しっかりとブラジリアン柔術とMMAのトレーニングを積むという綿密なスケジューリングをこなしてきたというのも驚きである。
試合直後、当然ながら日本の女子アトム級の選手の間でもスタンプ・ショックにざわめきが起きた。VV Meiはツイッターで「是非、日本大会で」とラブコールを贈り、「格闘代理戦争」からONEと契約し、デビュー戦で強さをみせた平田樹も「もっと頑張れば つえぇ人とやらせてくれる?」と、やはりスタンプを意識したコメントで名乗りをあげた。当然ながら勝利を重ねた先に現アトム級チャンピオンのアンジェラ・リーとのタイトル戦も視野に入れているだろう。
奇しくも、アトム級といえば同時期に日本でもRIZINで浜崎朱加とタイのムエタイ経由の成長株、アム・ザ・ロケットが挑むというフレッシュなカードが組まれている。競技の枠を超えてタイ勢がムエタイ一辺倒からMMAの世界に殴り込む、ワクワクするような女子格闘技の新たな潮流に注目したい。
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