今月30日に開幕するU-18ベースボールワールドカップ。選ばれた侍ジャパンのメンバーは内野手の7人のうち6人が右投左打のショートという選考となった。能力の高い選手がショートに集まる傾向が強いことがその要因と言えるが、その中でも最も大舞台での経験が豊富な選手となると武岡龍世(八戸学院光星)となるだろう。
昨年夏の甲子園では2番、ショートとして2試合に先発出場。1回戦の明石商戦では2安打1打点の活躍を見せてチームの勝利に貢献した。当時は2番打者という立場からもセンスはあるものの少し非力な印象があったが、秋からの新チームで中軸に座ると一気にその打撃はパワーアップを見せる。ドラフト候補として大きく評価を上げたのが昨年11月に行われた明治神宮大会だ。2試合で10打数4安打と連続でマルチヒットをマークし、初戦では翌年の選抜で優勝投手となる石川昂弥(東邦)からセンターバックスクリーンへ一発を放つ活躍を見せたのだ。このホームランで武岡の評価は“センスのあるショート”から、“強打のショート”へと変化することになる。
今年春の選抜は広陵を相手に初戦敗退となり武岡自身も1安打に終わり、その後は不振の時期もあったが夏には復調。青森大会では6試合で17打数10安打と6割近い打率を残し、集大成となった甲子園大会でも智弁学園戦でセンターへ一発を放つなど1年間で大きく成長した姿を見せつけたのだ。
武岡のバッティングフォームの特徴はタイミングをとる右足の上げ方にある。昨年秋まではかなり大きめに上げる一本足打法だったが、この夏は状況や相手投手に合わせて変化をつけるようになっていた。そして長打を生む源は、その上げた右足をしっかり踏み込める下半身の強さだ。智弁学園戦で放ったセンターへのホームランは、低めのボールに対してしっかり踏み込んでとらえたものだった。高校生の強打者の場合、金属バットということもあって腕力やリストの強さに頼って飛ばそうとして、木製バットになった時に苦しむケースが多い。しかし武岡は全身をフルに使ってスイングできるため、木製バットへの対応も早いと考えられるだろう。
そして武岡の魅力はもちろんバッティングだけではない。ショートの守備もフットワーク、スローイングともに高校生ではトップレベルである。アクロバティックなプレーを連発するような華のあるタイプではないが、堅実さとスピードさを兼ね備えており、見ていて安心感のある鳥谷敬(阪神)のようなタイプと言えるだろう。
今年の6月には武岡にとって刺激となる出来事もあった。八戸学院大学でプレーしている兄の大聖(3年)が全日本大学野球選手権で2打席連続ホームランの活躍を見せたのだ。大聖も試合後のコメントで「パワーは弟に負けない」と話している。選手としてのタイプは違うが、大舞台での強さは兄弟の共通した長所と言えるだろう。
兄の大舞台での活躍に刺激を受けて、武岡が世界の舞台でも甲子園で見せたような勝負強さを存分に発揮してくれることを期待したい。
文:西尾典文(にしお・のりふみ)
スポーツライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。