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(「今成監督・主演まなせ」のコンビがパーソナルなテーマを叩きつけるのがぽちゃじょの醍醐味)

 8月20日、新木場1st RINGで「ぽっちゃり女子プロレス」の第2回大会が開催される。DDT系列の団体ガンバレ☆プロレス(ガンプロ)からさらに派生したもので、その名の通りぽっちゃり女子選手を中心にしたイベント。4月の王子ベースメント・モンスター大会が大好評だったことを受け、2回目が決まった。DDTの“大社長”高木三四郎は、今回の新木場大会が成功すれば後楽園ホール進出も考えるという。

 ぽっちゃり女子プロレス、通称ぽちゃじょをプロデュースするのは今成夢人。ガンプロ所属のレスラーであり、DDTの映像ディレクターであり、そして少年時代からの「ぽっちゃり好き」だ。『ビヨンド・ザ・ファット』という、ぽっちゃり女性たちのドキュメンタリー映画を監督してもいる。

「中学校の時に好きな子がいて、その子は足が太かったんです。その子のことをクラスのムラカミが『脚が太いからダメだな』みたいなことを言って。給食の時間だったんですけど怒りで箸が止まりましたね。その時からスレンダーな人が主流、やせてることが美しいんだっていう同調圧力を感じてて。高校生くらいからは、自分の癖(へき)を自覚するようになってきました。ムラムラするというか。自分はぽっちゃりした人が好きなんだなって」

 第1回大会を前に、今成からエースに指名されたのが東京女子プロレスを主戦場とするまなせゆうなだった。グラビア出身で、今成はその時代から注目していたという。もちろん、まなせには戸惑いしかなかったが。

「最初は何も知らされてなかったんですから。東京女子の甲田(哲也)代表にスケジュールを確認されただけで」とまなせ。自分がぽちゃじょに出場することはツイッターで知ったそうだ。

「ぽっちゃりって、まあ“デブ”の言い換えでしょみたいなところがあるじゃないですか。失礼な名前の大会だなって(笑)。でもそれが、こんな特別なものになるとは」(まなせ)

 ぽっちゃり女子プロレスというネーミングからは、誰もがバラエティ系、コミカルなネタ的イベントを想像するだろう。だが今成にはそのつもりがなかった。ぽちゃじょをプロデュースするのは、10数年に及ぶ自分の癖(へき)を全面展開するということ。それは世間の風潮に対する違和感の表明でもあったのだ。 

「スレンダーもそうですけど、女性に関して若いイコール素晴らしい、若くないと価値がないみたいな風潮も嫌で。今って若さの押し売りみたいなことがあるじゃないですか。ぽちゃじょはそういう風潮へのアンチテーゼにしたかった」(今成)

 まなせも闘っていた。東京女子プロレスは旗揚げ6年目の若い団体だ。選手も10代から20代前半が多い。プロレスラーには見えないほど細く、可愛らしい選手がキラキラと輝いている。そういうリングで、まなせは“大人”として居場所を作ろうと頑張ってきた。

「若くてかわいくてフリフリしてる子の中で、私はそっちじゃない方向性で行きたいと思っていて。でもそれが結果につながらなくてもどかしかったんです。そういう時に、私を肯定してくれたのが今成さん。ぽっちゃりなのがいいんだって。他の人が言いにくいことを言ってきたんですよね。いったいどういうつもりなんだとも思いましたけど(笑)」(まなせ)

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(4月の旗揚げ大会。エンディングは「Let it go」から電気グルーヴの「Shangri-la」。体型も性癖もすべてを肯定する空間となった)

 第1回大会のメインイベントは今成vsまなせのシングルマッチ。セクハラや下ネタをコミカルに扱うようなものではなく、完全な真っ向勝負で今成が勝った。ただ、それでも主役はまなせだ。「今のまなせさんが一番魅力的だよね?」と観客に訴える今成。「ありのままの自分を愛するしかないんだよ!」と、最後は『アナと雪の女王』の「Let it go」をまなせが歌い踊って大団円となった。

 おそらく史上初、ミュージカル仕立てで終わるプロレスイベント。バカバカしいようで感動的、笑いながらも「ありのままの自分を肯定する」という真摯なメッセージが伝わってくる大会だった。

「ラストはミュージカルみたいにしたいっていうのは考えてました。勝った選手が上から説教して終わるみたいなものにはしたくないなって。ぽっちゃり女性についてのドキュメンタリーを撮る中で、出ている人たちの心境が変わっていくのを感じたんですよ。愛されて、結婚したり子供ができたりして変わっていく。そんな人たちを撮りながら自分が感じたものを、ぽちゃじょの大会にも入れていかなきゃって」(今成)

 自分の思いを詰め込む。好きな音楽の力を借りる。ぽちゃじょのプロデュースについて、今成は「クエンティン・タランティーノの影響があるかも」と言う。「タランティーノも、足フェチっていう自分の癖(へき)を映画の中で思いっきり出してますから。音楽もそう。ぽちゃじょはサントラというかプレイリストが作れる大会だと思っていて」。

 そこがぽちゃじょの、今成の強みだとまなせ。

「カッコよくやろうとかキレイにまとめようというんじゃなくて、自分の好きなものを詰め込んでるのがいいんでしょうね。試合が終わった後のお客様の表情を見たら“今成さんは間違ってないんだな”と思いました。“そうだよね、やっぱり私ぽっちゃりだよね”とも思ったし(笑)」

 今成は男性ファンから「俺もぽっちゃり好きなんです!」と声をかけられることが増えたそうだ。

「もしかしたら、前は声をあげにくかったのかもしれないですよね。そう考えると、ぽっちゃり女性だけじゃなくぽっちゃり好きの男性にもテーマがあるかもしれない」

 男女関係なく、ぽちゃじょによって救われる人はたくさんいるんじゃないか、とまなせ。「もっと大きなものになっていく可能性があると思います、ぽちゃじょは」。

 8.20新木場では、今成はKO-D無差別級王者の竹下幸之介とシングルマッチを行なう。当然、DDTの頂点に君臨するチャンピオンとの試合を“ネタ”で終わらせるはずはない。ぽちゃじょはプロレスの興行であると同時に「今成夢人監督作品」だ。まなせはぽちゃじょをきっかけに「今成さんじゃなく今成監督と呼ぶようになりました」と言う。

文・橋本宗洋

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