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 『武曲 MUKOKU』『銃』『チワワちゃん』など話題作に次々と出演。独特な存在感と確かな演技力で注目を集める俳優・村上虹郎が、今度はオダギリジョーの初長編監督作『ある船頭の話』(9月13日公開)に出演する。

 舞台は近代産業化とともに橋の建設が進む山あいの村。川岸の小屋に住み船頭を続けるトイチ(柄本明)は、村人たちが橋の完成を心待ちにする中、それでも黙々と渡し舟を漕ぐ日々を送っていた。そんな折、トイチの前に現れた一人の少女(川島鈴遥)。何も語らず身寄りもない少女と一緒に暮らし始めたことで、トイチの人生は大きく狂い始める……。村上虹郎はトイチを慕う村人・源三を演じる。

 監督・オダギリジョーを自身の“兄貴分”と慕いながらも、「ある意味一番残酷な人」と語る村上虹郎。果たしてオダギリ監督の現場はどんなものだったのか、そして本作でも描かれる村上虹郎の死生観とは。じっくりと話を聞いてきた。

オダギリジョー監督は「ある意味一番残酷な人」 過酷な撮影を振り返る

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ーー今回の作品も重めのテーマで考えさせられながら観させていただきました。しかも、ファーストカットから細野晴臣さんで驚きました。

村上:確かに驚きますよね。しかも(ミュージシャンなのに)あんなにたくさん出てくるんだって思いますよね。逆に俳優の浅野(忠信)さんの方が短いんですよね。オダギリさんはそういうところで遊んでいるのかなって。(笑)

ーー蒼井優さんとかもすごく重要な感じで出るかと思ったら…。

村上:贅沢な使い方でしたね(笑)。なので、現場ではほとんど(キャストの方たちには)会えなかったんです。柄本(明)さんや川島(鈴遥)さん、笹野(高史)さんには会えましたけど、橋爪(功)さんには打ち上げでお会いしました。草笛(光子)さんなんてまだお会いできてない!

ーーでは、お父様の村上淳さんとも打ち上げで?

村上:はい!でも、仲が良いのでメールで話していました。

ーー村上さんが演じた源三は重要なキーパーソンでしたね。お話がきたときはどのような気持ちでしたか?

村上:プチオーディション、面接のようなものが行われたんです。最初の台本では、トイチと源三が共に4、50代のバディものだったそうで、オダギリさんが片方をやる予定で、もう片方の人を探していたようです。でも、途中でその年齢設定を変えようとなって、年長者のほうが柄本さんになって、それでもう一人も若者になったんです。オダギリさんも「見てみないとなんとも言えない、とりあえず台本を読んでみようか」ということで僕は呼ばれました。なので、最初に僕がもらった台本は言葉遣いも大人のもので若くなかった。決まったときはめちゃくちゃ嬉しかったです。

ーー柄本さんをはじめ、永瀬正敏さん、浅野忠信さん、蒼井優さん、村上淳さん……と、かなり豪華ですよね。共演メンバーを聞いたときはどのようなお気持ちになられましたか?

村上:オダギリさんが好きなものって限りなく僕が好きなものに近い感覚があるんです。映画でいうとジム・ジャームッシュが好きだったり。オダギリさんは僕の兄貴分のような感じがします。

今回のメンバーはみんな馴れ合ってはいない。程よい距離感の中で、同士というか、肩を組んでいる感じではないんですけど、ちゃんと繋がっているファミリー感もすごくあるという。その関係性は心地がよかったです。

ーーオダギリさんはどんな方ですか?監督として関わってこれまでの印象と変わりましたか?

村上:『緑色音楽』(2017)という作品で共演させていただいたのですが、そのときオダギリさんは僕の叔父の役でした。そのときから印象としては変わっていないんですけど、オダギリさんって僕に対しても川島さんに対しても絶対に敬語をやめないんです。それが、三次会くらいでやっと外れるんですよ(笑)。普段は誰に対しても忠誠的で、スッとちょっと遠いところにいて、概念とし存在している、生っぽくない感じなんですけど、だんだんと出てきます。二次会ではまだ出てこないですね。三次会でようやく(笑)。お酒好きだというのは聞いていたのですが、三次会くらいで急にキャラ変して。僕の携帯のロック画面はジャームッシュの『ダウン・バイ・ロー』を別のアーティストが真似した画像なんですけど、それを隣にいたオダギリさんが見つけて「何これ!?」「ちょっと送って!LINE教えて!」って(笑)。オダギリさんのピュアなところが見えて嬉しくなりました。それまでは孤高の「オダギリジョーさん」という感じだったんです。

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ーーオダギリさんから村上さんへ細かい指導があったと伺いました。そこでも敬語だったんですね。

村上:はい、敬語でした。柄本さんもおっしゃっていましたけど「言葉遣いは丁寧でもやらせることはきつい」(笑)。ある意味一番残酷な人だと思いました。「いや、きついっす」とか泣き言は言えない(笑)。

ーーあのゴツゴツした岩場での撮影は大変そうです。

村上:岩場が本当に全部岩場なんです。平坦な道がない。僕らは草履みたいなものを履いてるので、痛いし、常に足つぼをされている状態です。ちょっとミスしたら怪我してしまうので、気も使うし、ずーっと脳みそが「危ない!」って足に意識を集中していて、疲れるんです。暑い以上に岩場に疲れる。僕できつかったので、出ずっぱりの柄本さんは本当に大変だったと思います。 僕はドラマの撮影と時期が被っていたので、3、4回東京と新潟を行き来したんです。でも、柄本さんもオダギリさんも同じく同時期にドラマに出演されていたので、みんな忙しかったはず。

ーーそんなみなさんが忙しい時期だったんですね! その中でもオダギリさんからの意外なリクエストはありましたか?

村上:今までの現場ではないレベルで、細かく台詞のトーンだったり間だったり、本当に技術論を教えていただきました。「ここさ…」って実際にやってくれる。「オダギリさんだ」ってなるんですけど(笑)。オダギリさんが見たい源三というのがあって、それに僕は近づこうとしていました。

ーー源三は前半と後半では印象がガラリと変わるキャラクターですよね。村上さんは源三をどういう人だと捉えましたか?

村上:夏から冬にかけて、僕(源三)の衣装は変わっているのに、川島さん(少女)の衣装は変わってない。その差、そこのコントラストがより痛々しく感じますよね。後半で源三が変わったように見えるかもしれませんが、彼にはもともとそういう要素があったと思うんです。その(要素の)比率が変わっただけ。

ーー前半の源三を演じているときも、その後の源三の展開を踏まえて“要素”を意識していましたか?

村上:匂わせている部分はシーン的にもありましたけど、あまり設定は具体的にはしなかったです。この映画って全部そうだと思うんです。具体的にはしたくない。トイチの気持ちの動き方も、台詞がないときはわかりにくい。いろんな意味で取れる。

ーーキャラクターたちの本音が見えないから気になりますよね。

村上:そうなんです。そこらへんも普段のオダギリさんらしさが出ているのかなと思います。それで、後半になったらセリフで本音を言いだすじゃないですか。それが三次会なんです(笑)。

ーーそこも一緒!(笑)

村上:「オダギリさんと同じだ~!」って(笑)。

ーー柄本さんからも哲学めいたものを聞いたと伺いました。

村上:iPhoneにめちゃくちゃメモしてるんです!基本的に柄本さんは現場では話す人ではなくて、特にカメラ前では一切無駄口を叩かない人。

冬の撮影で、トイチの感情が強く溢れ出すシーンで、寒い時期に何回も撮ったんです。そのときに、「無限の可能性があるね」ってポツリとおっしゃったんです。「無限の可能性があるね、その中から選ぶのが残念だね、アインシュタインの相対性理論みたいで、絶対だっていう人がいる、困っちゃうね、所詮真似事だからね、でもその人がやってるんだよね、面白いね」って。いくらでもお芝居というのは可能性があって、その中から選ぶというのは難しいことだと。

「笑われて死にたい」村上虹郎の死生観

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ーー本作では人の死生観も描かれていますよね。村上さんは憧れの生き様・死に様みたいなものはありますか?

村上:僕は笑って死にたいし、笑われて死にたい。それは死に方ではなくて「あいつ、逝っちまったな」という感じで(笑われたい)。もちろん死ぬ、二度と会えないということは悲しいことだし、涙も出る。僕も大切な人が死んだら泣くと思う。でも、僕が自分の両親を尊敬している部分は「あ、なんか死んじゃったな。でもあの人たちはあの人たちで楽しんでいたな」って思えるところ。うちの母親は「寝て、いつの間にか死んでいたい」って言っています。そういう話を親子でよくするんですけど、母親から言わせると「だって私たちは毎日死んでいるじゃない」という。「寝る」という行為は「死ぬ」という行為と同じなんではないかと。「それを帰ってくる(起きる)のをやめただけなんじゃない?」と。その考え方がすごくいいなと思っています。

ーーそう思うと死が怖くなくなりますね。

村上:そうなんです! ただ最近、「なんであんな事言ったんだっけ」とか自分の芝居とか、公私ともに自己嫌悪に陥りすぎて「あ~もう死にたいな」っていう気分になったとき思い浮かぶ自分の死に方というのがあって……それは、僕が宙に浮いてるんです。それで、0.1秒くらいの間に、横と縦に1000枚くらいの刃でシュパーンと切られて、100万くらいの破片になって、それを一気にバーナーで燃やされて消えるという。そういうイメージをするんです。そうやって死にたいってくらい悔しい思いをすることがあります。「笑って」なんて言えないくらい恥ずかしい。それくらい「消えたい」「消滅したい」。でも苦しみたくないから一瞬で(笑)。

ーー自分に厳しい、ストイックですね。

村上:いやいや!厳しいというか、悔しいときは、ですよ。自分のせいなので(笑)。

ーー今回の撮影中にもそれだけ自己嫌悪に陥ることはありましたか?

村上:撮影中というより初号試写を観るときはだいたいそうなります!自分がやったことを観なきゃいけないから観ますけど、本当は観たくない(笑)。

ーーご家族に観られるのも恥ずかしい?

村上:いやですね(笑)。

ーーでもお互いに意見を言ったり?

村上:します!親父は観たら言ってくれますね。基本的には親父は褒める。無駄には褒めないですけど、必ずいいところを見つけて褒めてくれます。

逆に母親は「あそこはさ~」って辛口です。でも褒めてもくれます。母親は関西人なので、ツッコミたくなるんでしょうね。僕も半分関西の血が入っているので、そういうところがあるんです。普段、標準語でしゃべっているのに、ツッコミ度が関西なんです。そうすると強すぎるんです。ラフな関西弁だとそこまできつくないんですけど、この標準語のまっすぐなトーンで強めにツッコんじゃって、たまにグサッと言っちゃうときがあって、それを反省しています。そういうつもりじゃないんだよって(笑)。

ーー悪意がないことを伝えたいですね(笑)。今日は楽しいお話ありがとうございました!

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テキスト:堤茜子

写真:You Ishii

時効警察
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帰ってきた時効警察
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