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(GCW日本大会2日目のメイン。G・レイバーの空中殺法を蛍光灯を括り付けたイスで迎撃した葛西。独創的な攻防が繰り広げられた)

 たまらなく刺激的な1週間だった。8月22日から、アメリカのデスマッチ団体GCW(Game Changer Wrestling)の選手、スタッフたちが来日。連日、血みどろという表現では生ぬるいほどの闘いを展開した。

 22日、23日は新木場1st RINGでGCW日本大会を開催。日本のプロレスリングFREDOMSが協力して行なわれた2デイズ興行は、チケットが発売早々に完売した。GCWは事前にFREEDOMSの会場で試合DVDを無料配布するプロモーションを実施。またネットでも彼らの動画を見ることができるが、それにしても予想以上の反響だった。

 ビッグネームが多数所属するWWEやAEWではなく、アメリカのインディー団体のチケットが完売したのだ。プロレスファンの嗅覚は鋭い。

 大会タイトルは初日が『WORST BEHAVIOR 最悪の行動』、2日目は『THE NEW FACE OF WAR 新たなる戦争のカタチ』。日本とは一味違うセンスがまたよかった。そしてリング上で繰り広げられた闘いも、我々がいつも見ている日本のデスマッチとはどこか違う新鮮さがあった。

 大会に出場したFREEDOMS社長・佐々木貴によれば「(GCW勢は)雑だねぇ! ヘッタクソなレスラーがいろんな凶器持ってひたすら大暴れする。これはこれで面白い。デスマッチの原風景だね」。

 GCWの選手たちが見せるデスマッチは、圧倒的にテンポが速かった。“タメ”や“間合い”よりも、チャンスと見たら即攻撃。観客が心の準備をする間もなく蛍光灯が割れ、選手が思わぬ角度、信じられないタイミングでダイブしてくる。初日オープニングの時点から「GCW!」コールを発していた日本のデスマッチファンは、このテンポにさらに煽られ、熱狂がまったく途切れなかった。

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(8.22新木場のメインではコロンが竹田にリベンジ。太平洋をまたいでのリマッチは時代性を感じさせる)

迎え撃ったのは佐々木に葛西純、竹田誠志に木高イサミといった日本を代表するデスマッチファイターたちだ。GCW遠征経験のある選手も多く、竹田は「アメリカでやった狂ったデスマッチが忘れられなかった」と言う。今回、GCW勢と組むこともあった佐久田俊行は、彼らのことをこんな言葉で表現した。

「もうデスマッチが好きで仕方なくて、血を流して闘うのがひたすら楽しいっていう選手たちですね」

 使われたアイテム(凶器)は蛍光灯など日本でもおなじみのものに加え電動芝刈り機も投入(もちろんスイッチONで攻撃)。金串、注射器が突き刺さると悲鳴が起きた。

 初日のメインでアレックス・コロンと再戦した竹田は日本代表らしく傷口にワサビを塗り込み、ノコギリを額に突き立てる。フィニッシュとなったのはコロンのダイビング・ダブルフットスタンプ。倒れた竹田の上に「包丁ボード」を乗せ、そこに飛び降りた。

 アメリカでは竹田に敗れたコロンだが、今年トーナメントを制すと日本でリベンジに成功。バックステージで「今のデスマッチキングは俺なんだ!」と吠えた。コロン、それに2日目のメインで葛西純と大激闘を展開したG・レイバーなど、“暴れる”だけでなく“動ける”“飛べる”選手も目立った。

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(来日最後の試合となった8.28後楽園。メインで対戦した葛西、クレイン、ロイド、竹田(左から)はお互いを讃えつつ、戦闘続行をアピール)

 8月24日には、大日本プロレスの後楽園ホール大会にGCWの選手たちが出場。25日にはFREEDOMS広島大会と大日本・名古屋大会で試合が組まれた。8.27プロレスリングBASARA新木場大会ではイサミとG・レイバーがハードコアマッチで対戦している。そしてジャパンツアー最終日はFREEDOMS後楽園・葛西純プロデュース興行。アメリカのデスマッチ戦士たちは各団体でファンを沸かせた。

 筆者は東京での試合をすべて取材したが、何よりも素晴らしかったのは選手たちのテンションの高さだ。毎日、異様なほどの血を流し、それでも目が輝いていた。どんなマッチメイクでもどの会場でも“ドーム級”の熱量と言えばいいだろうか。 

 GCWの選手たちにとって、このツアーは単なる“海外遠征”ではなかった。日本は世界で最もプロレスが盛んな国の一つであり、レスラーにとってもファンにとっても憧れの場所。後楽園や新木場での試合映像は世界中で見られている。いわば“聖地”だ。そこでデスマッチを行なうのは、ボクサーがラスベガスでタイトルマッチをするような感覚だろう。テンションが上がらないわけがない。

 8.28FREEDOMSのメインは葛西&竹田vsジミー・ロイド&マーカス・クレイン。葛西の垂直落下式リバースタイガードライバーonカミソリボードで敗れたクレインだが、試合後のリング上で「俺のヒーローであるカサイと闘えた」と感激を語った。

 デスマッチの世界的カリスマである葛西は、彼らを「ブラザー」と称えた。「葛西、竹田とここまでのデスマッチができる選手、そうはいないだろ」。

 またインタビュースペースでは、こんなコメントを残している。

「アイツらは兄弟、人類みな兄弟だ。今この世界中でいろんなことが起きてる。内紛もあるし、血を流して命を落とす人がいる。でも血を流す非日常はリング上だけでいいんだ。血が見たけりゃデスマッチを見に来い!」

 今このご時勢でこの言葉。コメントというより強烈なメッセージだ。そしてこれは、血を流すことを生業とするデスマッチファイターだからこそのリアルな実感なのだろう。

 ヘイトとは無縁に、リングの上の非日常は続く。これからも日本のデスマッチファイターがアメリカに渡り、GCWのリングで死闘を展開することだろう。もちろん我々が期待するのはそれだけでなく、GCWの日本再上陸。プロレスファンにはおなじみのチャント(コール)にならって“PLEASE COME BACK!”の言葉を贈りたい。

文・橋本宗洋

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